1-8.謎の2人組
「どっほっほ!愉快じゃ愉快じゃ!」
社会情勢学研究室でアホ4名がポーズだのテーマソングだのを決めている頃、そこから1駅ほど離れた中華街に奇声が響いていた。
「麻呂は満足じゃ。どっほっほっほっほ!」
妙ちくりんな笑い声を連呼するのは、2mほどの筆の先に平安時代の麻呂っぽい顔がついてる変な生き物だった。
その筆の周りには戦闘員のみなさんが墨汁入り水鉄砲を装備して、通行人を撃っている。
例の如く、ダークキャン・Dの侵略行為の光景だった。
「愚かな人間よ、この麻呂、やんごと筆様に平伏すがよいでおじゃる!」
前回のカオスチョコボールに続き、今度は『やんごと筆』だった。確かにやんごとなき言葉遣いだが、筆っていうのがとてもイタい怪人だ。
でも今回はちゃんと手も生えていた。
「チンパンG、そろそろお遊びは終いにするでおじゃる。さあ!この街のありとあらゆる紙を墨で黒く染め上げてしまうのじゃ!」
嫌ったいけど、世界的にはあんまり脅威じゃない命令を発するやんごと筆。
チンパンG達はその声に合わせ、一斉に手の武器を墨汁入り水鉄砲から、タップリ墨を含んだハケに持ち替えた。
「ちょっと、アンタら調子に乗りすぎてんじゃない?」
突然やんごと筆の背後から可愛らしいけど気の強そうな女の声がした。
「何者でおじゃる!?」
振り返るやんごと筆。
彼と一緒に戦闘員のみなさんも揃って振り返った。
「さっきから墨汁なんか撒き散らして…。おかげであたしのソックスが真っ黒。…この責任、どう取ってくれる?」
そこに立っていたのは声のイメージとピッタリな気の強そうなお嬢さんだった。
学生鞄とセーラー服という出で立ちからすると、どうやら女子高生のようだ。
端正な顔立ちの美少女だけに、怒った顔は怖い。
「…何者かと思えば、小娘だったでおじゃるか。どうやらソチも墨で黒く染められたいようでおじゃるな?」
やんごと筆は麻呂っぽい顔をニヤリと歪ませる。
しかしその瞬間。
「!?」
彼の視界から女子高生の姿が消えた。
「喰らいなッ!」
ベキョッ!
そして彼女の声が聞こえると同時に、やんごと筆の顔面に拳がめり込んだ。
「のぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
意味不明な叫びをあげ、やんごと筆は鼻血を軌跡を描きながら吹っ飛ぶ。
一回転、二回転…最後にはヒネリも入れた見事な吹っ飛びを演じた後、筆はアスファルトと熱い口づけを交わした。
「べひっ!?」
気を失うやんごと筆。
彼をぶっ飛ばした女子高生は、そんな彼にはもう目もくれず、残った戦闘員のみなさんを丁寧に殴り飛ばしていく。
…それから2分後。
飴に群がる蟻の如くワラワラいた戦闘員のみなさんは、全員仲良く卒倒していた。
「ふぅ。これで少しは気が晴れたかな?」
倒れたチンパンGの山の頂上に立つ女子高生は手をパンパン叩きながら呟く。と。
「ごえっ!」
やんごと筆の断末魔の悲鳴が聞こえた。
女子高生はその方向を向く。
そこにはエプロン姿の、どっかの店員っぽい少女が立っていた。
「ちゃんとトドメは刺さないと。この怪人たちは私たちでないと倒せないんだし、ね?」
やんごと筆の血がべったりついた石を片手に営業スマイルを向ける少女。
女子高生に負けず劣らずの美少女だが…大人しそうな顔つきをしているだけに、その光景は余計にヤバかった。
「トドメ、か。でもさ、もう少しマシな刺し方ってあったんじゃない?撲殺はエグいよ、撲殺は。」
女子高生は呆れたような笑みを浮かべた後、チンパンGの山から飛び降りた。
「さ、もうそろそろ警察が来るね。長居は無用、さっさと退散するよ。」
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「だから私が思うに、仲間はあと2人いるのよ。きっと男1人、女1人が。」
社会情勢学研究室改め、ウゴクンジャー本部で綾は皆に熱っぽく語っていた。
ひとしきりポーズは考え終え、曲は冥介に任せるってことになった後のことだ。
「ハァ?何でそんなに具体的なんだよ。その根拠は?」
眉を顰め、週一が訊ねる。
「当然でしょ?戦隊ヒーローといえば5人が王道。しかも男3女2という黄金比が当てはまるものなの。」
綾は自信満々に、ないムネを突き出して答えた。
「…なんじゃそりゃ…。」
頭を抱える週一。
しかし残りの2人はうんうんと頷いている。
「甲虫の意見は科学的にも筋が通っている。仲間はあと2人、男女1人ずつとみてまず間違いないだろう。しかし…女が1人の場合も確率は低いがありえるな。」
どこが科学的なのか不明だが、冥介はその意見に賛成のようだ。
「そうですね。でも職場内恋愛は容認するから大丈夫ですよ。でも…男の子が1人余っちゃいますね。だけど大丈夫。そうやって人は強くなっていくんです。」
全く関係ないことで頷いていたアホ教授だったが、一応は綾の意見に賛成らしい。
(僕以外…アホばっかりじゃないか…。)
週一は心の中で溜息を吐く。
でも第三者から見たら彼もアホの一員であるということを週一自身は分かってない。
…その後、ウゴクンジャー達は憬教授のアイスミルクソーダを飲まされた後、この日は解散となった。
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パンッ!パンパンパンッ!!
真昼のオフィス街に爆音…というか爆竹音が鳴り響く。
「でょけけけけ!逃げ惑え!このボク様のデンジャー爆竹に恐れ慄け!」
不自然な笑い声をあげながら街を練り歩いているのは爆竹怪人…ではなく、1mほどの巨大な消しゴム怪人だった。
消しゴムの左上の方に坊ちゃん刈りのガキンチョの顔がくっついているという、何かムカつくデザインだ。
市販の爆竹を所構わず投げつける怪人にオフィス街はパニックだ。
というか、誰も関わり合いになりたくないらしく、すでに人通りはなくなってしまっている。
「そこまでだ!」
背後からのクールっぽい声に、怪人は振り返った。
「怪人、この俺が来たからにはもうお前の好きにはさせん!」
このやたらと正義感が溢れてる爽やか系の声は…。
「接着!ウゴクンジャーヒュドラ!!」
…やっぱりカッコだけヒーローの八又乃冥介だった。
「でょけけっ!来たな、ウゴクンジャー!飛んで火に入る夏の虫とはこのことだきゃ!!かかれ、チンパンG!!」
消しゴム怪人の掛け声で、それまで姿が見えなかった戦闘員の皆さんがモノ陰からワラワラと現れた。
しかもその手にはいつもの切れそうにない剣ではなく、爆竹が握られている。
「くっ!飛び道具かっ!!?」
舌打ちして構えるヒュドラ。
そんな彼にチンパンGは遠慮なく爆竹を投げつけた。
パンパンパンッ!
しょぼい音と寂しい煙が立ち込める中、ヒュドラは頭を抱えてうずくまっている。
生身でもあんまり痛くない爆竹で、しかもヒュドラのタクティカルフレームは蟹や甲虫に比べて装甲が厚いから全然痛くないはずなのに…。
「でょけけけけけけけ!!!ウゴクンジャーの最期だ!このボク様が、」
そこまで言った時、消しゴム怪人は宙に浮いた。
「え…?」
で、直後に迫るアスファルト。
どうやら誰かさんに投げられ、今まさに顔面から地面に叩き付けられようとしているようだ。
ぐしゃ。
状況理解の直後に消しゴム怪人の思考はストップした。何かが潰れる嫌な音と共に…。
「うあ…脳味噌が飛び出てる…。」
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週一は綾に投げられて他界した消しゴム怪人の遺体を見て呟いた。
「消しゴムに脳味噌はないですよ。これは消しカスじゃないですか?地面に落ちた時、アスファルトと擦れて出ちゃったんですよ、多分。」
その横では憬教授が缶コーヒー片手ににこにこ笑っている。
ちなみに消しゴム怪人を不意打ちで倒した綾は、現在ウゴクンジャー甲虫に変身してチンパンG達を投げている。
「ふぅ、遅かったな、蟹。」
甲虫の手伝いもしないで変身解除した冥介が汗を拭きながら2人のところへやって来た。
まるでもう戦いが終わったかのようなその姿はやる気ゼロっていうかマイナスだ。
「八又乃さん、綾の手助けをしなくていいんですか?」
週一が訊ねると、冥介はニヒルに微笑んだ。
「俺の正義の拳は怪人を倒すためにある。ザコ相手には使わないのさ。…それよりお前はなぜ戦わないんだ?」
「慌てて出て来たからバッグ忘れちゃったんです。だから変身したくても変身できなくて…。」
「そうか。なら仕方ないな。それにあの程度の相手なら甲虫1人でも十分だろう。」
「ですよね。」
笑う男2人。
結局この日も綾が戦っただけでコイツらは何もしてなかった…。
「終了っ!」
綾が最後の1人に背負い投げを決め、役立たず3名の方に振り返った。
その時。
「ほぉ!強ぇじゃねぇか!今までの怪人じゃ敵わねぇわけだ!」
パーティーとかで使うヘリウムガスで出した声のような甲高い声が民家の屋根の上から響いた。
【初登場キャラ】
・やんごと筆
・謎の女子高生
・どっかの店員っぽい少女
・消しゴム怪人(正式名称不明)




