襲撃の真相 後編
あまりの抗議の多さに、どうしたものかと頭を抱える陛下の元に、ウッキウキノッリノリの王太子殿下と宰相様が偽の玉璽を手に現れたそうだ。
いきなり、とんでもない話に飛んだ!?
もしかしたらと、偽の玉璽の存在の可能性も頭にあったが、いざ本当に偽の玉璽が作られていたことを知ると、その恐ろしさに体が震えた。
私は、一旦深呼吸をさせていただいて、話の続きを聞いた。
発端は、やはり私がグラビス様に託した件の書簡だった。
書簡は無事にグラビス様からウルブシュア様に渡り、さらには宰相様から王太子殿下に渡ったらしい。
そして、何がどうなったのか宰相様と王太子殿下が意気投合のうえ、王太后宮に乗り込み、あっという間に偽の玉璽を発見。
私は、聞き間違えたのかと思ったが、本当にあっさり発見されたらしい。
王太子殿下が、王太后殿下に「偽玉璽作った?」「どこに隠しているの?」「あっち?」「それともこっち?」と笑顔で的確に追い詰めるように質問していき、宰相様がじっと王太后殿下の表情や目の動きを読み、二重底になっていた引き出しの中から、偽の玉璽を見つけたそうだ。
その時間十分……。
なんと王太后殿下は、王家の血を引いている貴族至上主義の者を王の座に据えることを画策していたらしい。
それに加担したとして、貴族至上主義は綺麗さっぱり粛清された。
王太后殿下は、幽閉されることとなった。
そして陛下と王妃殿下は、王太子殿下と宰相様、ユリア様に促され、速やかに隠居することになったそうだ。
あれ?
王太后殿下が幽閉になったところまでは、お話についていけたのだが、ここで私は脱落した。
なぜ、何もされていない陛下と王妃殿下が隠居?
ユリア様によると、何もされなかったからだそうだ。
結局、陛下は実の母親ということで王太后に甘くなり、王妃殿下もまた、諌めるべきところで、王太后殿下と揉めることを嫌がり動かなかった。今回のボイコットの座り込みに対しても、王妃殿下は静観し、最後まで動かなかったのだそうだ。
王太子殿下と宰相様は、金輪際、愛しいエリザベート様と離れることがないように、大切なウルブシュア様が涙することがないように……じゃなくて、二度とこのような騒動が起こらないように、王位を王太子殿下に譲るように陛下に厳しく迫った。
初めは渋っていた陛下も、本来なら極刑を免れない王太后を幽閉に減刑するために、王太子殿下に王位を譲ったのだそうだ。
ただあの書簡の一件には、王太后殿下は関与していなかったようだ。
ここからは、重しの取れた第一騎士団の騎士団長のご活躍だ。
この粛清のお陰でうるさく口出しする老が……ではなく、お年を召した貴族至上主義の御当主が続々と退場。
ウロウロ邪魔ばかりしていた無の……じゃなくて、能力に問題のある貴族至上主義の騎士達がごっそりいなくなったらしい。
身軽になられた第一騎士団の騎士団長は、高位貴族用の牢で悠々とくつろいでいたレイモンド元騎士団長の首根っこをひっ掴み、第一騎士団の訓練場に連れて行ったそうだ。
そして、レイモンド元騎士団長がぶん投げられた先には、第二騎士団の騎士達がいた。
さらに観覧席には、亡くなった第二騎士団の騎士達の遺族と新聞社が来ていたそうだ。
これは、ユリア様が呼んでいた。
第二騎士団の騎士達は、貴族至上主義が消え去ったことを知ると、すぐさま真実を話し出した。
やはり、騎士達は脅されていたようだ。
騎士達の証言によると、あの襲撃の首謀者は、あろうことかレイモンド元騎士団長であった。
本当にありえないとんでもないことだ。
騎士団長の座を取り上げられ焦ったレイモンド元騎士団長に、貴族のふりをしたドルゴン王国の密偵が接触したらしい。
そして、盗賊をトルッカ砦に引き入れ、自分が追い払ったことにして英雄になるのはどうかと自作自演を唆したそうだ。
愚かなレイモンド元騎士団長は、それに飛びついた。
しかしその盗賊は、アルロニア帝国の一行を襲うために盗賊に扮したドルゴン王国の騎士だった。
そんなことなど思いもしないレイモンド元騎士団長は、あの件の書簡を書き、秘密通路を使って王太后宮に忍びこみ、偽の玉璽を押した。
ちなみに、王太后宮への秘密通路も偽の玉璽についても、元は王女であった母親から聞いていたらしい。
レイモンド元騎士団長は、王命だと言ってトルッカ砦に乗り込むと、全権をその手に収めた。
しかし、その偽の玉璽が押された書簡に疑問を感じたバルドさんは、レイモンド元騎士団長からこっそり書簡をすり替えて盗み出した。
そして、万が一の証拠として、全く関係のない誰かにこの書簡を送り、預かってもらうことにしたのだ。
王城には、王太后殿下を筆頭とした貴族至上主義がいる。それは賢明な判断だろう。
そうして選ばれたのが、オーリーさんだった。
後に知ったが、バルドさんはロッズさんとの会話で、オーリーさんが私のことをとても信頼していることを把握していたそうだ。
バルドさんは念には念を入れて、オーリーさんには何も伝えなかった。
オーリーさんとしても、玉璽が押された不穏な手紙が届いたうえ、もし、旦那さんであるロッズさんに何か不審なことが起これば慎重になる。
確実に信頼できる人に手紙が渡るように、そして万が一情報が漏れても、私に危険がないように配慮してくれていたのだ。
私のことを知っているロッズさんなら、私を信頼してオーリーさんを訪ねるように言う。
そして私が訪ねたら、信じて渡すであろう私のメイド班にいたオーリーさん……。
バルドさんは、私を信じてあの書簡を託してくれていたのだ。
そして、バルドさんの懸念は現実となった。
襲撃の前日、村に出没する盗賊を討伐するようにレイモンド元騎士団長はトルッカ砦の騎士達に命じた。もちろん、バルドさんは明日アルロニア帝国の使者達と合流するというのに、この砦が手薄になってしまうことを懸念し反対した。
しかし、レイモンド元騎士団長は偽の玉璽の書簡を前に強行した。
トルッカ砦の騎士達の遺体は、後日、山の中の洞窟の中から見つかることとなる。ドルゴン王国の兵に殺されたあと、隠されていたようだ。
そうして手薄になったトルッカ砦に、レイモンド元団長は盗賊に扮したドルゴン騎士を招き入れた。
しかし、しばらくしてレイモンド元騎士団長は自身も斬りかかられたことにより、騙されていたと気づく。「約束が違う!」と騒いだそうだ。
これは、大勢から証言があがった。
レイモンド元騎士団長は自分も殺されそうになり、第二騎士団の騎士達に自分を守って逃げろと命令した。戸惑う騎士達だったが、王命を盾にされ、従うしかなかったのだそうだ。
ただ、バルドさんはこの砦が占拠される危険性を理解していた。
もしこの砦が占拠されれば、アルロニア帝国の一行が襲われ、同盟ができなくなってしまう。
そのため、バルドさんは万が一を考え、第二騎士団の中でも、精鋭で信頼のおける部下達に不測の事態が起きた場合は、自分に従うように命じていたらしい。
たまたまレイモンド元騎士団長のそばにいてしがみつかれて、彼と一緒に逃げることを避けられなかった騎士が証言した。
そうして命懸けで戦った彼らの粘りのお陰で、アルロニア帝国の一行は襲われずに済み、無事に同盟を結ぶことができたのだ。
亡くなった彼らとバルドさんが、この国を救ったのだ……。
その後、レイモンド元騎士団長は、トルッカ砦の襲撃から逃げて、ラウンドア子爵にやらかしたことの全てを話し助けを求めた。その時に、第二騎士団の騎士達はラウンドア子爵によって捕らえられ、執拗に脅されたらしい。
ラウンドア子爵としても、レイモンドが今度やらかしたら、王太后殿下が責任を取ることになってしまう。
貴族至上主義の旗印がいなくなっては困るのだ。
ラウンドア子爵は、王太后殿下に連絡を取ると共に、第二騎士団の騎士達に余計なことをしゃべったら、家族の命がないと脅したそうだ。
新聞社にも、さっさと幕引きするために、バルドさんの判断ミスのせいで起こった騒動だと記事を書くように圧力をかけた。レイモンド元騎士団長が救った云々の与太話はレイモンド元騎士団長のゴリ押しらしい。
結局、スミスさんからバルドさんが侯爵令息だと知らされた新聞社の社長は、各新聞社にもそれを伝え、事実確認するまで記事を載せることはストップされた。
本当にスミスさんに感謝だ。
この内容は瞬く間に記事になり、すぐさま新聞で配られた。
レイモンド元騎士団長は、刑罰の中でも最も重い、民衆の前での処刑が決まった。
貴族がこの刑を受けるなど前代未聞だそうだ。
しかし、レイモンド元騎士団長のせいで尊い命が失われたのを考えると、誰も反対しなかった。
レイモンド元騎士団長の生家であるアルトス公爵家は、自ら降爵を願い、男爵まで爵位を下げ、資産の全てを遺族への慰謝料として渡すことを決めた。
アルトス公爵家は先代が貴族至上主義であったが、現当主はどちらかというと王太子派らしい。
今回の一件にも全く関わっていなく、レイモンド元騎士団長とも縁を切っていたが、事件を重く見て、自ら責任を取ったのだそうだ。
アルトス公爵は、レイモンドの母とは離縁し、遠縁にその座を譲った。
レイモンド元騎士団長が婿入りしていたカルサンス男爵家は、結婚当初からレイモンド元騎士団長とうまくいっておらず、彼が第二騎士団長から降格になったうえに失踪したことを機に離縁していた。間一髪で、一族郎党の処刑は免れたものの、カルサンス男爵家は取り潰しとなった。
ラウンドア子爵家は、王太后殿下とレイモンド元騎士団長に脅されて仕方なくやったと騒いだそうだが、その悪質な隠蔽工作が許されるわけもなく、ラウンドア子爵家は、一族諸共処刑されることが決まった。
そして、他の貴族至上主義の貴族家だが、その罪の大きさによって処罰を受けた。軟禁状態であったエリザベート様とドュークリフ様が、こうなることを予測したように、それぞれの貴族家の資料を揃えていて、それを元に速やかに進められたそうだ。
こうして、この一連の出来事は私が一晩牢に入っているうちに、終わっていたのだった……。
お読みくださり、ありがとうございます。





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