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第21話 和解

夏奈と入ったドトールは意外と混んでたけど、ちょうど向かい合わせの二人席が空いていた。


先に夏奈をそこに座らせ、僕はカウンターで二人分のコーヒーを買ってから向かいの席に腰を下ろす。


「いろいろ聞きたいことがあるけど・・・まず、冬香と入れ替わってたってのは、夏奈の認識でもその通りなの?」


「うん・・・そう・・・。」


夏奈はうなずいたけど、そのまま横に目を逸らしてしまった。


心なしか顔が赤い・・・。


「いつから・・・?どうして・・・?」


「去年の9月から。大学の先輩とか同級生とかとずっとうまくいってなくて、その日のミーティングで態度が悪いって吊るし上げられて、反論したら練習参加禁止になって・・・下宿に帰って、なんでこんなことに・・・って絶望的な気持ちでふて寝してたら、気が付いたら栄斗の部屋のベッドにいるって夢を見て・・・。」


「ああ・・・一緒にパンケーキ食べた時だ・・・。」


「それから1週間くらい、ずっと下宿で謹慎して過ごして、もういよいよ限界だって夜にまた夢を見て・・・今度は栄斗と同じ大学に行って、学校帰りにラーメン食べに行ってって・・・。」


「その後、多摩川ぞいを歩いた時だ。」


また夏奈がうなずく。

だけど、さっきからまったく目を合わせてくれない。しかもコーヒーカップを持つ手が震えていて、ソーサーに置くたびにカチャカチャと耳障りな音が鳴る。


「それで、大学辞めて・・・家に帰って部屋に引きこもってたら、親からの視線は冷たいし、小夜ちゃんにも恩知らずとか言われるし、何度も死にそうな気持になって・・・そしたら栄斗と遊園地行ってる夢を見て・・・。」


「よみうりランドで観覧車乗った時だ・・・。」


夏奈が明らかにガタガタと震え出した。歯の根が合わないのか歯をカチカチ鳴らしている。


「あの・・・それ全部、現実だったってことは・・・その後も・・・?クリスマスとか箱根とかも・・・?」


夏奈はこくりとうなずく。でも、まだ手の震えは収まっていない。


「なんか・・・入れ替わってる時に、すごい大胆なこと言っちゃったよね・・・。」


「・・・夏奈と入れ替わっている時は、夏奈として愛してとか・・・愛を行動で示して欲しいとか・・・?」


僕がそう言った瞬間、夏奈は頭を抱えて大きく後ろにのけぞった後、勢いよく反動で戻って来て、ゴンとテーブルに頭をぶつけ、そのまま突っ伏した。


「・・・ほんと・・・なんと言っていいのか・・・。ご迷惑をおかけしました・・・。」


「いや・・・僕もおかしいと思ったんだよ。夏奈は、昔から無茶を言うけど、ちゃんと節度をわきまえてて、冗談で済まないようなことはしなかったから・・・。おおかた、どうせ夢なんだから、無茶苦茶しちゃえとか・・・そんなノリだったんでしょ?」


「うん・・・まさか本当に入れ替わってるなんて思えなかったし、ずっと夢なんだと・・・。」


テーブルに突っ伏したまま、くぐもった声が聞こえてくる・・・。


「じゃあ、僕も夢だと思ってすべて忘れて水に流すから。」


「いや・・・私は忘れられないんだけど・・・。栄斗とあんなことやこんなことしちゃって・・・。あれが全部現実だったなんて・・・。」


夏奈はようやくテーブルから顔を上げたが、恥ずかしくて仕方ないのか両手で顔を覆っている。


「過去のことはいいから・・・。どうせ夢だったんでしょ。それよりも夏奈がこれから現実にどうするか聞きたくて。本当に走るのやめちゃうの?」


「う、うん・・・。」


夏奈はコーヒーカップを手に取って口を付ける。まだ手が震えているけど、さっきよりは少し落ち着いたみたいだ。


「実は・・・今日ここで待ち合わせにしたのは理由があって・・・。栄斗と同じ大学を受験したんだ・・・。それで合格発表を見に来て・・・。」


「えっ?そうだったの?どうして教えてくれなかったの?」


「うん・・・延岡体育大学を辞めた時から大学入り直そうとは思ってて・・・。それで冬香さんの体で、栄斗の大学のキャンパスに来たり授業受けたりしたら、ここに入学したいって思うようになって受験を決めて・・・。でも落ちると恥ずかしいからずっと言えなくて・・・。」


「そうなんだ!!合格おめでとう。4月から同じ大学でよろしくね!!」


祝福のため握手を求めて手を差し出した。

しかし、なぜか夏奈はその手を取らず、しかも目を伏せ、真っ赤になった。


「い、いや・・・さっきキャンパスで発表見たら番号なかったんだけど・・・。不合格・・・。半年近く一生懸命勉強したのに・・・。」


「あ~っ・・・・。」


僕は頭を抱えた。


無理に残念そうな表情を作ったけど、正直、心の片隅ではちょっと納得だ。

同じ高校とはいえ、夏奈はスポーツ推薦で入学したみたいなもので、学業成績も下位だったし、まったく勉強しないから学校の課題とかは、ほとんど僕が代わりにやっていた。

それなのに半年弱勉強したぐらいで同じ大学に合格されたら僕の立場がない・・・。


「ごめん・・・。栄斗と同じ大学に行って、一緒にキャンパスライフ楽しめたらと思ってたんだけど・・・。あと一歩努力が足りなかった。」


もっとも僕の内心の納得とは裏腹に、夏奈はあと一歩で合格と考えていたのか、不合格がよっぽどショックだったようだ。ガックリと肩を落としている。


「うん・・・残念だったね。もし来年もチャレンジするなら僕が勉強を教えてもいいけど・・・。」


夏奈にかけられる言葉は、これぐらいしか見つからない。だけど、夏奈は首を振った。


「実は、別に合格した大学があるんだ。本当は栄斗と同じ大学がよかったんだけど、これ以上ブラブラしていられないし、そこに入学するしかないと思う。」


「えっ?どこ?」


「・・・大西文化大学・・・。小夜ちゃんがOBの・・・。」


「あ、ああっ!おめでとう!よかったじゃん!東京の大学だし、女子陸上部も強豪だよね!」


「ありがとう。それでさ・・・さっき決めたんだ。ほら、入れ替わってる時に一緒に走ったりしてくれたでしょ。それで・・・やっぱり私は走るの好きだって気づいて。それに、栄斗の大学じゃなくて、大西文化大学に行くことになったのも運命だと思うし。だから女子陸上部に入って競技を再開するよ。」


その言葉を聞いた瞬間、思わず立ち上がった。

今度こそ本当に祝福の声を掛けたかった。


でも、なぜか言葉が出て来ない。急に視界がぼやけてきた。


ぼやけた視界の先では夏奈がぽかんと口を開けて呆然としている。


「なんで・・・栄斗が泣いてるの?」


「・・・わかんない。でも、子どもの頃からの夢だから・・・。夏奈がオリンピックに出場することが・・・。」


そう伝えると、夏奈は急に頬を緩め、そのまま歯を見せて優しく微笑んだ。


「ここから頑張ってもオリンピック出れるかな・・・?でも違うよ。私がオリンピックに出場することじゃない。一緒にオリンピックに行くことが二人の約束でしょ。栄斗をオリンピックに連れて行けるように頑張るから・・・。」


「うん・・・。絶対に応援に行くから・・・。」


ようやく・・・ようやくすべてがうまくいきそうだ。

夏奈が立ち直ったことは素直に嬉しい。


しかも、これから競技に集中してうまくいけば、きっともう入れ替わりなんてすることもなくなるはずだ。

半年間苦しんだ謎の三角関係から、やっと解放される・・・。


この時の僕は知らなかった。僕のそんな考えが甘過ぎたことを・・・。


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