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勇者になりたかった魔王  作者: ihana
【第二章】 不死身の少女
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2 街の探索

 夕方になりチラホラと仕事上がりの人が出始めた頃、シュジュベルの街を十分に堪能したリナたちは仕掛けていた魔法を確認しに行く。


 料理屋からは良い匂いが通りにまで漏れ出ており、今すぐにでも食べに行きたいという思いが湧いてくるが、それはやるべきことを済ませてからだ。


「結局何の魔法だったの?」

「答える前に、まずはレイナの考察を述べたまへ」

「む~。イジワルリナ。うーん、そうね……」


 レイナは人差し指を立てながらリナへと顔を迫らせ、


「探査魔法! じゃない?」


 と自信満々に述べてきた。


「あの店を通った人が奴隷売買に関わっているんなら、入り口に探査魔法をセットしておいて、通った人を追尾すればそのどれかが奴隷の買い手になるはず! どお! 正解でしょ!」

「うーん……。二十点」


 ええ!? なんで? と悔し気に顔をしかめるレイナ。


「そもそもシュジュベルで奴隷売買が行われているかが確定情報じゃないし、仮にそれが正しくとも、私たちが言った店で直接的な売買は行われていないと思う」

「なんで? 大っきな店舗できそうな気もするけど」

「大きな店ってのはそれだけ衆目に晒されているのよ。一度でもエラーを出せば奴隷売買はこの国でも極刑だわ。そんなリスクを大商会が犯すとは思えない」

「むぅぅ。たしかに」


 レイナが唸りを上げ続けるため、リナはヒントを出すことにする。


「そうね、そしたら、探査魔法ってとこは合ってる。問題は何を探査したかよ」


 探査魔法は人なり物なりに取り付けることができ、その足取りをたどることができる魔法だ。


「うーん、店は直接的な取引場所になっていないとすると……、間接的な売買の場所になっていた、とか? でもそれだとさっき私が言ったのあってるじゃん。やっぱり奴隷売買に関わっている人を探査したんじゃないの?」

「ブー。不正解。それは不確定情報。でもちょっと惜しい」

「ねぇ、そもそも探査魔法だと、対抗魔法で消せちゃうじゃん。奴隷売買に関わる人に魔法を取り付けられたとしても、怪しい場所に入るときには念入りに対抗処置が施されるんじゃないの」

「ええ、そう思うわ」

 

 笑顔で答えるリナに、レイナは更に混乱してしまったようで、むー、そろそろ教えてよぉ、と涙目となってしまう。


「わかったわかった、泣かないの」


 そんな風に彼女の頭を撫でながら、リナは光魔法でこの都市の地図を作り出してレイナに見せる。


「まず、この国で奴隷売買が行われているという前提で話すけど、そこもまだ確かじゃないからね。私が知りたかったのはこの都市における人の流れよ。奴隷取引が違法である以上、人目には絶対につかないようになっているはず。だから取引の現場や奴隷の保管場所はそもそも人が行かないような場所のはずよ」

「だったら大商会を回らないで、最初から裏通りを探索すればいいじゃん」


 唇を尖らせながらそんなことを言ってくる。


「この大都市には裏通りも無数にあるの。三日という限られた時間だと私たちの足ではすべて見切れない。だから、裏通りの中でも一般の人が立ち入らないような場所を知りたかった」


 地図上に光魔法の線を追加していく。

 それも一本や二本ではなく、千を超える数が、リナたちの回った商会から伸びていき、地図上の街を覆い尽くしていく。


「私が知りたかったのはいるかもわからない奴隷の売人の行く先じゃなくて、今日お店を訪れた客たちの足取り。彼らが行って()()()場所を私は知りたかったのよ」


「え!? ちょっと待って? 同時に全員追ったの!?」

「全員追わないとわからないじゃない」

「うわぁ……。相変わらず魔王並みの魔力ね……」

「歴代の魔王様はたぶんこんなの朝飯前よ」

「リナも朝飯前なんでしょう?」

「…………ま、まあ」


 レイナのやっぱりなという顔に負けた感を感じてしまうも、それを横目に地図を眺めていく。

 すると軌跡の空白となっている地帯がいくつか目に入ってきた。


「でもさ、逆に偶然関係者が探査魔法を仕掛けた人の中にいたって可能性はないの?」

「今日はだからその可能性を少なくしといたのよ。わざわざ私が店長に明言したでしょ?」


 どゆこと? とレイナが眉を寄せてしまう。


「あなたが奴隷売買の関係者で、見ず知らずの他国の軍人から奴隷なんてワードが出てきたら、レイナはどう思う?」

「うーん……警戒する」

「そう、普通警戒するわ。何か探りが入っているって。さっきレイナの回答を惜しいって言ったけど、たしかに大商会が奴隷売買の間接取引所になっている可能性もありうると思っていたの。だからわざわざ警戒するような言葉を発しておいた。仮に間接取引現場であったとしても、今日の売買はあれ以降行われていないはず」

「つまり、逆に誰も取引現場に今日は行ってほしくなかったってこと?」

「そゆこと。それにレイナの言った通り、良からぬことを考えている人は対抗魔法を普通施す。万が一探査魔法がついていたとしても、自動的にそれを消してくれるって算段よ。その人の足取りは自動的に地図から削除される」

「なるほど……。じゃああとはこの空白地帯に総当たりってことね。付き合うよ!」

「いえ、この中だと――」


 リナは地図の一点を指さす。


「ここ。えっと、メメリモ通り、かな」

「ぇ……」


 レイナが息を呑む声と驚愕の表情を向けてくる。

 いつもの彼女からは想像できないような心の底から驚いている顔だ。


「リナ……、あなたやっぱり魔王なんじゃないの?」

「ふふ。いっつもみたいに、なんで? って聞く余裕すらないみたいね」


 レイナが慌てふためいて髪をいじりだす。


「あっ、いや、えと。い、いきなり自信満々で一個に絞っちゃったからつい……」

「そんな焦んないでよ。人を移送するのって結構大変よ。隠し通すためにもかなり厳重に手を回さないといけない」

「だから人があまり寄り付かない裏通りのメメリモ通りなの? でもそれだけで一択に選べるもの?」


 リナはメメリモ通りの近くにある地図上のとある箇所を指さす。


「ここ、屠畜場よ。奴隷を万が一殺さなければならなかったときのために、こういった場所が近くになければならないと思う」

「つまり、家畜を殺しているこの屠畜場がある意味セイフティの機能を果たしているって言いたいわけね」

「そういうこと。よし。じゃあ、行こっか」

「今からメメリモ通りに行くの?」

「いえ、そっちは明日よ」

「え、じゃあ今からは……」


 リナは意気揚々と街中へ視線を移す。


「ごはん!」

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