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第23話 雌伏

「ハァ・・・ハァ・・・ごめん・・・もう限界だ・・・。」


「おいおい、も~う終わりかよ~!!」


4月、毎日行っている夏奈との朝練。

今日は多摩川の土手のランニングコースを使ったペース走だ。


夏奈は半年のブランクがあると言っていたけど、練習を始めるとあっという間に元の調子を取り戻した。入れ替わっていない夏奈はやっぱり速い・・・。


対して、僕はもはや夏奈の練習にはジョグと動き作りのドリルくらいしか付いて行けない。


よく考えたら夏奈のブランクは半年、僕のブランクは2年半だ。

もともと夏奈の方がずっと速かったんだし、付いて行けるはずがない・・・。


「練習に付き合うって言い出したのは栄斗だからね!もっと頑張ってくれないと!」


ようやく走り終えて草むらにへたり込んでいると、余裕そうな表情の夏奈がニヤつきながら見下ろしてきた。


あの意地悪な表情は、前に、冬香と入れ替わった時に無理に走らせたことへの意趣返しだろうか・・・。


「ハァ・・・ハァ・・・ごめん。もう無理。休ませて・・・。」


「しょうがないな~。じゃあ、ちょっくら座ってミーティングでもしよっか。」


夏奈は僕の横に体育座りになった。


「練習メニューだけど、そろそろトラックを使ってポイント練習したいんだけど。」


「ああ、じゃあ等々力の補助競技場で走ろうか。個人開放日を調べておくよ。」


「それから記録会、申し込んでおいてくれた?」


「ちょうど5月と6月に大学主催の公認記録会があったから。5000mに申し込んでおいた。当面は、6月5日までに5000mで15分36秒をクリアして、参加標準記録での日本選手権出場を目指して行こう。」


「うん・・・。わかった・・・。」


隣に座っていた夏奈が少し身を寄せて来た。


「ありがとね・・・。色々やってくれて。すごい助かってる。」


「はっ?」


思わず耳を疑った。

あの夏奈が!文句ばかりだったあの夏奈が?

こんな殊勝なことを言うはずない。

警戒しながら夏奈の方を向くと、意外にも真剣な表情だった。僕は疑ってしまった自分を恥じた。


「いや・・・僕も夏奈には頑張って欲しいし、まずは日本選手権で活躍して、森下先生に見直してもらわないと・・・。」


「だなっ!大西文化大学の部員を全員ぶっちぎって、小夜ちゃんに一泡吹かせてやる!!」


『森下先生を見返す』『森下先生に一泡吹かせる』これが最近の二人の合言葉になっている。いろいろ試してみたけど、この言葉が一番、夏奈の心に火をつけるようだ。


「そうだ。今日は土曜だし、練習終わったらラーメン食べに行こうよ。今日こそ二郎系の大盛・ブタマシを攻略してやる!!」


ニヒヒと夏奈が笑いかけて来る。でも、残念ながらそれには首を振るしかない。


「だめだって。減量もあるでしょ?ラーメンは禁止。」


「え~っ、一杯くらい大丈夫だって。減量も順調だし。」


「そんなわけない。夏奈のベストは45㎏でしょ?まだ48㎏くらいあるんじゃない?」


何気なく夏奈の体を見ながらそう伝えると、急に夏奈が真っ赤になった。


「ちょ、ちょっと!乙女の体重を一目で見抜くなんてデリカシーなさ過ぎだって!」


「高校の時からずっと体重当てやってたじゃん・・・。」


「そうだけど・・・。今はダメなの!!」


夏奈は体育座りしたまま、膝に顔をうずめてしまった。

夏奈の体重なんて、今さらな情報だし、まったく意味わからん・・・。


「いずれにしても、今日はこれから冬香と会うし、ラーメンは無理かな。あっ、あと夕練も出られないから夏奈一人でやってね。今日はジョグだから一人でもできるでしょ?」


「へ~っ、そ~なんだ~。どうせ、夕練の代わりに冬香さんとベッドで技を掛け合ったりするんでしょ~・・・。」


「ちょ、ちょっと待ってよ!その発言の方がデリカシーなくない!?」


今度は僕の方が真っ赤になってしまった。そんな僕を夏奈はジト目で見る。


「それも今さらな話じゃん。入れ替わってるときは、愛を行動で示すとか言って、さんざん私で色んな技を試したくせに・・・。」


「ち、ちがう・・・あれは夏奈がやれって・・・それに夢ってことで整理したんでしょ。今さら思い出させないでよ。」


真っ赤になった僕を見ながら夏奈はケラケラ笑っている。


夏奈が冬香と入れ替わったのは3月に大西文化大学の女子陸上部への入部が拒否されたと相談された時が最後。あれから1か月以上平和な日々が続いている。


「あ~あ、私は一人寂しく、ラーメン食べて夕練するわ。じゃあね~。」


夏奈は立ち上がり、軽く手を振って振り返ると、そのまま軽いジョグで帰って行った。


僕も家に帰ろう。


内緒だったけど、実は冬香との待ち合わせは午後からで、午前中にはやっておかなきゃいけないことがある・・・。


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