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貸出記録の名前

「おーい、聞こえてっか〜?」


 本部に帰ってきて早々、スクールバッグの中から資料を取り出して数時間かけて確認したと思えば、その中の数十枚を並べて何も言わず、じっと考え込んでいる河蘭妓に、退屈そうな声をしてイーグルが言う。

 先程から、「ずっと何してんの?」と何度か河蘭妓に声をかけていたのだが、それを河蘭妓がフルシカトしているのが気に食わないのだろう。


「イーグル、少し静かにしてやったらどうじゃ。こうなった真夜が返事をしないのはいつものことじゃろ」

「でもつまんねーもん」


 鼓の言葉に不満げな顔をしてイーグルが言った直後、河蘭妓が口を開いた。


「ねぇ鼓、新しい鬼の情報とか調べられたりしない?」

「調べられないことは無いじゃろうが…何に使うのじゃ?」

「この前、盗本事件の話、したでしょ?その犯人が鬼かも知れないの」


 ちょっとこの資料見て、と付け足した河蘭妓の言葉に、鼓は大人しく彼女の言葉に従って、彼女のほうひ近付く。


「この赤丸がついてる名前の人、盗まれた本全てを借りた記録があるの」

「それが何で鬼の仕業ってことになんの?」


 イーグルの問いに、河蘭妓は鞄の中からスマホを取り出して、一つの記事を彼らに見せた。


「この自殺した少女、この人なの。海外から転校して来た生徒で、陰湿ないじめに遭ってたみたい」

「でもさ、そいつが犯人と決めつけるのは早いんじゃねぇの?」


 イーグルのその言葉に河蘭妓は「うん、その通り。でもね…」と鞄から、一個の小さな監視カメラを取り出して二人に見せる。


「ここ一週間、こっそりこれを図書室前に置いておいたんだけど、電車の中で確認してみたら、一切怪しい人物が映ってないの」


 それからね、と付け足して河蘭妓はコードをパソコンに繋いで、三日前のお昼休みまでテープを巻き戻す。するとそこには、一年生と思われる男子生徒が見えない何かにぶつかられて転んだ、ように見える光景が映っていた。

 その光景を二人が見たのを確認すると、河蘭妓は、その男子生徒の足元に焦点(しょうてん)を当てて画面をズームする。


「ここ。この男子生徒、何も本を持って来てなかったはずで、周りが落とした様子も無いのに、ぶつかられたような素振りをした直後、どこからか本が落ちてるの」


 そこには、子ども用の薄い絵本が映っていた。確かにそれは、何も無いところから落ちてきているように見える。

 ちなみに、河蘭妓の本部から学校への通学にかかる片道時間は約二時間ほどであるのだが、彼女は情報処理能力と動体視力に長けていた。悪魔と契約している、ということもあるが、彼女はまだイーグルと契約を交わす前から、全力では無いとは言えイーグルの動きを正確に追えるほどに、動体視力も、情報処理能力も高かったのだ。それにイーグルと契約したことによる能力向上も相まって、このような超人的なことができたのだろう。


「鬼の仕業にしか見えぬ、という訳じゃな…」


 少し沈んだような表情をして鼓が言う。同じ鬼である者が、自分の仲間である河蘭妓と敵対するような状況になるのが心苦しいのだろう。

 そんな鼓の様子を察したように、河蘭妓は「明日一応、この本の貸出記録も調べてみるけどね」とフォローの言葉を彼女に返した。

 しかし、河蘭妓の頭の中では、もう犯人は彼女だと確定していて、動機も何となく察しは付いており、思考はもう、どうやって彼女を捕まえるか、に向いていた。一応彼女は、透明になった状態の鬼であっても視認は出来る。しかし、いつ盗みに来るかは分からない相手に、その上他生徒のいるところで見かけても声をかけることが不可能な相手を、どう対処するか。それに夢中であった。

 河蘭妓は昔から、面白いことが好きだったのだ。それを表に出すことは滅多に無いが、人並みに面白いものを面白いと感じることが出来ないため、彼女が普通の域を超えた面白いことを求めるようになったのも、彼女は普段から退屈することが多かった、というのが要因の一つなのかも知れない。


「とか言いながら、もう真夜の頭ん中では確定してんだろ?」


 河蘭妓の発言に対し、嘲笑(あざわら)うかのようにイーグルが言う。彼は本当にデリカシーや配慮(はいりょ)、気遣いという物が欠如(けつじょ)しているのだ。それは彼の元の性格もあるだろうが、幼少期にそれを教えてくれる大人が居なかった、というのも要因の一つだろう。

 そんなイーグルの言葉に河蘭妓は珍しく少し優しげな声をして、まるで幼子(おさなご)にものを教えるかのように、「分かっててもそういうことは言わないものよ」と軽く(なだ)めた。


「真夜、良いのじゃ。事実は事実じゃ。妾もそれを受け入れられぬほど子どもではない」


 河蘭妓の気遣いを察して、鼓が小さく苦笑しながら言った言葉に、河蘭妓は少しの間を置いてから、少し驚いたような、納得したような声色で「そう」と返した。


「それじゃあ、一つお願いがあるのだけど…」






投稿がかなり遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。

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