一 完全でカンペキでまったく同じ
「本物と見分けがつきません」
鑑識官はルーペを覗くのをやめると、諦めたように一万円札を摘み上げた。そして、ためらいながら、鑑定機にお札を読み込ませた。
ピコン、と物々しい外見には似つかわしくない音を立てると、鑑定機はグリーンのランプを点灯させた。
「このように、機械での判別も不可能です」
鑑識官が青ざめた顔でそう結論づけると、会議室内にざわめきが広がった。
「聞いての通り、本署管内を中心に周辺地域に判別不能のニセ金が大量に出回っている」
捜査本部長であるところの署長が、これまた弱々しい声で『事件』の概要を説明する。
昨夜、ニセ金の中心地にいながら見逃すとは何事か! と偉い人たちに散々と搾られたらしい。
「長期間にわたり流通した結果、周辺地域に波及したものと考えられる」
そして、弱々しい声で付け加えた。
「本件は、その性格上、魔法関連の事件である可能性が高い」
魔法がらみかー。
あたしをはじめ、会議室の面々は軽く頭を抱えた。
この町には魔法の力が息づいている、それがどういったワケかたまに悪さをする。騒ぎになる程度ならいいけど、犯罪になるとかなり厄介だ。
なにせ魔法は物理法則を軽々と飛び越える。
ちょっと前までは、民間人の魔法少女たちがボランティアで事件解決に協力してくれていた。でも、今は色々あってお休み中。
それに魔法を使える魔女や魔法使いが、街の中にはいっぱい居て、普通にお店やっている人やサラリーマンもいる。そしてやっぱり、魔法を使って悪いことをするのもいる。
魔法がらみとなれば、発覚が遅れるのも頷けるし、影響が広範囲になっていることも予想される。
周辺地域では金融機関を中心に、見つけしだい回収するとのことだが、総額でいくらになるか見当もつかない。
「以上、質問はあるか?」
およその状況の説明が終わったところで、あたしは恐る恐る手を上げた。
「あの……」
「なんだ? 関根巡査部長」
「そこまでカンペキなニセ金、どうやって見つけたんですか?」
ニセ金を追跡する側としては、見分けるための特徴ぐらいは知っておきたい。
「番号が、同じだ。全部同じなんだ」
うっわー。
あまりに重大な事実に、あたしは倒れかけた。
ないわー、それはないわー
「昨日、県警本部の経理がたまたま気がついて発覚した」
警察まで気がつかないと言うのは、相当精巧なニセ金だ。
「該当の紙幣番号は資料にある通りだ……」
会議室内の何人かが財布を取り出すと、資料の番号と見比べはじめた。あの人たちは万札持ってるのかー。
ケッ、金持ちめ!
「見るんだ」
ぼそっと、あたしの横にすわっている楡松明希さんが呟いた。
「楡松警部は見ないんですか?」
あたしは不思議そうな顔をしている楡松さんに、少し意地悪く聞いた。
「現金は持たない主義なんだ」
「そうですか」
あまり面白味のない答えだったので、そっけなく返事をした。
自分から聞いといてなんだけど。
「わざと気がつくようにしているのでなければ、犯人は相当な間抜けだな」
「わざとって、何のためです?」
彼女の呟きの意味が良くわからなくて、あたしは質問した。
だって、バレない方が絶対にいいのに、わざわざバレるように自分から仕掛けるとかありえなくない?
「自分の腕を誇示するためだ」
「誇示?」
「自慢するということだ、関根環君」
楡松さんはそんなこともわからないのか? と言いたげな顔で答えた。
「意味ぐらいはわかりますよ」
あたしは、むくれながら答えた。
「誇示してどうするんです?」
「警察をコケにして楽しむか……」
そう言いながら、警部は会議を終わらせた署長の姿を目で追った。
憔悴しきっている署長の顔は、確かにコケにされている感じがした。
「まあ、コケに出来てますね」
「君も私もコケにされている一員だ」
あまりに率直に言いすぎたせいか、警部は少しイラッとしたように返した。
警官の資格ギリッギリの背丈に足りてるか怪しい楡松さんがあたしのことを睨むと、どうしても上目遣いなってしまうのでカワイイ。
くるくるの癖毛に切長の瞳、猫を思わせるその姿は黙っていれば美少女に見えるのに、皮肉と嫌味ばかり言っているのがもったいない。
「あ、そうでした」
「まあ、末端の我々の士気に関わる話ではないがな」
「そうでもないんじゃ、ないですかね……」
会議が終わり立ち上がる同僚、特に先輩方の表情を盗み見ながらあたしは言った。
「今回はデモンストレーションで、客を募集中なのかもしれないな」
「名前を売るってことですか?」
「そういうことになるかな」
楡松さんは資料に書かれた、ニセ金の分析資料を眺めながら答えた。
「本当のところは、犯人に聞かないとわからないさ」
彼女は席を立って、猫のように大きく伸びをした。
「さて、関根君。仕事に行くか」
次回は明日(12/24)8時公開予定です。
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