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第9話 発見

大相撲観戦の日、冬香は待ち合わせの時から少しテンションが高かった。


「今日のみどころは~、朝虎山と赤龍の優勝争いなんだけど~、でも十両以下の有望株もチェックしておきたくて~。」


いつもは自分からしゃべることはほとんどないのに、今日は相撲トークをずっと繰り返している。


しかも両国駅に着いたら、いつものゆっくりした足取りとは一変して、僕の手を引くように国技館に早足で向かった。


えっ?こんな早く歩けたの?って思ったくらいだ。


国技館に入ると、ちょうど序の口の取組が始まったところだった。


「間に合った。じゃあ、前の方で見ようよ。」


そう言って彼女は土俵の周りの座布団が敷かれているところまで下りて行ってしまった。

そこ、勝手に座っていいの?と思ったけど、周りにも似たようなことをしている人たちはいるし、問題ないのかもしれない。


序の口の力士たちは、僕がイメージしているお相撲さんと比べるとだいぶ体が小さく細かった。

しかもだいぶ若く見える。


そんな中、一人だけ、いかにも力士という立派な太鼓腹で貫禄のある力士が花道から入って来たのが見えた。


「あの人、やけに体がしっかりしてるけど、序の口なの?」


「うん。彼は白神山。もともとは幕内上位を10年近く守ってたんだけど、膝のケガで手術して1年半も休場しちゃったから序の口に落ちて来てるの・・・。」


冬香の視線はその白神山に釘付けのまま。よく見るとその力士の膝には分厚いサポータが巻かれている。


「でも、元幕内だし、体格も違うから序の口だったら楽勝じゃない?」


「そんなことない・・・怪我からの復帰明けで相撲勘も鈍ってるかもしれないし、今日の相手は学生相撲出身の川口だし・・・。」


冬香は胸の前で手を組んで祈るようなポーズをしている。


やがて、白神山が土俵に上がると、あっという間に取組が始まった。


「頑張れ、引いちゃだめ・・・。おっつけて・・・。」


祈るようなポーズをしながら、応援をする冬香を横目で見ながら、僕もこぶしを握りながら白神山を応援する。祈りが通じたのか、白神山が押し出しで勝利した。


「白神山~!」


勝ち名乗りを受ける姿を見ながら、冬香はホッとしたように小さく息を吐いた。


「白神山のファンなの?」


「うん・・・同じ町の出身で・・・。子どもの頃からずっと応援してたの。」


冬香は顔を赤くして微笑んでいた。いつもの張り付けたような笑顔ではなく、心の底から喜びがあふれだすような魅力的な笑顔。


その後、取り組みの合間には相撲博物館に見学行って、そこで歴史を解説してくれたり、ちゃんこの試食をしながら、部屋ごとのちゃんこの特徴を教えてくれたり・・・ずっと話し続ける冬香を見て、「オタクが専門分野の説明をしてるときみたいだ」なんて思いながら、それでも喜んでくれてるみたいでよかったと微笑ましく思った。


そのまま、夕方6時の最後の取組まで8時間あまり、冬香の勢いは衰えず、「いや~、すごかった。明日の千秋楽はどうなるんだろ!」なんて興奮気味に話しながら、国技館を後にした。


「楽しかったね~。そういえばお腹空いてない?何か食べてく?」


そう聞くと、冬香は急にすまし顔になった。


「あっ・・・うん。栄斗くんの行きたいところに・・・。」


ちゃんこの試食とか焼き鳥とか食べてたし、小食の冬香だったらこれ以上は入らないのかもなと思いつつ、夏奈と一緒にラーメンを食べた時の様子が脳裏をよぎった。


「たまにはがっつりしたもの・・・例えば焼肉とかどうかな?」


「焼肉・・・?」


驚いたような顔をしてるけど、一瞬、目が輝いたのを見逃さなかった。これは相撲に誘った時と同じ表情だ。


「・・・・食べられなさそうなら、別のところでもいいけど。」


遠慮がちに付け足すと、冬香は首を振ってポツリとつぶやいた。


「・・・・お肉・・・好き・・・。」


――


武蔵小杉まで戻った僕たちは、前にバイト友達と来たことがある焼肉屋に入った。


「今日は楽しかったね。でも、冬香がそんなに相撲が好きなんて知らなかったよ。」


焼き上がったタンをトングで冬香のお皿に載せる。


「うん・・・。ずっと恥ずかしくて言えなくて・・・。」


冬香のお皿に載せたタンがすぐになくなったので、僕用に焼いていた肉をのせたら、そちらも一瞬で消えてしまった。


「そんな、恥ずかしいことないって。今日は僕も楽しかったし。冬香が好きなものを二人で一緒に楽しめるなんて最高だと思うよ・・・。」


ちょうど焼き上がったカルビを冬香の皿にのせる。冬香はさっとそれを掴んで口に運ぶ。

そういえば、いつのまにか冬香の白いご飯も残り少なくなっている。


お肉とご飯も追加注文しようとタブレットを操作していると、冬香が急に箸を置いて、膝に手を置いてうなだれた。


「・・・・ごめんね。実は嘘ついてた・・・。」


「えっ?どういうこと?」


「栄斗くんに聞かれて、美術とかクラシックとか好きって答えたけど・・・。実はそんなでもなくて・・・。本当は相撲とか・・・スポーツが好き・・・。」


「えっ?本当にそうだったんだ!!」


夏奈の言ったとおりだったんだと驚いていると、冬香が不安そうな表情になった。


「・・・かわいくない趣味で驚いたでしょ・・・。」


「そんなことないって!!相撲が好きな冬香も素敵だと思うし・・・。ほら、今日、相撲の話いっぱい教えてくれたじゃない。白神山の話とかも。その時の冬香の楽しそうに輝いてる顔を見てたらこっちまで嬉しくなってきて・・・。だから僕はそっちの方が全然いいと思うよ・・・。」


慌ててフォローすると、冬香は耳まで真っ赤になってうつむいたまま箸を手に取った。


「実は・・・もう一つあって・・・。ほら、いつも小食なフリをしてたじゃない・・・。実はそんなことなくて・・・。本当は食欲もすごくて・・・。でも・・・最初の頃、小食を理由にランチを断ってたから言い出せなくて・・・。」


そう言いながら、冬香は焼き上がったロースを口に運ぶ。その瞬間、冬香は顔をほころばせ、頬を押さえた。


そういえば、ラーメンを食べた時も、怖い店員さんも微笑むくらいの至福の表情をしていた。

まあ、あれは夏奈だったけど。


「それもいいと思うよ。おいしそうにご飯食べてる姿を見てると僕も幸せな気持ちになれるし。」


「ありがとう・・・。」


冬香が目を伏せながら、軽くはにかんだ。照れた感じが何とも言えず可愛らしい。


「じゃあ、今度はプロレス観に行かない?」


「えっ?」


冬香が目を真ん丸にして驚いている。さすがにこれは違ったか・・・?


「・・・・もうっ・・・。どうして栄斗くんは、急に私のことがそんなにわかるようになったの・・・?」


冬香は真っ赤になりながら下を向いてしまった。

照れ隠しなのか、テーブルの下では、さっきからブーツのつま先で僕の足をこつこつと軽くつついてくる。


「ううん、ごめん。むしろ、これまで僕は冬香のことを、あまり知ろうとしてなかったみたい。これからはもっと冬香の好きなものをいっぱい教えて欲しい。それで、それを一緒に楽しめたら嬉しいな。」


「・・・・・・。」


冬香は下を向いたままだったけど、小さくこくりとうなずいてくれた。テーブルの下で僕の足をつつきながら。


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