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久しぶりの実家

 今日は一人暮らしして初めて休みの日だ。

 午後から実家に置きっぱなしの荷物を取りに行く予定だ。

「嬢ちゃん、準備はいいか?」

「はい。今出ます」


 約束通り、バルドさんが一緒に荷物を取りに行ってくれる。

 ドアを開けると、バルドさんがジャケットを着ていつもよりきちんとした格好をしていた。

 思ったより、彼はがっしりした体つきをしていた。 


 荷馬車に乗るのに手を取られると、その手は肉刺(まめ)だらけで分厚く大きい。

 きっとこれが包丁を長年握る料理人の手なのだろう。


肉刺(まめ)がすごいですね」

「ああ、職業柄な」

「怪我など気をつけてください」

 包丁で指を切ってしまったら大変だ。

「おう。俺はベテランだから、そんなヘマしないさ」

 さすが、バルドさん。頼もしい料理人だ。


「あ、そこの角を曲がって少し行ったところです」

「ああ、あのでっかい店だな」

 三階建ての煉瓦造りの実家が見えてきた。


 一階がお店と従業員の支度室と倉庫があり、二階がお客様対応の部屋や宿泊室。そして三階が家族のスペースになっている。

 父さんが大きく築き上げたルパート商会は、王城にも紅茶を卸しているほど大きい。

 バルドさんに言って、店の邪魔にならないよう裏に荷馬車を停めてもらった。


「セシー」

「姉さん!」

 私がバルドさんの手を借りて荷馬車から降りると、母さんとリリアが裏口から飛び出し、私に抱きついた。


「セシー、よく顔を見せて」

 母さんが、涙目で私の顔を両手で包み覗き込んだ。


「元気そうで良かったわ」

 私は家を出て、とりあえずはおばあちゃんちにお世話になることはすぐに知らせた。

 そして、今回の引越しのこともリリアを通じて母さんに知らせてあったが、やはり心配させてしまったようだ。


「母さん、心配かけてごめんなさい。それで、今日父さんは?」

 まだ、父さんと顔を合わせるのは気まずい。


「父さんには、今日姉さんが荷物を取りに来ることは言ってないわ。ここのところ毎日出かけてるから大丈夫」

 リリアが鼻の頭に皺を寄せて「父さん本当腹立つ」と小さく呟いた。


「リリアも、嫌な気持ちにさせてごめんね」

「姉さんは全然悪くない。姉さんがあの馬鹿二人にビシッと言ってスッとしたんだから」

「リリア、お客様の前なんだからそこまでで」

 そうだった。すっかりバルドさんを放っておいてしまった。


「バルドさん、すみません」

「いや、気にするな」

 バルドさんはニカリと笑って、手をヒラヒラ振った。


「母さん、リリア。こちらバルドさん。私の引越しのお手伝いに来てくれたの」

「まあ、ご親切にありがとうございます」

「もしかして、姉さんの恋人?」

 リリアが、興味津々でとんでもないことを聞いてきた。


「まさか!王城の知り合いよ」

「おいおい、俺は友人とも思ってもらえてないのか?」

 バルドさんが、がっくりと肩を落とした。


 ゆ、友人!?

 悲しいかな、私は今まで友達がいたことがない。

 平民の同年代の女の子は、ヘンリーの婚約者だった私をいつも憎々しげに睨んでいたし、学園の貴族の令嬢は、平民のくせにトップの成績の私を、やはり憎々しげに睨んでいた。


 どうしよう?友人とはどのタイミングで言うのかわからない。

「えっと、お友達になりましょうって、バルドさんに言われたことがなかったので……」

 私が顔を赤くしてモジモジ言うと、三人が目を丸くして凝視した。


「……ああ、姉さんお友達いたことがなかったから」

「……セシー、頭はいいのにね」

 二人が残念そうに言った。


「そっか。じゃあ、俺が初めての友達だな」

 バルドさんがニカリと笑って言った。

「はい。よろしくお願いします」

 私は嬉しくて、バルドさんを見上げて微笑んだ。


 そんな私の顔を見て、母さんとリリアがあらあらまあまあと顔を見合わせニヨニヨ笑った。


「持って行く物をまとめて来るので、バルドさんはお茶を飲んで待っていてください」

「姉さん、私も手伝うわ」

「リリア、ありがとう」


 バルドさんの相手を母さんにお願いして、私とリリアは三階の私の部屋に向かった。

 久しぶりに帰って来た部屋だから、母さんがこまめに換気と掃除をしていてくれたようで、出て来た時そのままに綺麗にしてあった。


「じゃあ、リリアは本をお願いしていい?」

「了解〜」

 私は服をまとめ始めた。


「その後、父さんはどう?」

「相変わらずよ。ここのところはずっと外に出ていて、帰って来るのは深夜の時もあるわ」

「どこに行ってるの?」

「多分、新しい取引先じゃない?」

 私が家を出ても、父さんの日常は変わらないようだ。


「そう……」

 一抹の寂しさが胸を締め付けたが、ため息を吐くとそれもなくなった。

 そんなことは、わかっていたじゃないか。


「リリア、こっちは持って行かないからほしい物があったらもらってね?」

 本棚もクローゼットも机の上も空になり、私の部屋だったはずが人の部屋みたいだ。


「じゃあ、全部預かっておくよ。必要な時は言って」

「邪魔なようなら捨ててね?」

「大丈夫。……姉さん」

 リリアが、甘えるように抱きついてきた。


「姉さんがいないの寂しい……」

 私もギュッと抱き返した。

「いつでも遊びに来て。父さんと母さんをよろしくね」

「母さんはよろしくされるけど、父さんはイヤ!」

 リリアがムゥッと唇を尖らせた。子供の頃と変わらないその顔に笑った。




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