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五 雲か、霧か、曲者か?

赤と青と黄色の点が市内の中心部から、ゆっくりと雲のように広がっていく。

 形を変えながら広がる雲は、徐々に広く薄くなりながら、市内を霧のように覆っていくと突然姿を消して、地図上の一点に集中する。突然、雲は分裂するようにいくつかの場所に散らばって動き始め、そして動きを止めた。

「ご覧になったように、ニセ金の利用時期と現場は二つのフェーズに分かれます」

 捜査本部の会議室。あたしが作ったニセ金の拡散を追跡するツールでの分析結果を、彼女は報告していた。

「広範囲への拡散が第一フェーズ、集中した移動を繰り返す第二フェーズ」

 会議室のスクリーンには、楡松さんが作った資料に切り替わっていた。

 記録によれば、フェーズの切り替わりは二週間前。ニセ金事件が、ニュースになり始める直前だ。

「おそらく、この時期からニセ金の利用者が変わったか使い方を変えた……そう考えられます」

「使い方が変わったのは理解できる、しかし利用者が変わったというのは飛躍しているんじゃないか?」

 県警から捜査に加わっている年配の刑事が、楡松さんの分析に疑問の声を上げた。

 彼の周囲からも、その意見に同意する声が上がる。

「それはもっともなご意見です」

 楡松さんが、珍しく他人の意見に同意した。

「利用者が変わったと考えられる一つの根拠に、ニセ金の使い方に意図が感じられる点です」 

 楡松さんは、スクリーンの資料を切り替えた。

「このグラフは、金融機関でのニセ金の利用量を表したものです」

 地面を這うように進んている折れ線グラフが、二週間前にほぼ垂直に飛び上がっていた。

「それまでは主にコンビニなどの小売業で使われていたニセ金が、二週間前に突然、金融期間に集中します」

 飛び上がった線は、そのままグラフの上部で高止まりし続けていた。

「そして、これ以降は市内数箇所に、集中しながら移動を繰り返す動きを見せます」

 スクリーンは再び地図に切り関わり、ニセ金の雲が数箇所を移動しながら集中する様子を映し出していた。

「一回に使われる金額も、数百万前後と大幅に増加しています」

「数百万というのは小さい額ではないが、だから利用者が変わったのではというのは少し弱いのではないかね?」

 いまだに顔が青い署長が、口を挟んだ。

「数百万というのは確かにスケール的には大きくない、言い換えれば組織犯罪の世界ではさほど重要な額ではありません」

 楡松さんは、署長の意見を聞いてうなづいた。

「しかし、数百万程度であれば銀行のATMに預け入れるのに時間がかからず、悪目立ちしない金額です」

 確かに、桁が一つ変われば時間がかかりすぎて怪しまれる。それに一千万円とかだったら、持ち運ぶのも一苦労だ。

「そして、この数百万を預け入れる行為は複数の金融機関で同時に発生しています」

 あたしは県警の刑事をちらっと見た。難しい顔をして腕組みをしているが、楡松さんの話を飲み込んだように見えた。

「第二フェーズから行動が慎重でありながら、大胆になり組織だった動きが感じられます。つまりこの時点から何者かが、第一フェーズの犯人……おそらく製作者からニセ金を受け取った可能性が高いと考えます」

 以上です。

 楡松さんはそういって一礼すると、席についた。

「以上をふまえて、今後の方針として、銀行の防犯カメラから対象を割り出す。合わせて利用された口座を洗う」

 署長はそう言うと、会議室を見渡した。

 楡松さんの分析は、署長や県警の管理官、捜査の主だったメンバーに先に伝えていたので、捜査方針は決まっていたみたいだ。

「全力で捜査にあたれ!」

 署長も少しは元気が出てきたのかな?

 捜査会議が終わり、みんなが会議室を出て行く中、楡松さんがあたしに近寄ってきた。

「ご苦労さまだった、関根君のおかげでうまくいった」

「あ、ありがとうございます!」

 苦労した甲斐があったな、と思っていたら楡松さんの手が伸びてきた。

「ありがとう、組織相手は苦手なのでね」

 そういいながら、彼女はあたしの頭をなでた。

「ひゃ!」

「す、すまない驚かせたか」

「い、いえ、急だったので驚いて」

 驚いてるじゃん。

 心の中でセルフツッコミをしながら、あたふたとあたしはフォローした。

 フォローできてないけど。

「そ、それで、警部はこれから銀行ですか?」

 とりあえず仕事の話に戻して、取り繕う。

「ああ、いや、これを見てくれ」

 楡松さんも慌てながら、資料を取り出した。

 先ほどの地図と、ニセ金の利用地点をプロットしたあたしのツールのハードコピーだ。

「これは事件の始まりから、直近までを四日で区切ったものだ」

 資料は四分割されて、最初の四日間から直近までの十四日間のニセ金の動きを示している。

 最後だけ二日しかないけど。

「ここを見てくれ」

 楡松さんの指先を見ると、一点だけ常にニセ金が使われ続けている地域がある。

「妙ですね? なんでここだけ?」

 しかも小売店、お店での使用がほとんどだ。

「ここに行こうじゃないか、答えがあるはずだ」

 楡松さんはそう言うと、不敵に笑った。

次回は明日(12/28)8時公開予定です。

毎日更新予定です、よろしくお願いします。


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