第6話 二郎
「じゃあもう一度。ニンニク入れますかって聞かれたら、野菜少なめ、アブラ少なめ、薄めって答えてね。わかった?」
「わかってるって。テレビで見たことあるし楽勝だって!!」
溝の口にある僕の行きつけの二郎系ラーメン店の前に並びながら、僕は口を酸っぱくしながら、夏奈に注文の作法を教える。
しかし、作法よりも心配なことがある。胃袋の容量だ。
中身は夏奈だけど体は冬香。小食の冬香が二郎系ラーメンを食べ切れるだろうか・・・。
「あっ、一気に進んだ。次みたいだよ。」
「よしっ、じゃあ僕が食券買ってくるよ。」
僕はお腹が空いてるから迷わず並、そして夏奈にはレディースミニにしよう。
レディースミニだったら普通のラーメンより小さいくらい。なんとか冬香の胃袋にも収まるだろう。
それでも手に余るようだったら、僕が手伝ってなんとかしよう・・・。
「お二人様こちらへどうぞー。」
「あっ、順番来たよ。食券ちょうだい。」
僕の手から勝手に食券をもぎ取って奥に進む夏奈を追いかけ、並びの席に座る。
「お姉さん、ニンニク入れますか?」
「野菜マシ、アブラ多め、濃いめで!」
「えっ?」
夏奈の店員さんへの答えに耳を疑い、思わず目を向けると、ニヤリと不敵に口の端を歪める夏奈の顔が・・・。
しかもカウンター越しに差し出しているのは、並の食券!!いつの間に!
「ちょっと、夏奈。無理だって。この店は並でも普通の店の大盛より全然大きいんだよ・・・。」
「大丈夫だって!!あのくらいでしょ。余裕だって!」
彼女が指を差した先にはモヤシが山と盛られたラーメンと向き合う大柄な大学生。
いや、あれはミニだ。並はあんなもんじゃない・・・。
「夏奈ならともかく、それ冬香の体だよ・・・。だからさ・・・。」
「お兄さん、ニンニク入れますか?」
「あっ、野菜少な目、アブラ少な目、薄めで・・・。」
ヒソヒソ話していたら怖そうな店員さんにじろりと睨まれてしまった。
こうなったら実物を見て夏奈がその量に圧倒されたら、すかさず交換を申し出よう。
ちょっとマナー違反だけど仕方ない。
背に腹は代えられない。
「はいよ。野菜マシ、アブラ多め、濃いめの並ね。」
「うわ~、おいしそ~!いただきま~す。」
しかし、僕の予想は外れ、夏奈は目の前に置かれたモヤシが山盛りのひときわ大きなラーメンを見て、ひるむどころか目を輝かせ、果敢に箸をつけ始めた。
こうなったら残したのを僕が片付けるしかない。
まずは自分のレディースミニ(野菜少な目、アブラ少な目、薄め)に取り掛かろう。
横目で夏奈を見ていると、いかにもおいしそうな顔で麺をすすり、モヤシを口に運び、レンゲでスープを飲んでいる。
そうそう、最初はいいんだけど、なかなか量が減らなくて苦しくなってくるんだよな・・・。
そんな感じで心配している僕を尻目に、夏奈の箸の勢いはとまらない。
麺、もやし、スープ、麺、もやし、スープ。
安定したリズムでローテーションを回し、みるみるラーメンの量は減っていく。
ついには笑顔のままスープまで完食してしまった。
「うまかった~!!ごちそうさま~!」
上を向いて、いかにも幸せといった表情で手を合わせる彼女の姿に、強面の店員さんも少し微笑んでいる。
僕は驚きながらも、慌ててレディースミニの残りを食べ切り、夏奈と一緒に店の外に出た。
「大丈夫だった?無理してない?」
「余裕だって。なんなら大盛でもいけたかな。」
ニヒヒと笑いながら、ブイサインをする夏奈。
「冬香は、普段はお昼ご飯にクロワッサン1個でも持て余すくらい小食なんだよ。きっと無理させたんだって!ダメージが残っちゃうかも。」
「そんなことないって!クロワッサン1個でこのグラマラスな役満ボディを維持できるわけないじゃん。きっと隠れて大量に食べてるって!」
夏奈は自分の手で胸を鷲掴みにし、巨乳、豊満、グラマラスとつぶやき、よくわからない踊りをしている。
「冬香の体でそんな下品な踊りやめてよ!」
「ごめんごめん。そうだ。これからどうする?どうせだったら東京らしいところ連れてってよ。」
「え~っ、でももう時間も遅いしな~。」
「大丈夫だって、近場でいいからさ。次はいつ入れ替われるかわかんないから、東京を見てみたいんだって。」
「・・・・・じゃあ・・・少し歩くけど。」
そうつぶやきながら、駅とは反対方向に足を向けた。




