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再びのミーア 

「セシリアさん、探しましたよ。私、お兄様に会いに第二騎士団に行きたいんです。案内してください」

 ミーア様は断られるなど微塵も思わない様子で、ニコニコと言った。


「あの、なぜミーア様がここに?」

 急に現れて、騎士団に連れて行けと言うミーア様に私が戸惑っていると、ミーア様がプクッと頬を膨らませた。


「もう! お父様のお仕事について来たんです。私はお兄様の訓練されている素敵な姿見たいんだから早くしてください」

 キャサリン様達がもしかしてというように私を見たので、私は困ったように頷いた。


「ちょっと、あなた。図々しいですわ」

「どうしてセシリアさんが案内しなければいけないのかな? ちょっと君、図々しいよ」

 キャサリン様達が非難した。


「あなた達は、セシリアさんの平民のお友達? 平民は黙っていてください」

 二人は、子爵令嬢のミーア様より家格が上だ。

 キャサリン様とグラビス様が、冷たくミーア様を見た。


「私はキャスタール侯爵が娘、キャサリンですわ」

「私はタイタン伯爵が娘、グラビスだよ」

 途端にミーア様は、みるみる涙を盛り上がらせてハラハラと泣き始めた。


「ひどいです。セシリアさんは高位の貴族をけしかけて私に意地悪するんですね」

 これではこちらが泣かせているみたいだ。

 誰かに見られたら、おもしろおかしく広められてしまう危険もある。


「そんなつもりはありません」

「だったら、私に意地悪しないでって二人に言ってください!」

 癇癪を起こしたように、大声を出す。

 もう丸く収めるためには、こちらが引くしかない。


「キャサリン様、グラビス様。私、ミーア様を第二騎士団まで送ってきます」

 二人がうんざりした顔でミーア様を見た。

 この場は、こちらが引いたがミーア様は上位のお二人を敵に回したようなものだ。今後の社交は大変だろう。

「じゃあ、キャサリン様、グラビス様、行って来ますね」


   ◆


 第二騎士団に着き、入り口で入館の帳簿に時間と名前を書く。

 これは以前はなかったのだが、四年前仕事をさぼって当時の騎士団長を見に行くメイドがいたことから、入館する際に名前を記帳するようになったのだ。

 そうすると、意外にも不審な人物を発見しやすくなったという効果もあったそうだ。


「ミーア様、こちらにお名前を書いてください」

「え? セシリアさんが書いたんだから、私はいいんじゃないんですか?」

 ミーア様は、さっさと中に入ろうとするのを入り口の騎士に止められた。


「もう、何なんですか?」

「規則ですので、こちらにお名前を記帳願います」

「すみません。ミーア様、勝手に入ってはいけません」

 ミーア様は、それでも頑なに書こうとしない。


「ミーア様? 記帳しないと中には入れませんよ?」

「だって、お父様には部屋から出るなと言われているんです。名前を書いたらお父様にばれて叱られてしまうでしょ」

 なんてことでしょう。どうやら、ミーア様は勝手に王城をウロウロしていたようです。


「それでは、すぐにお戻りになった方が――」

「何を騒いでいる!?」

 その時、鋭い声がした。


 見ると、キラキラした立派な騎士服を着た、艶やかなプラチナブロンドに、華やかで整った顔の若い男性が立っていた。

 私をチラリと見ると、露骨に顔を顰めた。


「あの平民上がりの侍女か。身の程知らずが」

 キラキラした騎士服の男性が忌々しげに私を睨んだ。

 どうしてか、私は恨みを買っているようだ。

 一体誰なのだろう?


「カルサンス団長、失礼いたしました。こちらの御令嬢が記帳せずに中に入ろうとしまして」

「おい! カルサンスなんて呼ぶな! レイモンド団長と呼べ! お前らもだ! 公爵令息だった私がカルサンス男爵の名で呼ばれるなど冗談じゃない」

「失礼しました。レイモンド団長」


 レイモンド!?

 その名前は、キャサリン様の元婚約者だ。

 婚約破棄をした罰で公爵家を出され、浮気相手のカルサンス男爵家に婿入りした方だ。


 王太后殿下が無理に第二騎士団の騎士団長に捩じ込み、侍女試験の時の護衛騎士を勝手にラウンドア様に替え、その罰で謹慎処分となったと聞いた。

 とうとう戻って来ていたのか。

 唖然とレイモンド団長を見た。

 せっかくの整った顔立ちも、王太后殿下とよく似た底意地の悪さが滲み出ていて台無しだ。


「ごめんなさい。でも、どうしても中に入りたいんです。レイモンド団長様、お願いします」

 ミーア様が、ウルウルと目を潤ませて両手を組み上目遣いにレイモンド団長を見つめた。

 途端にレイモンド団長の顔がだらしなく緩んだ。


「そうか。まあ、いいだろう」

「は!? レイモンド団長! 勝手は困ります。規則をそんな軽々しく破っては他に示しがつきません」

 入り口を守る騎士が、慌ててレイモンド団長を止めた。


「おい。私に指図をするのか!? お前は何様だ? 私より偉いのか?」

 威嚇するように怒鳴り散らした。


「ミーア様、ご迷惑をかけてはいけません。お名前を書くべきです」

「おい、お前も余計なことを言うな!」

「そうです! せっかくのご厚意に失礼ですよ。あとはこの方と行くので、もうセシリアさんはいいですよ」

 そう言うと、二人はさっさと中に進んでしまった。


「本当に申し訳ございません」

「いえ、あなたのせいではありません。」

 騎士が諦めたようにため息を吐いた。

「レイモンド団長は自由な人なので、しょうがありません……」

 とても苦労しているようだ。


「バルド副団長が団長のままでしたら、こんなことは絶対ないのですがね……」

 確か、レイモンド団長を無理に団長の座にねじ込んで、バルドさんが副団長に降ろされたと聞いた。

 私はふと、バルドさんの前の団長を思い出した。

 とても不憫な若い団長だったが、団長になって少しすると姿を見なくなった。


「そういえば、バ、ガルオス様の前の若い団長はどちらに異動されたのですか?」

 騎士が不思議そうに首を傾げた。

「バルド様の前の団長は高齢のため引退された方ですよ」

 それはおかしい。


「あの、四年ほど前にいらっしゃった若くて見目のよい団長ですが」

 私も首を傾げながら尋ねると、ああと頷いた。

「四年前の見目のよい若い団長といったらやっぱりバルド・ガルオス副団長ですよ」

 私は驚いて目を見開いた。

 あの彼は、バルドさんだった……?

今年最後の更新です。

ここまでこの作品にお付き合いくださり

ありがとうございました。

また来年も、読んでいただけましたら嬉しいです。

良いお年をお迎えください(*^^*)

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