エピローグ 家賃と食費と光熱費と
とっ散らかった状況を、ほったらかしにして飛んで行った高崎は、そりゃ気持ちが良かったろう。
あたし達は、事態の収拾に夜中まで働き通しだった。
まず署から飛んで来た応援部隊。動く木を見て呆然としていたものの、すぐにチェーンソーで伐採を開始したのはさすがだった。
とは言え黒塗りのベンツ男の救出には難航し、全身骨折の重症だったが、生きて救い出せたのは不幸中の幸いだった。
結局、男の証言で、金のなる木を作った魔女こと高崎はめでたく指名手配となった。
もっとも、高跳びしちゃった後だけどね。
それよりも、あたしにとって最大の事件がこのあと待っていた。
「今回は、張り込みまでやって大変でしたね」
あくる夜、なんとかひと段落ついて、あたし達は家でぐったり倒れていた。
「今日はピザでも取りましょう、ピザ」
もう、ご飯を作る気力もなくてあたしは携帯に手を伸ばした。
「あの、いいかな?」
「なんです?」
楡松さんが急に改まって言うものだから、あたしはよっこいしょっと身を起こした。
「これ、受け取ってくれないか」
「これって?」
差し出された封筒を、受け取るとあたしは中身を出して見た。
「お金?」
「あの、生活費、家賃なんかの……」
この前怒ったの、気にしてたんだ。
そう思って頭を上げると、少し赤くなった楡松さんの顔があった。
「なんだか、照れるな」
そう言ってはにかむ彼女を見て、あたしは思った。
この人……好きかも。
終