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 けれどいくら儲かるからって、あんな怖い思いをするならごめんだ。そして多分私の頭では分かっていたって儲けることは出来ない。太一さんなら多分出来るんだろうなとは思うけれど。


「最悪……儲けるつもりなんてないのに……」

「わかってますよ。あの扉の存在意義を考察しただけです。それが正解じゃありません」

「存在意義ってーか、あれ。あの扉と部屋自体、セットで妖怪か何かなわけか?」

「妖怪……」


 あれを妖怪と言われても今一納得できない。あれが妖怪だとすればどこからどこまでが本体なのだろう。


(妖怪ってもっと……ぬかぼんみたいな実体を伴う奴じゃないのかな。……ぬかぼんは妖精だけど)


「となると、ミノリさんが言っていた部屋の窓の外に現れた風景も気になるな。長閑な風景で誘っておいて、窓の外に出た人間を捕獲するのが真の目的とか? あの和室には何も出ないから、結構それが正解なのかもしれないな」


(いや怖い! ……でも)


「私も窓の外に出ちゃう人間はいるかもなって思ったんだよね。だってずっと部屋に閉じ込められていたらおかしくなっちゃう。私は太一さんがあの和室を通って来たことを知っていたから、扉の中に入ることを選んだけど……知らなかったら絶対入らなかったよ」


「だよなあ。入る奴がおかしいよな」と、お兄さんが横目でちらりと太一さんを見た。お兄さんの視線を受けた太一さんは少しだけバツが悪そうだ。


「……大丈夫な気がしたんだよ」

「まあ、終わったことだしな。それより、お前はあの扉が現れたときに窓の外は見てないのか?」

「見てない。すぐに中に入ったから」

「んー、じゃあ……ミノリンの話によると……」

「ちょっと待って! ミノリン⁉」


 お兄さんの話を遮るのは気が引けたけれど、あまりの衝撃に私は声をあげていた。ミノリンなんて友達にも呼ばれたことがない。


「おお。嫌か?」

「ええ? 別に……嫌じゃないですけど」

「じゃあ、ミノリンで」


 君、あんた、ミノリンとお兄さんの呼び方はどんどんと変わっていく。最終的にはどうなるのかな、なんて少しだけ思ったけれどきっとミノリンが最終形態だ。それ以上となると呼び捨てだろうか。


「あれだろ。ミノリンの部屋の扉があの和室に繋がったのはさ、太一が行ったからだろ?」

「……多分」

 

 また太一さんの顔が暗くなってしまった。やっぱり責任を感じてくれているのだろう。でも結局私の部屋にあの和室を繋げたのは太一さんじゃない。太一さんが扉を開けても開けなくてもそこは変わりはなかったような気がするのだけど……。


 そこまで考えた私はあることにひっかかった。


 もし太一さんが私の部屋へと続く扉を開けなかったら、どうなっていたのかな、それでもいずれ私はあの扉に気付いたのだろうかって。


 けれどお兄さんの言葉を聞いた私はすぐにそのことを忘れてしまった。


「なら、あの扉はこの部屋へはどうやって来たんだ?」

「そう! そうなんですよ! 法則的に言ったらですよ? きっとこの部屋にも誰かがあの和室を繋げたんじゃないかと思うんですけど……!」


 私の勢いとは反対に、太一さんはどうにも腑に落ちていない様子だ。


「誰も来なかったけどな……兄貴だって見てないだろ?」

「見てねえな」


 お兄さんも頷いている。


「俺たちに気付かれない内に帰ったのか? もしそうだとしたら、そいつも俺とミノリさんと同じように扉を閉め切らずに行き来したのかな?」


 そもそもあの不気味な和室に入ってみようと思う人だってそうそういないと思う。でもそうなるとあの和室が出現する意図がますますわからなくなってしまう。私がそう言えば、太一さんもお兄さんも納得してくれた。


「だとしたら、やっぱり窓の外へ誘い出すのが本命なのか……」


 考え込んでいる太一さんに、お兄さんが「どのみち憶測にすぎねーよ」と声をかけた。


「誰かがこの部屋に来ていなくても、だ。扉自体が無作為に部屋を選んで出現している可能性もあるんじゃねーか。あの扉と部屋がどういった目的で現れてるのかは知らねーけどさ」

「そうかもな……。ミノリさんがこの部屋に来られたのだって、このキーホルダーのおかげで道が繋がっていただけかもしれないし」


 本当、ぬかぼんには感謝だ。いや、むしろ何か証拠が欲しいって言ってくれた太一さんに感謝かもしれない。そうじゃなければ私は今もあの部屋に一人で閉じ込められていたかもしれない。そんなの考えることすら嫌だ。


「だとすれば、ミノリンもこの部屋から何か持って帰れば扉が繋ぐ場所をこの部屋とミノリンの部屋で固定できる可能性はねーか?」

「やる価値はあるな……でも最終的な目標はミノリさんを部屋から出すことだから」

「そうだよなあ。結局そこか。……しょうがねえ。とりあえず行ってみるか?」

「やっぱ兄貴も入りたいんじゃねーか」


 太一さんが呆れ顔でお兄さんを見ているけれど違うと思う。案の定お兄さんは太一さんの頭にげんこつを落としていた。


「ちげーよ。あっちがどうなってるか調べねーと前に進めねーからだ」

「あ、あの……ちょっと気になることがあるんですけど……」


 小さく挙手をした私を、二人が見つめてきた。


「何だ?」

「最初にこの部屋に和室が現れたときって、押入れの扉に繋がっていたんですよね?」


 私の質問に太一さんは無言で頷く。


「だったら、その時点では太一さんは別の扉から部屋の外へと出られたということですか?」


 太一さんは今度は少し考えてから答えてくれた。


「……いや。多分出られなかったと思います。みのりさんの部屋に扉はいくつありますか?」

「えっと……一つだけ」

「なら、たまたま俺たちの部屋に扉が余分にあったっていうだけで、どの扉を開けても結局はあの和室へと続いていたんじゃないですかね」

「まあ、そうだろうな。どの扉を開けても外へは出られないってーのはこういう現象の定番だ。ミノリンの部屋の窓の外だって別の空間になってたんだろ? ならこの部屋の外だって多分同じだ」


 もしかして部屋に扉が二つある太一さんたちの部屋なら、私の部屋の扉を閉めたあとも普通に外に出られるんじゃないかと思っていた私は若干落胆した。

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