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第10話 再三

秋晴れの10月の日曜日。今日は冬香と一緒によみうりランドに来ている。


ジェットコースターとか、お化け屋敷とか、バンジージャンプを楽しんだ後、一日の締めくくりに二人で観覧車に乗ることにした。

いつの日か、冬香と入れ替わった夏奈が乗りたいと言っていたあの観覧車に。


ゴンドラが徐々に高度を上げると、夕暮れで真っ赤になった空の下に、ゆったりと流れる多摩川が目に入って来た。


陽が沈むにつれ、徐々に漆黒へと変わっていく川面と、灯りがつき始めた河畔のコントラストは少し寂しさを誘うもので、思わず隣に座っている冬香の手をぎゅっと握ってしまう。


高度を上げるとだんだんと視界が開けてきて、1か月前、冬香と入れ替わった夏奈と一緒に歩いた土手のランニングコースが目に入った。


「本当の冬香のことがわかっていない」


あの時聞いた夏奈の言葉を信じて冬香を相撲観戦に誘ってから、僕と冬香の関係は大きく変わった。


それまでは何かにつけて控えめで、希望を聞いても、「栄斗くんが選んで」「栄斗くんがいいなら」と言うだけだった冬香が、徐々に自分の考えや感情を表に出して僕に伝えてくれるようになった。


相撲観戦の後も、冬香の希望でプロレス観戦に行ったり、相撲の朝稽古見学に行ったりして、そこで目を輝かせながら饒舌に知識を披露してくれる冬香の姿を見ていると、ようやく冬香が僕に心を開き始めてくれたと感じられた。


夏奈のおかげで冬香のことを理解して良い方向に関係を進められた。


・・・いや、むしろあの時、夏奈と話せてなかったら、いつまでも冬香のことを勝手なイメージで思い込んだままで勝手に突っ走って、そのまま関係が破綻していたとしてもおかしくなかった。

あそこで気づけて良かった。だからきっかけをくれた夏奈には感謝しないと・・・。


「栄斗くん、何を見てるの?」


「うん、ほらあっちの方に僕の住んでる登戸とか、冬香が住んでる武蔵小杉とか見えるなって思って・・・。」


「へ~っ、どこどこ~?」


無邪気に身を乗り出そうとする冬香を見ながら、頭の中では別のことを考えていた。


あれ以来、夏奈と冬香が入れ替わることはなかった。

だから夏奈に感謝を伝えようと、高校2年生の夏以来となる、LINEでのメッセージを送ってみたけど、ずっと未読のまま。


どういうことだろう?


もしかして夏奈と冬香が入れ替わってると感じたのは、やっぱり夢か幻覚で、現実の夏奈はまだ僕と絶交したままなのだろうか?


・・・・いや、あれが夢や幻覚であっても、僕が夏奈に感謝の気持ちを伝えたかったことは事実だ。


だから、僕は夏奈のことが嫌だったんじゃない、夏奈に置いて行かれる僕が嫌いだったんだって、ちゃんと伝えて誤解を解きたい。


そうだ!来年のお正月に帰省する時に、陸上部の友達を誘って同窓会を開いて、夏奈も呼んでもらって、そこで改めて夏奈に素直な気持ちを伝えよう。


・・・・そんなことをぼんやり考えていた。


「・・・・・ねえ・・・。」


不意に、隣に座っている冬香に袖を引かれた。

「ん・・・?どうしたの?」


「・・・・・。」


冬香が無言で目を潤ませながら、上目遣いで見つめてきた。ちょうどゴンドラも頂上に達するところだ。

そうか!!雰囲気も最高潮だし・・・。


僕は、冬香の腰に手を回し、顔を近づける。

冬香もゆっくりと目を閉じて・・・。


「待って!そうじゃない。」


冬香は目をクワッと見開き、手のひらで僕の唇を押さえた。


「・・・えっ?あっ、ごめん。違った?」


「うん。栄斗、今、他の女の子のこと考えてたでしょ?」


心臓がドキッと跳ね上がった。

夏奈のことを考えていたって気づかれてる?


だけどそれを認めるわけにはいかない。

本意気の演技で平静を装うしかない。


「そんなことない。冬香のことしか考えてないよ。」


高鳴る心臓の音を抑えこみ、しっかりと冬香の目を見て真剣な表情を装った。


しかし、冬香はニヤリと歯を見せて、不敵な表情で見つめてきた。


「私にはわかってるよ。その人の名前も・・・。」


「えっ?」


「夏奈って名前でしょ・・・?」


背中に汗がたらりと流れるのを感じた。


ゴンドラが頂上から降り始め、冬香の顔に影がかかった。

彼女は笑顔のままだけど、その表情には何とも言えない迫力を感じる。


「えっ・・・?どうして・・・?」


もはや焦りと戸惑いをまったく隠せてない僕に、彼女はフフッと微笑んだ。


「気づかなかった?私は夏奈だよ。」


「えっ?えっ?」


「ハハッ、ハハハッ!!なにその顔?いくら何でも驚きすぎでしょ!!」


冬香・・・いや夏奈は僕の呆然とした様子を見ながら、お腹を抱え、足をばたつかせながら大笑いしている。


「えっ・・・?いつから?」


「今朝起きて、栄斗と会った時から、ずっと夏奈だったって!全然気づかないでやんの~!!」


「えっ・・・?」


手を叩きながら爆笑している夏奈を見ながら今日一日のことを思い返した。


確かに、今日は、いつものお嬢様風の服装とは違って長袖シャツにデニムにスニーカーというラフな格好だったけど、最近はお出かけでそういう服装のことも珍しくないし・・・。


「えっ?ちゃんといつもどおりメイクできてるけど・・・?」


「なんか手が覚えてたみたいで自然にできた。他にも話し方とかも仕草とかも、記憶を探って見よう見まねで冬香さんに寄せてみたけど、全然気づかなかった~?」


「そうだったの?」


確かに今日の冬香はちょっとはしゃいでるな~とは思ってたけど、最近はそういう姿も珍しくないし、全然わかんなかった・・・。


「まんまと騙されてやんの!!さっきなんかキスしようとしてきたし、キモ~い!!」


「い、いや・・・だって、前回、河川敷を歩いた時に、高校の頃の誤解が解けたから入れ替わるのは最後だって話してたし・・・。」


まだ頭が追い付いてこない。あの夜のしみじみとした別れは何だったんだ!!


「ああ、私もてっきり絶交したことが原因だと思ったんだけど違ったみたいだね。というか、もともと原因なんかわかんないし。」


「じゃあ、今回はどうして・・・?」


「さっきも言ったじゃん。原因はわかんないんだって。」


もう3回目の入れ替わりなのですっかり慣れてしまったのか、夏奈はまったく焦る様子を見せることなく平気な顔をしている。


「・・・・でも、黙ってることないのに・・・。」


「悪い悪い。冬香さんのフリをしてもすぐ気づかれると思ったんだよ。でも栄斗が全然気づかないから言い出せなくてさ~。そしたらキスしてこようとするから、これは言っておかなきゃダメかって思ってさ~。ヒヒッ、キスする時あんな顔するんだ~。しかも、ず~っと手を握ってるしさ~。」


ニヤニヤしながら、瞼を半分閉じて唇を突き出し、僕の顔真似をする彼女を見ながら、僕は頭を抱えた。


色々と弱みを握られてしまった気がする。


「まあ、気にすんなって。これからもちょくちょく入れ替わるかもしれないからよろしくね。そうだ。次はどっか東京見物したいな。あっ、それより前に今晩はおいしいご飯に連れてってくれるんでしょ。よろしくね!!」


ニコニコ笑いながら、ちょうどゴンドラが乗降口に着いたので、ひらりと身軽に飛び降りて行った。

僕は残ってこのままもう一周したい気分だったけど、重い足取りで彼女の後を追った。


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