第13話 翌朝
「おはよう。」
「栄斗くん・・・おはよう。」
朝、目を覚ますと、目の前に横たわって僕をじっと見つめる彼女の顔があった。
「・・・冬香、だよね?」
おそるおそる尋ねると、こくりとうなずいてくれた。ただ、心なしか不機嫌そうだ。
頬を膨らませて、憮然としている。
その目も少し恨みがましい感じがする。
「・・・どうしたの?何か怒ってる?」
「怒ってない・・・。」
冬香はそう言ってくれたけど、声にも怒りがこもっている気がする。
その後、起き上がって着替え、近くのカフェに朝ごはんを食べに行ったけど、その間ずっと冬香は無言だった。
無口なのはいつものこと。だけど、いつもとは違ってなんとなく圧を感じる。
「あのさ・・・ごめん・・・。やっぱり僕が何かしちゃったんだよね。」
モーニングを食べている最中もずっと理由を考え続けた。
だけどわからない。
冬香が食べ終わるタイミングを見計らって冬香に頭を下げた。
理由はまったくわからないけど怒っていることは確かだ。
いつもニコニコしている冬香が怒りを露わにするなんてよっぽどのこと。
このままにしてはいけない気がする。
「きっと、僕が鈍いせいで、冬香の気持ちをわかってあげられなくて失礼なことをしちゃったんだと思う。そういうところも直していきたいから教えてもらえないかな・・・?」
テーブルに手をついて頭を下げたけど、冬香は何も言ってくれない。顔も相変わらず憮然としたまま。
そのまま永遠かと思えるような時間が流れ、やっと冬香の唇が動いた。
「・・・・ごめん。私にもわからないの。」
僕がゆっくりと顔をあげると、ちょうど冬香の瞳から涙がこぼれるところだった。
「朝起きて栄斗くんの顔を見たら、なぜだかわからないけど・・・急に腹が立ってきて、なんで私の気持ちがわかってくれないんだろうって思いが湧いてきて・・・。」
「ごめん。昨日、僕が何かしちゃったんだ?」
しかし冬香は首を横に振った。
「違う・・・昨日は栄斗くんは私が行きたいって言ってたお店に連れてってくれて、プレゼントも用意してくれて。いい思い出しかないのに、私が勝手にそんな風に思っちゃって・・・。それがなぜだかわからなくて・・・。」
さらに一筋涙がこぼれた。
それから堰を切ったように次から次へと溢れて止まらない。
冬香はカバンからハンカチを取り出して、目に当てはじめた。
「栄斗くんは、私のことを好きだって言ってくれるし、言葉だけじゃなくて、それをちゃんと表現してくれてるのに、なんで、どうして私の想いが届かないんだろうって、切ない片思いみたいな気持ちになっちゃって。」
「僕は冬香のことを心から好きだよ。片思いなんてことはない・・・。」
「それはわかってるけど・・・。」
僕は手を伸ばし、ハンカチを目に当てながら嗚咽を漏らし始めた彼女の手を握った。
その手はすごく冷たかった。
そのまま彼女は泣き続け、周囲の好奇の視線も痛かったけど、僕は手を握ってただただ寄り添うことにした。
「ごめんね。昨日の夜、ずっと片思いだった人を思い出して、想いが届かなくて切なくなる夢を見たからそのせいかな。ごめんね。」
ようやく落ち着いたようでハンカチを目から離し、僕に微笑んでくれた。
「ううん。でも、冬香にもそんな人いたんだ~。」
ちょっと胸がチクリと痛んだけど、お互い20年近く生きているんだし、そんな人いたって不思議じゃない。つまらない嫉妬の感情は胸にしまっておこう。
しかし、冬香は強く首を振った。
「そんな人いなかった。初めて好きになったのは栄斗くんだけ。だけど、なぜだか急にそんな気持ちになっちゃって・・・。すごく不思議で・・・。」
「・・・もしかしたら僕がどこかで寂しい思いをさせちゃったのかも。ごめんね。」
冬香はまた首を振った。
「そんなことない・・・。」
「・・・・。」
そのまま黙って向かい合っていたら、ようやく冬香が微笑んでくれた。
目は真っ赤なままだけど。
「ごめんね。もう大丈夫。あっ、そうだ。これ昨日伝えるのを忘れてたんだけど・・・。」
「なになに?」
「実はお姉ちゃんが彼氏と行く予定で箱根の温泉旅館を28日から1泊で予約してたんだって。でも、仕事で急に行けなくなっちゃったらしくて、もしよければ私達で行ったらって言ってくれてるんだけど・・・。」
少しはにかんだ表情でのお誘いに、もちろん僕に異論はなく二つ返事でOKした。
冬香に不安な思いをさせたことを挽回するチャンスだと思いながら。




