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彷徨うセカイとあなたと私  作者: 星河雷雨


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「あいつは亜空間に取り残された人間の成れの果てじゃなくて、ミノリさん――や俺たちのように別の世界の人間ってことですか?」


 太一さんの疑問に柿崎さんは「そういう可能性もあるってこと」と返した。でもそれならそっちのほうが悲しくないだけ何倍もいい。私の不安も薄れるし。


 柿崎さんは大丈夫だって言っていたけれど、世の中には絶対なんてない。絶対に私がああならないなんて保障はないのだ。けれど未来を悲観していても何もはじまらない。もし私の体調に変化が現れたら、その時はその時だと、私はすでに開き直っていた。


(ううん。開き直らなきゃやってらんないよね……)


 私がそんなことを考えていると、柿崎さんが「それにさ、そもそもあの和室と扉って、本当に部屋と部屋を繋げようとしてたのかな?」なんて言った。


「どういうことですか……?」


 私と太一さんたちの部屋が繋がったのだからそういうことじゃないのかと思うのだけれど。柿崎さんの言葉に私が問い返せば、柿崎さんは「うーん」と唸ってから話はじめた。


「さっきの呪い云々は一つの見解。一番もっともらしい説でしょ? 呪いの部屋なんてさ。僕も怪異研究会の顧問としてそれらしいことを言ってみたんだけど……」

「お前って奴は――!」


 柿崎さんは言葉を言い終える前にお父様に胸倉を掴まれぐらぐらと揺すられていた。こういう感じでお父様にもホラーな悪戯を仕掛けて絶交されたのだろうか。


「ちょ……ッ苦し! 待って! 今度は物理学者らしいこと言うから!」


 柿崎さんの必死の訴えに、お父様が掴んでいた柿崎さんの胸元の手をパッと離した。


「……えっとね。僕の見解はまたちょっと違うんだ」

「……さっきのが正解じゃないんですか?」


 私は驚きつつも声を上げた。てっきりさっきの話が柿崎さんの出した答えなのかと思っていたのに、別の見方もあるなんて。もうここで終わりにしてくれても私は全然良いのだけれど。


「いやね、別にこっちも正解って訳じゃないけどさ……。僕はあの和室が誰かの部屋と部屋を繋げているんじゃなくて、たまたま別の世界の、それもたまたま誰かが住む空間同士と繋がっただけじゃないかと考えているんだ。もしミノリさんのいた世界とこの世界が隣り合った並行世界だとして、その世界と世界の間にあの和室が引っ掛かったんじゃないかなって」


「え? 私と太一さんの部屋の間にってことですか?」


 何かよく分からないけれど、これまでに起こった出来事はすべて意図されたものではないということだろうか。


「そう。もともとはあの和室自体もただ亜空間を彷徨っていただけなんじゃないかって思ったんだよ。まあ、あの和室がどういう過去を持っていて、そして何故単独でいるのかはわからないけど……彷徨いながら様々な空間――世界に引っ掛かったり接触したりして、結果的にあの和室を通して双方の世界を繋げちゃってるんじゃないかなって」


 本当に柿崎さんの言う通り、偶然私たちの部屋が繋がってしまっただけなのだろうか。


「まあ、引っ掛かっているという言い方をしたけど、本当に引っ掛かっているのか何かに引き寄せられているのかはわからない。けどあの和室の内部――というより和室の支配が及ぶ範囲の空間は、多分こことは異なる次元になっているんだと思う。でもそうなると、あの和室はただ単にどこか別の次元にある本体の影だっていう可能性も出てくるんだよね……」

「あの……影って?」


 影と言う言い方が気になり、私は柿崎さんの話を遮って質問をした。まあ柿崎さんの話も最後の方は独り言みたいになっていたけれど。


「主に三次元の立体面を二次元の平面へと映し出すことを言うんだけど……そうすると図形として表すことが出来るから物体の形状を理解しやすくなるんだよ。同じ様に、ここより上の次元からこの三次元に映し出されたものって意味で僕は言ったんだ。ま、一般的にはそんな使い方しないけどね」


「それって……誰かそれをした人がいるってことですか?」


 太一さんがそう言えば、柿崎さんが「そうか……そうかもね」と何だか嬉しそうに瞳を輝かせた。


「いや、どういう意味だよ。てか、誰がするっていうんだよそんなこと」


 お父様若干青くなりながらツッコミを入れたけれど、その誰かって言うのがあの和室の本体(妖怪?)なのだろうか。今の太一さんの言い方ではそうなってしまう。


「うんまあ……三次元の立体面を二次元の平面に投影する時ってさ、そこに誰かの意思が介在するわけ。勝手に投影されることってないからね。だからさ、ここより上の次元の存在が、僕らがやっていることと同じことをやったのかもしれないってこと」

「……上の次元の存在って?」

「そりゃわからないよ。二次元の存在だって、僕達三次元の存在を認知なんて出来ていないでしょ?」


 二次元の存在と言われて、私は内心首を傾げる。それって漫画の中に描かれているキャラクターたちも、私たちのように生きているってことだろうか。ちょっと興味があったけれどさすがに脱線しすぎなので聞くのは我慢した。


「二次元の存在が三次元の存在を認知出来ないように、僕たちは三次元以上の世界を認知できないんだ。もし何らかの理由で三次元よりも高い次元の存在、または物質がこの次元に投影されたとして、それでも僕たちはその次元のことを正確には理解できないんだよ。僕達はこの次元以上の次元を体験したことがないんだから。あの部屋の構造を理解できないのって、そういうことなのかなって」


「うーん……うん?」


 柿崎さんの説明にお父様が首を傾げている。きっと私と同じように分かったようで分からない心境なのだろう。でも何となく太一さんとお兄さんは分かっているような表情をしている。


 そしてちょっと気になるのがお母様だ。太一さんたちがこの部屋に戻って来てからずっと、何もしゃべらないで黙って柿崎さんの話を聞いているのだけれど、実は目が少しだけ輝いている。もしかしたらお母様もホラーが好きなのかもしれない。ホラーというよりこういう不思議な現象だろうか。意外に柿崎さんと気が合ったりして。


「それにまあ、やっぱり違う世界同士が繋がっているからっていうこともあるよね。同じ世界ならさらに原理がわからなくなるけど、違う世界なら間に引っ掛かることも可能じゃないかなと思ったんだよ。僕は並行世界のことを隣り合ったという言い方をしたけど、隣じゃなくて上下かも知れないし、あるいは互いの世界が重なっていて、それを僕達が認知出来ていないだけかも知れない。並行世界同士が存在している位置関係なんてわからないでしょ? あの和室の扉が二つの部屋の中、方向関係なく自由に移動できるのも、世界同士が単に平行して隣り合っているからじゃないのかもしれないって思ったんだよね。あの和室だって部屋だという固定観念が僕たちにあるから支配する亜空間は四角だと思い込んでいるけど、実際は三角かもしれないし、円かも、楕円かもしれない。あるいは歪円や歯車円の可能性だってあるんだ」


 なんだか知らない図形の名前も出て来たけれど、ようするにでこぼこしていたりギザギザしている奴だろうと私は当たりを付けた。

 

 確かにあの和室の中だけが亜空間だと言うのなら、私の部屋の窓や廊下に出る扉の外が亜空間に変化したことが説明できない。


(そういえば、太一さんも私の部屋を取り囲むように亜空間があるんじゃないかって言ってたよね……)


「あるいはまあ、実はあの和室は一つに見えて実は一つじゃなくて、和室自体も別々の次元に同時に存在しているものが重なり合っているだけ――なんて可能性もあるよね」 


「……何だかわからんが……そうなると、お前がさっき言っていたあの部屋に閉じ込められていた人間の意志っていうのは、無しってことでいいんだよな?」

 

 お父様が少しだけ眉を顰めて嫌そうな表情をした。ホラーなことを考えるのも嫌みたいだ。それでも聞くということは、可能性は徹底的に潰しておきたいという心理なのだろうか。


 でも確かに柿崎さんの見解とは違うと言っていたけれど、あの和室が呪いの部屋だという可能性はまだあるのではないだろうか。というより私はその方向で納得しかけていたのに、なんだかさらによく分からなくなってしまった。まあ、もとからホラーに理屈を求めてはいけないのかもしれないけれど。

 

「だからー、両方ともあくまでもただの推測……いや、憶測の域を出ないんだって。どっちが正解かなんてわからないよ。でもこういうのは様々な角度から検証することによって、より真実に近づくことが出来るんだよ」

「……いやもう俺にはわからん」


 お父様がついに匙を投げてしまったが、私もまったく同じ心境だ。それどころかこんなに色々考えたのは高校受験以かもしれない。


 もう一括りでホラーってことにしとくのはどうだろうか。どのみち正解が分からないのならばどちらでも良いと思ってしまうのは、私の性格が適当だからかもしれない。


 もう何でもいいやと思い始めた私の耳に、太一さんの声が届いた。

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