拒まれし理解
状況を整理しよう。俺は今、「ブリッジ」の姿勢をしていて、何故かその姿勢が戻せずにいる。
––––なに、理解してしまえば簡単なことだ。
ちょっと体の状態が理解不能なことになっていて、しかも何故か体の姿勢が元に戻らないだけである。
きっと大丈夫。世界は広い。こんな不可思議だって、どこかのすごーい人が治してくれるに違いない。そう、心配することなんて何もないのだ。
そう心を落ち着け、頭を冷やす。
差し当たって、自分がするべきことは、助けを呼ぶことである。
(そもそも、ここはどこだ…?)
そう思って、あたりを見渡す。上下逆さまな為、うまく物を識別できないが、自分が乗っているベッド、棚に入った包帯や消毒液と思しき物体などから、自分が在籍する学校の保健室であろうことが分かった。
なぜ自分が保健室にいるのかは思い出せないが、ここが学校なら、近くに誰かが居てもおかしくない。
大声を出せば誰かが気付いてくれるはずだ。
こんな姿勢でいることを見られるのは恥ずかしいが、しかたあるまい。
こんな姿勢のまま、一生一人で生きていくわけにはいけないのだ–––––––––!!
そんな悲壮な覚悟を胸に、男は大きく息を吸い込み、そして、叫んだ。
「だ、だれかァァ〜〜ん、たぁぁすけてくれよぉぉぉぉぉん!!!!」
…………………………。
––––––––––––––––––––ッッ!?!?
瞬間、その音だけで脳を腐らせそうな、どれだけ言葉を尽くそうとも言い表すことのできない、なんというか、その、「キッッッッッッッッッッッッッショい」声が保健室を揺らした。
(い、いまのキモい声は俺が発したものなのか!?)
あまりにも気持ち悪い声だったために理解するのに時間がかかったが、状況からみて、今の声を出したのが自分なのは明白。
度重なる理解不能にめまいがするが、無駄にバランスのいい四足直立(上下反転)により、辛うじて踏みとどまった男は、脳内を駆け巡るerrorの嵐に耐えきれず、「理解すること」を放棄した–––––––––––。
(しかも助けは来なかった…)