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森の探索

 森の中を探索していくとさっそく何体かの魔物と出くわした。

 メイリスさんは剣による近接戦闘、サイオンさんは弓による遠距離戦闘が主なスタイルのようだ。


「ミュリナ! バニッシャーよ!」

「【フロストジャベリン】!」


 大型四足獣に向けて氷槍魔法を撃ちこみ、すかさずそこへメイリスさんが斬りこんでいく。

 鮮血とともにパニッシャーの痛痒な叫びが響き、サイオンさんの矢が飛んで再び私の魔法。


「【グレートサンダー】!!」


 魔物が丸焦げとなって地面に倒れ伏した。


「ふぅ。やっぱ強いわね」

「そ、そうでしょうか……? パニッシャーはそこまでだと思いますが……」

「強いのはあんたよ。あ・ん・た」


 おでこをぐりぐりされてしまう。


「あ、あぅぅ」

「パニッシャーは普通苦戦する相手よ」

「で、でもでも、メイリスさんだって深く斬りつけてましたし、サイオンさんも急所に矢を当ててましたし。二人とも強いです」

「……そう? まあいいわ」


 パニッシャーの角を切断して、討伐の証として念のための採取しておく。

 内申点を得るには微妙な難度の敵だが、提出物がなくなるという事態はこれで避けれる。


「ミュリナさんは、魔物討伐は独学?」

「え゛? あ、えと、は、はい。さ、最初は、少しだけ教えてもらったんですけど、あとは自分で学びました」

「ふーん。すごく筋がいいんだね。魔法の組み立ても速い。まるで魔族のような速さだ」


 あぅ。

 なんでそこで魔族が出てくるの……。

 やっぱり私が魔王だってバレてる??


「ちょっと、ミュリナが魔族なわけないでしょ。酷いこと言わないで」

「いやぁでも、あのグレドを負かす子だよ? グレドは知っての通り人族の中でもかなり魔法の扱いに長けている」

「そうかもしれないけど、ミュリナには角がないじゃない」

「角無しとして生まれたのかもよ?」


 二人が核心に近い話をしているだけに、パニッシャーの角を剥ぎ取っている手が思わず止まってしまった。


「じゃあ仮にミュリナが魔族だったとして、何でこんなところにいるのよ?」

「それはほら、スパイとか?」


 その言葉にビクッとなってしまい、おまけにその姿を二人に見られてしまった。


「……今すんごい動揺してたね」

「ええ、してたわね」


 あぅぅぅぅぅ。

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。

 魔族だってバレたら退学になっちゃうよぉ。

 せっかく勇者になるために頑張り始めたところなのにぃ……。


 涙が出てきたところで、二人が私の肩に手を置いてきた。

 もうダメだ、バレるっ……!


「うん。まずないってことがよくわかったよ」

「……ぇ?」

「でしょ。あたしも最初は疑ったの。けど、ミュリナってこんな感じなんだもん。こっちが後ろめたくなっちゃったわ」

「え? あっ、え? えっと……?」


 未だに疑問符を浮かべ続ける私に、二人は肩を竦める。


「気にしなくていいよ。君は、スパイにしてはずいぶん恐怖や焦りの態度を表に出し過ぎているなと思っただけだ」

「仮にスパイならマヌケにもほどがあるわ。見たことないレベルよ」

「あぅぅぅ」

「別にあなたのことを悪く言ってるんじゃないのよ。あなたはすごく真っ直ぐでとってもいい子なの。怖がらせてごめんね。あたしは決してあなたのことを疑ってなんていないから」

「は、はぁ……」


 なんだかよくわからないが、とりあえず危機は去ったようだ。

 よかったぁ……。


「もう少し強い魔物までいけそうだと思うけど、サイオンは?」

「いけるよ。難度Aまでやってもいいと思う」

「ミュリナは大丈夫」

「え? あ、は、はい。……あ、あの、しししし、質問があるのですがっ!」

「ん? なに?」

「な、難度ってどういう風に見分けているんでしょうか?」

「……そっか、ミュリナは知らないのか。冒険者ランクと同じよ。だいたいは魔物で決まっている。パニッシャーは冒険者ランクでD相当。あたしと最初の依頼で倒したバパルはC相当ね」

「デ、デイゼルアは……?」

「ランクSね。熟練の冒険者たちがレイドを組んで挑む相手よ。今回は狙うならAかBあたりかなって思ってるわ。Cだと少し物足りない」

「じゃ、じゃあ、そういう魔物を探せばいいってわけですね。少し待って下さい。【ワイドソナー】」

「探査魔法? あなたって本当に芸が多いわね」


 探査魔法で周囲の魔力反応を探る。

 魔物は体内に魔素を有しており、この強さはおおよそ魔物の脅威度に比例する。

 ならば、AかBと思えるくらいに魔素を保有している奴を探せばよいというわけだ。


 だが――


「あれ、なんかちょっと違う魔力痕跡が見つかりました」

「違うの?」

「こっちです」


 この感じは魔物ではなく人為的な魔力痕跡だ。

 しばらくそれを追って歩いていくと湖のような場所に出た。

 そのほとりに人族の女の子が泣きながら座り込んでいる。


「女の子!? なんでこんなところに!?」


 三人して駆け寄ると、彼女も泣きながらすぐにこちらへと近寄って来た。


「大丈夫!? あなたこんなところでどうしたの?」

「あ、あのね、メグたち、いけないことをしちゃったの……」


 メグというのはこの子の名前であろうか。

『たち』ってことはもう何人かいるということになる。


「いけないこと?」

「お父さんにダメだって言われてたのに、森に入って遊んでたの。そ、そしたら、いきなり、魔物が襲って来て、リ、リオルが……っ、弟が攫われちゃったのっ!」


 また泣き出してしまった。


「もう一人いるってことね」


 救出した方がいい。

 けど……、なんだろう。

 何か違和感がある。

 この状況がおかしい……?


「ミュリナさん、どう思う?」

「え、えっと、救出した方がいいんじゃないでしょうか」

「私たち、一応実習中なのよ? 内申点そっちのけでいいの?」

「で、でも、ほおっておけません。それに魔物がさらっていったのでしたら、その魔物を討伐の証にだってできます」

「低ランクの魔物という可能性もあるわ」

「……それでも、私は見捨てられません」


 しばらく考えた後、メイリスさんがため息をついてくる。


「わかったわ。そしたら手分けをして探しましょう。時間もあまり残されていない」

「この子はどうするんだい?」

「わ、私が見ます!」


 私が言い出しっぺでもある。

 ちゃんと傍で見てあげるべきであろう。


「頼んだわ。正直なところ、あなたが守るのが一番いいと思ってたの」

「じゃあ、各自で弟さんを探して、緊急時には花火でも打ち上げてくれ、この森でもたぶんだいたいの位置はわかるはずだ」

「時間がなくなったらもう手近にいる魔物を狩ってそれぞれの提出物にしましょう」

「は、はい。わかりました」


 その後、弟の特徴を聞き出してから、三人して別方向を探索していくのだった。

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