愛妻家を怒らせてはいけない
ホルソフォンはすぐさま王城に戻り、王太子の執務室を訪ねた。
ちょうどユリア王女も、取次ぎを執務室の前の騎士に訴えていたところだった。
しかし、その騎士は頑なにユリア王女の入室を拒んでいた。
それはもう不自然なほどだ。
ユリア王女がなおも食い下がろうとした時、ホルソフォンと目が合った。
ホルソフォンは小さく頷いた。
聡いユリア王女はすぐに察した目をしたが、表情を変えずその場を去った。
元々賢い王女であったが、ここ最近はどしりとした肝の据わりと貫禄の片鱗を見せ始めた。
きっとアルロニア帝国に行っても、素晴らしい皇后となることだろう。
「取次ぎを」
「はっ」
ホルソフォンが声をかけると、先程あれ程拒んでいた騎士はさっと取次ぎに中に入って行った。
ホルソフォンはその顔をよく覚えておく。
間違いなくこの騎士も貴族至上主義だろう。
「中にお入りを」
「王太子殿下と二人にしてくれ。今の殿下は目に余る。少し殿下と話をしたい」
「はっ」
こう言っておけば、王太子を叱るために人払いしたと思うだろう。
「何?僕を叱りに来たの?」
中に入ると、荒んだ目をした王太子がホルソフォンを睨んだ。
「リズに会えるまで絶対仕事なんかしないから」
いつもは艶やかな水色の髪が今はパサつき、アクアマリンのような目は赤く充血し、目の下にくっきり隈までできていた。
「殿下。プレゼントを持って来ましたよ」
ホルソフォンは、王太子に懐から出した件の書簡を渡した。
「何これ?」
訝しげに書簡を広げた王太子の顔が、爛々と輝き出した。
「ねぇ、宰相。これを僕に持って来たっていうことは、プチッとしていいってこと?」
王太子が、キラキラとした期待に満ちた目でホルソフォンを見た。
「ええ。こいつらのせいで愛しい妻が泣いたのです。それはもう情け容赦なく、綺麗さっぱりプチッといきましょう」
ホルソフォンがいい笑顔で言った。
「ああ、僕もリズと会えなくされたんだ。生きていてごめんなさいって、あの虫共に言わさないと気が済まないよ」
「殿下、あれらを虫と言っては虫に失礼ですよ」
「ハハハ……全くだね」
「フフフ……」
二人はこれから響く断末魔の悲鳴を想像して、心からの笑顔を浮かべた。
◆
私はロザリー様への不敬罪で捕まってしまった。
これからどうなってしまうのだろう……。
バルドさんは大丈夫だろうか?
エリザベート様達もご無事だろか?
眠れない夜を過ごし……。
次の日、普通に釈放された?
お読みくださり、ありがとうございます。