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第17話 公園

「いや~、デートで公園散歩するって、じーさんばーさんみたいで、どうかな~って思ってたけど結構楽しいな~。」


お正月の帰省から戻ったばかりのこの日、僕は、冬香・・・夏奈と入れ替わった冬香と立川の昭和記念公園に来ていた。


ここは箱根駅伝の予選会にも使用されるくらいの広大な公園で、季節ごとに様々な花鳥風月を楽しめる自然豊かな場所でもある。


「・・・・。」


はしゃいだ様子で跳ねるように歩く夏奈を見ながら、僕は話を切り出すタイミングをうかがっていた。


お正月、高校の陸上部の仲間から聞いた、夏奈が部内で孤立して競技でもスランプに陥り、大学も中退してしまったという話は頭をハンマーで殴られたくらい衝撃だった。


高2の夏に絶交されてから、意図的に夏奈の情報は耳に入れないようにしていた。


それでも彼女が大学で競技を続けていたことは何となく知っていて、そのうちきっとインカレや日本選手権で活躍して嫌でも耳に入ってくるだろうと、心の片隅では少し期待していた。


だけど、まさか大学を辞めるほどの状況になっていたとは・・・。


「東京なのにこんな自然豊かってずるいよな~。あっ、桜もある。春になったらお花見にも来ようよ。」


僕の気持ちも知らず、夏奈は能天気に景色を楽しんでいる。


でも、どうやって話を切り出そう。夏奈にとっても聞かれたくない話だろうし・・・。


「・・・・・。」


「どうしてそんな不機嫌なのよ?」


思案しながらうわの空で歩いていると、いつの間にか眉をひそめた夏奈が、手を腰に当てて目の前に立ちはだかっていた。


「私が入れ替わってる時は、私だけを見て、夏奈として愛してくれる約束でしょ!!一度決めたんだから、今さら余計なこと考えないでよ。」


「ごめん・・・でもそのことで悩んでたんじゃないんだ・・・。」


「じゃあ何よ・・・?」


夏奈は鋭い視線で睨みつけてくる。こうなったら勇気を出して聞くしかない。僕は腹を括った。


「夏奈の・・・競技のこと。」


「そんな話したくない!!」


僕が話し出すや否や、夏奈は僕にくるりと背を向けて、そのまま歩き出してしまった。

だから僕は追いかけながら彼女の背中に向かって話すしかない。


「競技会とか記録会にも全然出てないみたいだし。」


「ちょっと休んでるだけだし。」


「大学も辞めちゃったって聞いたし・・・。」


夏奈はぴたりと足を止めた。


「・・・誰に聞いたのよ。」


僕に背を向けたまま、低い声が響いてきた。


「1月3日の陸上部の練習初めに行って、そこで・・・。」


「どうせ小夜ちゃんとか、他の部員・・・香織とかが、私がわがまま言って大学辞めたなんて勝手なこと言ってたんでしょ?」


「そんなことは・・・・。」


夏奈は向こうを向いたままフンッと鼻で笑った。


「わかってるんだから!!高校の時だって、栄斗が陸上部を辞めちゃった後も、みんな私のためにサポートしてくれるとか言ってたのに、お願いしたことすら満足にできなくて、ちょっと注文をつけたら、すぐに私をわがまま扱い。それで競技に集中できなくなって成績が落ちて・・・そしたら、小夜ちゃんがあんな山奥の大学しか行くところがないなんて言ってきて・・・。」


夏奈の背中が震えている。背中越しに聞こえる声にもやるせない思いがこもっている。


「大学に行ったら競技のレベルは低いし、かといって遊ぶところもないし・・・。友達だって全然できない。しかも、生意気だのわがままだのって部の全員から吊るし上げられて。それで騙された~って家に帰って、そのまま大学も辞めてせいせいしてたら、今度は小夜ちゃんに恩知らずなんて言われて・・・。」


「夏奈・・・。それは・・・。」


「うるさい!!説教なんか聞きたくない!!もともとは栄斗が約束破ったせいでしょ。栄斗と、一緒にオリンピックに行こうって約束したから頑張って来たのに、勝手に自分だけ逃げ出して・・・。その後、私が一人でどれだけの不安と戦ってたのかわかんないでしょっ!!」


「・・・・・・。」


震え続ける夏奈の背中を見ながら、僕にはかけられる言葉が思いつかなかった。

夏奈がこうなった時、僕のできることはただ一つしかない。


「夏奈・・・。」


僕は夏奈を後ろから抱きしめた。

そして冷えた夏奈の手をさすった。

中学時代からずっと続けていた、大事な大会の前のルーティーンと同じように・・・。


「うるさい・・・やめてよ・・・。私を置いて逃げ出したくせに・・・。いまさら勝手に心配してきて・・・。」


夏奈は涙声で文句を言い続けていたけど、ハグには抵抗せずされるがままになっていた。


そのままずっと続けていると、夏奈の手が次第に温かくなってきて、身体の震えも収まって来た。


「落ち着いた?」


そう聞くと、彼女は僕の方に向き直り、こくりとうなずいた。


「あの時、夏奈を置いて逃げ出してごめん。逃げ出した身で言えることじゃないけど、今でも夏奈が選手として大きな舞台で活躍してくれる姿が見たい。」


「・・・・勝手なこと言わないでよ。」


「もしよければ、入れ替わってない時の夏奈に会って話がしたい。夏奈が選手として復活するために僕ができることがないか・・・。」


「うるさい!!勝手なこと言わないでよ・・・。もう走るつもりなんてない。」


彼女は表情を一変させ、一瞬だけ僕を睨みつけると、そのまま僕の胸に顔を埋めた。


彼女がぶつかっている壁は、一流選手である彼女にしかわからないのかもしれない。


でも、僕は何かしてあげたい。

幼馴染みであり、小さなころからの僕のヒーローである夏奈のために・・・。


ずっと胸に顔を埋めていた夏奈が、急に上目遣いで見上げて来た。


「私は選手として復活できなくていい。冬香さんの体を借りてるけど、東京で、栄斗と一緒に過ごせるだけで十分楽しいよ。」


歯を見せて笑う夏奈の表情には一片の曇りもないように見える。


「いや・・・でも・・・。」


「どうせ、私が選手として復帰して、競技に専念したら忙しくなって冬香さんと入れ替わる暇もなくなるとか思ってるんでしょ?そうはいかないから。入れ替わってる時は夏奈として愛してくれるって約束だからね。今度は約束破らないでよ!」


口元を緩めながらも責めるような厳しい視線で射抜かれ、僕はもはや何も反論できなかった。


「じゃあ、ちょっと早いけど栄斗の部屋へ行こうよ。今日も、栄斗が夏奈として愛してくれていることを、私が満足するまで行動で示してもらうからね!!」


彼女はそのまま僕の返事を待たず、立川駅の方へ歩き出した。


僕が言いたかったを全然伝えられなかった。

本当に夏奈を心配しているのに・・・。


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