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二度目のデート 

 今日は、星祭りの日以来のシュリガンさんとデートだ。

 今回は、何とか自分で服を選んで化粧をして出かけた。


 待ち合わせ場所に行くと、シュリガンさんはもう来ていた。

 前回お待たせしてしまったので、今回は三十分前に来たのに、シュリガンさんはいつから待っていたのだろう?

 やはりスラリと背が高く容姿の整ったシュリガンさんは、女性に声をかけられては眉を顰めて困っていた。


「お待たせしてすみません」

 私が声をかけると、シュリガンさんがホッとした顔をして嬉しそうに微笑んだ。

「いえ、僕も今来たところです」

 その言葉も同じで、私はクスクスと笑った。


「シュリガンさん、それは嘘ですよね?本当はいつから待っていたんですか?」

 私が尋ねると、シュリガンさんは恥ずかしそうに目を彷徨わせた。

「……実は一時間前です」

 その驚きの時間に、私は目を丸くした。


「セシリアさんと出かけるのが、嬉しくて待ちきれなくてつい……」

 シュリガンさんの語尾がだんだんと小さくなり、チラリと私を窺った。

「あ、ありがとうございます……」

 私も、気恥ずかしさに語尾が小さくなってしまった。


「じゃあ、行きましょうか」

「はい」

 今日は、広場に他国の市が立つのでそれをブラブラと見たあと、一緒にお昼を食べに行く予定だ。


「あの、手を繋いでもいいですか?」

「は、はい」

 私は手をハンカチで拭いてから、シュリガンさんに差し出した。

 今日こそ恋と愛について理解できるように、握られた手を分析する。

 今のところ、働き者の文官の手であることしかわからない。


「あれ〜?セシリアさんじゃないですか?」

 その時、明るい声に名前を呼ばれた。

 振り向くと、バルドさんと、その腕にピトリとくっついたミーア様がいた。

 フワフワしたピンクブロンドの髪には白いレースのリボンをつけ、青空色のワンピースを着たミーア様はとても愛らしかった。


 バルドさんも貴族然とした格好をしていて、二人はとてもお似合いに見え、私はそっと二人から視線を逸らした。

 シュリガンさんが、そんな私をじっと見つめていることには気づかなかった。


「わあ、偶然ですね!もしかして、セシリアさん達も広場の市を見に行くんですか?」

 ミーア様はギュッとバルドさんの腕にくっついて、ニコニコ話しかけてきた。


「はい」

 私は顔が強張るのを感じながら答えた。バルドさんの方は見られず、ミーア様だけを見た。

「そちらの方は、すごく格好いい人ですね。お名前は何て言うんですか?」

「……シュリガンです」

 シュリガンさんが、ミーア様の勢いに押されながらボソリと名前を言った。


「平民なんですね!私は、ホログリム子爵が娘ミーアです。ミーアって呼んでいいですよ」

 ミーア様が、人懐こくニコニコとシュリガンさんに微笑む。


「そうだ!せっかく会ったんだから、一緒に行きましょう」

「え?」

「ね!?みんなで見に行った方が楽しいです」

 私が戸惑っているうちに、ミーア様は決めてしまった。


「ミーア。わがままを言って迷惑をかけるな」

 バルドさんが、厳しい声でミーア様を窘めた。

「え?シュリガンさん、セシリアさん、迷惑ですか?」

 途端に、ミーア様は悲しそうに目を潤ませる。


「いえ、迷惑ではありません」

 シュリガンさんが、無表情で答えた。

 貴族に誘われて、平民である私達は断れるわけがない。


「ほら、お兄様。迷惑ではないそうです」

「ミーア。駄目だ」

 厳しい顔のバルドさんに、ミーア様はみるみる涙を盛り上げポロポロと泣き始める。


「どうして、そんなに怒るんですか?セシリアさん、お兄様に怒らないでって言ってください」

 私は、困ったようにバルドさんを見た。

 バルドさんがこちらを気遣ってくれているのはわかるが、このまま泣いているミーア様を知らんぷりもできない。


「では、市で何か美味しい物を食べませんか?」

 広場はすぐそこだし、ミーア様もみんなで何かすれば満足するのではないだろうか。

「みんなで美味しい物!いいですね!」

 ミーア様がケロリと泣き止んだ。


「シュリガンさん、セシリア嬢、すまない」

 バルドさんが小さく謝ってきたので、私達は大丈夫だと小さく微笑んだ。

「シュリガンさん、勝手に決めてしまってすみません」

 ご機嫌でバルドさんの腕にくっついて前を歩くミーア様の後ろを歩きながら、シュリガンさんに謝った。


「いえ。セシリアさんが悪いわけではありません。気にしないでください」

 シュリガンさんは、優しく微笑んだ。


「もう!シュリガンさん達、遅いですよ」

 ミーア様は急に振り向くと、トテトテと私達のところに来て、シュリガンさんと私が繋いでいる手を強引に解いて前に連れて行ってしまった。

 唖然としている私の前で、バルドさんとシュリガンさんの腕にくっついた。


「ウフフ。両手に花ですね」

「すみません。離してください」

「ミーア!」

 困惑するシュリガンさんと、叱咤するバルドさんを知らんぷりして、ミーア様は私を振り向いてニッコリ微笑んだ。


「ずっと体が弱かったから、こんな風にみんなで歩くの初めてなんです。今だけだから、いいですよね」

 可愛らしく小首を傾げて、許可を取るでもなく自分のしたいことを通すミーア様に困惑した。

 しかし自分が我慢するのは構わないが、シュリガンさんに迷惑をかけることはできない。


「申し訳ありませんが、シュリガンさんも困ってますので離していただけませんか?」

 まさか拒否されるとは思いもしなかったミーア様は、キッと私を睨んだ。

「セシリアさん、ひどいです!どうしてそんなこと言うんですか!?」

 ミーア様が怒鳴った。

 周りの人達がどうしたとばかりに私達を見る。


「あの、セシリアさん。少しの間ですから、大丈夫です」

 気を遣って、シュリガンさんが言うとミーア様がニコニコと機嫌を直した。

 しかし、バルドさんは立ち止まった。


「いい加減にしろ、ミーア。これ以上わがままを言うなら、お出かけはここまでだ」

 バルドさんが厳しい顔で言った。

 本気で叱るバルドさんに、ミーア様は拗ねたような顔をしたあと、パァッと顔を明るくした。


「お兄様ったら、やきもちを妬いてるんですね!シュリガンさん、ごめんなさい。お兄様が嫉妬してしまったので、セシリアさんと手を繋いでください」

 ミーア様は、シュリガンさんからパッと手を離すとニコニコと手を振った。

 バルドさんが嫉妬……。

 どうにもモヤモヤとした嫌な気持ちが広がった。


「シュリガンさん、行きましょう」

 私は、ピッタリとくっつくバルドさんとミーア様を見ないように、シュリガンさんの手を引いてズンズンと歩いて行った。

「セ、セシリアさん?」

お読みくださりありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
物語的な本命はバルドさんな気がするけど、実際にバルドさんが相手の場合はお互いの覚悟が必要になってくるので現実的に付き合うならシュリガンだし、前向きに彼と付き合う事を考えるのもおかしくないんですよね。 …
主人公はただ無知を盾に、相手の男に期待させるダメ女やん。恋愛関係でなくても、手を繋いだりは相手を勘違いさせる事ぐらいは分かりますよね?恋愛とは?と相手有りきのお勉強して、やっぱりあなたではありませんで…
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