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託した運命

 次の日、王城に早めに行ってバルドさんのお世話をすると、私は真っ直ぐ王太子妃宮に行った。


 しかし、様子がおかしい。

 王太子妃宮には物々しく騎士達が立っていて、ロープが張られていた。

「セシリアさん」

 後ろから潜めた声をかけられ、振り向くと厳しい表情をしたキャサリン様がいた。


「キャサリン様?」

「シッ」

 キャサリン様は人差し指を口に当てると、周りを見回した。

「詳しいことは王女宮で話しますわ」

 小さな声で口早に言うと、キャサリン様は私の腕を取って足早に歩き始めた。

 何かがあったようだ。


「セシリアさん、無事で安心しました」

 王女宮に着くと、アルマ様が痛いくらい私の手を握った。ユリア様とグラビス様も、安堵した表情をした。

「一体何があったのでしょうか?」

 私が尋ねると、四人は厳しい表情をされた。


「王太子妃宮の侍女に流行り病が出たと言って、王太子妃宮が封鎖されたのです。エリザベート王太子妃殿下とドュークリフ様は、王太子妃宮に閉じ込められました」

 アルマ様が悔しげに言った。


「流行り病になったという侍女は貴族至上主義の令嬢なのですわ!陰謀ですわ!おいたわしや!リズ様〜!」

 キャサリン様が、わっと顔を覆われた。

 私もあんまりな話に息が詰まった。


「セシリア、しっかりして。私も詳しい状況がわからなくて困惑しているわ。わかっていることがあったら、教えてほしいの」

 私はユリア様達に、どうやらレイモンド元騎士団長が今回の襲撃に絡んでいるようであること、捕えられている第二騎士団の騎士達が何かを隠しているようだということ、貴族至上主義の貴族達が動いていて新聞社に偽りの情報を載せ、バルドさんに罪を着せようとしていることなど、わかっていることを伝えた。

 四人は、真剣な表情で話を聞いた。

 そして、最後に私は件の玉璽の押された書簡を見せた。


「レイモンドに全指揮権を与えるなんてありえないわ!さすがのお父様も、お兄様の襲撃の発端になったレイモンドをとてもお怒りだったわ」

「はい、私もありえないと思いました。だとしたら、この書簡は誰が書いたのでしょうか?そして、この玉璽はどういうことなのでしょう……」

 書簡をジッと凝視していたキャサリン様が、確信したように私達を見回した。


「これ、レイモンドの字ですわ」

 私達は、ギョッとしてキャサリン様を見た。

「本当ですか?」

「ええ。このちょっと癖のある字はレイモンドの字ですわ。ほら、ここの嫌味な自己主張するようなはねっぷり。長々と奴の婚約者をしていたので、間違いありませんわ」

 あまりの事実に、私達は言葉を失った。もしかしたらと思ったことが現実だった。


「でしたら、この玉璽は一体……」

「王太后が何かしら絡んでいるわね。こっそり持ち出したのか、それとも……偽物を持っているのか」

 ユリア様はそう言うと、なぜか嬉しそうにニンマリ笑った。


「ユリア様?」

「これは、王太后と貴族至上主義の貴族達を追い落とす絶好の機会よ」

 確かに。さすがの王太后殿下も、これが明るみに出たら処罰は免れない。そして、この件を隠そうと動いている貴族至上主義の貴族達も……。


 第二騎士団の騎士達を調べるのは第一騎士団だが、第一騎士団の中には貴族至上主義の貴族もいる。

 だから、第二騎士団の彼らは、この書簡のことも、襲撃の真相も伝えられずにいたのではないか。彼らには誰が貴族至上主義と繋がっているかわからなかったのだ。

 多分、脅されて偽りの証言をさせられている可能性も高い。

 私がそれを話すと、四人も大きく頷いた。


「陛下にこの手紙を届けて訴えるのはいかがでしょうか?」

 アルマ様が言った。

「いえ。お兄様がいいわ」

 王太子殿下?

 確かマーバリー様は、アレなお人だと言っていたような……。


「王太子殿下ですか?失礼ながら、その美貌以外あまり褒め言葉を聞いたことがありませんが、大丈夫でしょうか?」

 グラビス様も心配に思ったようで、ユリア様に尋ねた。


「お父様は、残念ながらあまり頼りにならないわ。王太后は母親だから、どうしても甘い部分があるのよ」

 自分の父親のことだが、ユリア様の言葉は冷静で辛辣だ。

 アルマ様も思い当たることがあるようで、ああと言うような顔をされた。

「貴族至上主義達は、思い切り虎の尾を踏んだわ」

 ユリア様が悪い顔で笑った。

 虎の尾?


「お兄様は性格に難ありで、大概のことは適当だけど、お義姉様が絡んだことには容赦しないわ。今回、奴らはお義姉様を閉じ込めるなんて手を出した。お兄様にこの書簡を渡したら、珍しく生き生きと働くと思うわ。それはそれは容赦なくね。だって、お義姉様に会えなくされたのですもの。クスクス……」

 ユリア様が、とても楽しそうだ。


「王太子殿下は素晴らしい方ですわね!」

 キャサリン様が、パチパチと拍手した。

「では、この手紙を王太子殿下に渡してきます」

 私がそう言うと、ユリア様が首を横に振った。


「いえ、連中も馬鹿ではないわ。セシリアをお父様やお兄様、一応お母様にも接触させることはないでしょう」

 私は、バルドさんのために動きすぎて目をつけられているだろう。

 エリザベート様達が閉じ込められたのも、私が捕えられている騎士達と接触してすぐだ。

 昨日も、私は見張られていた。


「どうすれば……」

「私がお兄様に渡すわ」

 妹であるユリア様なら、王太子殿下に無事に会えそうだ。しかしエリザベート様達を頼れない今、私がユリア様を頼ることは、貴族至上主義の貴族達も考えないだろうか。


「お待ちください。多分、ユリア様が王太子殿下に会おうとするのも妨害が入るかと思われます。私に任せてくださいませんか?いい方法がございます」

 グラビス様が、ニンマリ笑った。


「いい方法とは?」

「はい。実は――」

 私はグラビス様の提案に出てきた名前に目を瞬いた。


「頼っても、よろしいのでしょうか?」

「むしろ頼らない方がお怒りになると思うよ〜」

 私達は、しばし考えた。しかし、引き受けてもらえるなら、これが一番確実かもしれない。

 ユリア様とアルマ様、キャサリン様も頷いた。

「グラビス様、お願いします。この手紙を託します」

「うん。確かに任された」

 こうして、全ての運命を私はグラビス様に託した。




 その少しあと、私はロザリー様への不敬罪で捕まった――。

お読みくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
 これはもう王太子が王位を簒奪して、貴族至上主義者と王太后をギロチンに掛けるしかないのでは?
あの手紙が通ればレイモンドの扱いは王家簒奪になるし、関わった貴族はまとめて取り潰しになる案件だなと。切り札が通ったのであとは処分を強行されないうちに終わるかですねー。
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