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ニルス・ラウンドアの襲撃

 牢から出て、怒涛の流れをユリア様達から聞いたあと、今日は休むように言われたので、帰る前にバルドさんの部屋を訪れた。

 バルドさんの意識はまだ戻らない。

 しかし、怪我自体は随分快方に向かっているそうだ。


 私は、バルドさんのいつもの流れのお世話をすると、ぼんやりとベッドの脇の椅子に座った。

 本当に、びっくりなお話だった。

 バルドさんが目覚めたら、何と言うだろう。

 きっと、あの綺麗な青空のような目を丸くするに違いない。


「バルドさん……。話したいことがたくさんあります」

 私は、そっとバルドさんの頬を撫でた。

 侯爵家が付けた方が、綺麗に髭も剃っているようでつるりとしていた。


「私、バルドさんに伝えたいこともあるんですよ?」

 その時、ノックもなくドアが開いた。

 何気なく振り返った先に、平民に落とされたはずのラウンドア様がいた。


 一体なぜ彼が王城にいるのか!?

 ラウンドア様の目は赤く血走り、瞬きせず大きく見開き、憎しみのこもった目で私を睨んでいた。

 私は、バルドさんを庇うように立ち上がった。


「お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせい……」

 ブツブツと口の中で呟く彼の雰囲気は異様だった。

 ほんの小さな刺激で何かが弾けてしまいそうな危うさがあって、私は声も出せなかった。


 ゆらゆらとラウンドア様が私に近づいて来た。

 私の後ろにはバルドさんがいる。

 私が動けずにいると、ラウンドア様が私の腕を掴むと床に引き倒した。


「お前の……お前のせいだ。何もかも……」

 床に引き倒された衝撃に目がチカチカとした私に、ラウンドア様は馬乗りになった。

 そして、ためらいなく私の首を両手で絞めた。


「ぐっ……」

 私はバタバタと手足を動かすが、元は騎士だったラウンドア様はびくともしない。


 ――バルドさん……!


 私は遠のく意識の中で、バルドさんの名を呼んだ。

 その瞬間、私の体の上からラウンドア様が吹っ飛んだ。

 壁にぶつかる鈍い音と、ラウンドア様が呻く声がした。


 私は大きく息を吸い込み、咳き込んだ。

 まだ視界がグラグラと揺れている。

 視界の端で、誰かがラウンドア様をシーツで縛り上げていた。

 そして、その誰かが私を抱き起こした。


「セシリア! セシリア! 大丈夫か!?」

 いつも私を包む懐かしいテナーの声。

 咳き込む私を、大きく分厚い、そしていつも優しい手が気遣わしげに背中を撫でた。

 咳き込んで出た涙とは違う涙が溢れた。


「バルドさん……」

「セシリア!」

 私は、バルドさんの胸にきつく抱きしめられたのを感じながら、安堵に意識を手放した。


   ◆


 王城の医務室で目が覚めた時、キャサリン様が私の手を握って赤い目をしていた。

「キャサリン様……?」

 一瞬頭が混乱したが、首に巻かれた包帯にラウンドア様に首を絞められたことを思い出した。


「ああ、セシリアさん。よかったですわ。もう大丈夫ですわ」

 私はキャサリン様に、ギューギューと抱きしめられた。


 そうして、だんだんと記憶が繋がっていく。

 そうだ!バルドさん!

 私はバルドさんに助けられたのだ。


「キャサリン様、バルドさん!バルドさんはどこですか!?」

 あれは夢ではなかったと信じたかった。

 しかし、キャサリン様はとても申し訳なさそうな顔をされた。

「キャサリン様?」

「ガルオス様は、もう王城にはおられません」




 私は丸三日眠っていたそうだ。

 結局、ラウンドア様は他の親族と同様に処刑となった。平民に落とされた身で王城に忍びこみ、王女殿下の専属侍女である私の殺人未遂だ。

 自業自得です! とキャサリン様は目を吊り上げてきっぱり言った。


 私の方は、バルドさんが怪我をしてから、ほぼ毎日ベッド脇の椅子で寝続け、リューゼン様が来て家に帰ったものの、結局心配でよく眠れず、そこにきて隙間風の入る牢で一晩過ごしたうえ、ラウンドア様に首を絞められ、そこにバルドさんに抱きしめられて、安心して一気に睡魔に襲われたようだ。


 あの日、バルドさんは大慌てで意識を失った私を横抱きにして、医務室にすごい剣幕で駆け込んだそうだ。

 縛り上げたラウンドア様は、途中で会ったドュークリフ様に頼んだらしい。いきなりのバルドさんの登場に、それはそれはドュークリフ様は驚かれたと後に言っていた。


 医務室でも、意識が戻らずにいたはずのバルドさんの登場に、医官達は大騒ぎになった。

 ベッドに寝かされた私の周りを、心配そうにウロウロするバルドさんは早々に追い出され、バルドさん自身も診察を受けた。


 もう、意識が戻ったので大丈夫だそうだ。

 ただ、ベッドに横になると痛みにしばらく唸っていたとか。あんなにずっと寝ていた状態で、目覚めてすぐによく動けたものだと医官達が感心したように言っていた。


 その後、リューゼン様が迎えに来て、バルドさんも一緒にガルオス侯爵家に帰ったそうだ。

 最後まで、私の意識が戻るまでは帰らないと言っていたが、最後には意識を刈られて馬車に乗せられて行ったとキャサリン様が遠い目をして教えてくれた。


   ◆


 その後、私はユリア様に一週間のお休みをいただいた。

 私を助けるために動いてくださった方々にお礼の手紙を書いたり、直接お礼を言いに訪ねたりして過ごした。

 そうして過ごした数日後、アルロニア帝国にいる父さんから手紙が届いた。

 その手紙を読んで、私はゆっくり微笑んだ。

 これで準備が整った!

 私はすぐさまガルオス侯爵家に訪問したい旨の手紙を出した。


 お休みの最後の日、私はガルオス侯爵家を訪れた。

 青空色のドレスを着て!

お読みくださり、ありがとうございます。


いよいよ物語もラストに近づいてきました!

あと少しお付き合いくださいませ〜

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『私の人生にあなたは必要ありません〜婚約破棄をしたので思うように生きようと思います〜』       html> ☆ 好評配信中 ☆ html> ☆ 好評発売中 ☆ html>
― 新着の感想 ―
 よく忍び込めたな? なんにせよ、バルドが目覚めてよかったな。
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