神に選ばれし勇者
トムは神に選ばれた勇者である。
彼は11歳の夏、川へ洗濯に行った時に流れてくる聖剣を拾った。
鞘から抜いてみると、聖剣は光を放ち始めた。
「トム……トム……私の声が聞こえますか……」
どこからか声が聞こえてきて、トムは驚いた。
不思議な声だった。
性別・年齢を感じさせない声だった。
「聞こえています。あなたは……?」
「私はあなたが拾った聖剣を落としたものです。それを返していただけますか?」
「……あなたが落としたのは、この小汚ない方の剣ですか? それともこのキラキラ輝く宝石がついた剣ですか?」
トムは2本の剣を見せて尋ねた。
「……そっちの小汚ない方の剣です」
「ブッブー、ハズレ! 答えは背中に隠しておいた第3の剣でした~!」
トムは剣を返さずに借りパクした。
剣は3分の1の確率で手元から離れていた。
天はトムに味方をしたのである。
つまり、トムは神に選ばれたのだ。
さらに、トムは借りパクをした。
借りパクは臆病な人間にはすることができない。
なぜならば、臆病な人間は借りたものをすぐに返さなければ不安になってしまうからである。
実はトムはこの時、不安に思っていた。
「嫌われたらどうしよう。殴られたらどうしよう」
と考えていた。
しかし、トムは、勇気を出して借りパクをした!
様々なリスクを承知の上で、借りパクをしたのだ……!
勇気とは、臆病と蛮勇の中間に位置する。
恐れを知らない者も、恐怖で動けなくなるものも、勇者とは言えない。
勇者とは、恐怖を知った上で強靭な精神力を持ってして、それに打ち勝つ者のことを言うのだ。
こうした経緯で、トムは神に選ばれし勇者となった。