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勇者になりたかった魔王  作者: ihana
【第二章】 霊魂の迷宮
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1 報告会

「えっと、そしたら報告ね」


 丸一日眠り通して、ちょうど病室で目覚めたばかりのリナにレイナが報告を始める。

 普段ならベッドの上で報告なんて聞かないのだが、立て続けに事件が発生しているため、未だ覚め切っていない頭を無理矢理働かせるためにもリナから提案したことだ。


「リナが出かけたあと、もう一回おっきな地震があって、それと一緒にマグマが迫って来たの。とにかくまずはマグマ防衛に当たったわ。そしたら中から魔物たちが飛び出してきて、もうレレム兵士団はてんてこ舞いよ。結果はリナが見た通りだわ」


 リナがレレムに帰ったころ、兵士団は疲弊し切っており、あと一歩のところまで追い詰められていた。

 到着が少しでも遅れれば、レレムの街はマグマに飲まれていたことであろう。


 恐らくだが、鵺が起こした地震によりレレムの山が活火山へと変貌してしまったと見える。

 原因の一端が自分にもあるだけに、背筋を伸ばしてしまう。


「しかし溶岩ね……。レレムは死火山だったはずなのに、それを活火山に変えてしまうなんてすごい力だわ」

「あ、それなんだけど、リナに聞いときたかったんだ。山を見て」


 レイナがカーテンを開けてくる。

 そこに映っていたは相も変わらないレレムの山であったのだが、そこでレイナの言わんとしていることがわかった。


 レレム山からは煙が一切排出されていない。


 昨日噴火したばかりの火山が煙を出さないということがあるのだろうか。

 そもそも火口がどこなのかが、パッと見ただけでわからない。

 木々のほとんどは焼かれて、枯れ木の山のようになっているのだが、山そのものの形状は変わっていないように見える。


「どういうこと……?」

「あ、やっぱり変なんだ。火山ってあたしは人生一回しか見たことないけど、イメージとちょっと違うなぁと思って」

「ええ、変だわ。レレムの山からマグマが噴き出たようには見えない」

「鉱夫の中に地質学者の人が何人かいるんだけど、あんなのおかしいってみんな口を揃えて言ってたわ」

「私も同意見だわ。……ただ、現状だと何が起きているのかが理由も含めてわからない」

「んじゃあ後回しだね。リナの方はどうだったの?」


 未だに火山に対する知識へと頭をやりたいが、とりあえずは報告会を継続することにする。


「私の方はミコトを結局見つけられなくて、代わりに七百年前の勇者が創ったらしい鵺という生き物に遭遇したわ」


 創った、という部分にレイナが眉を寄せる。

 通常、魔法で生き物を創造することはできない。

 リュッカがやっていたような創造魔法であっても、時間の経過で創造体は消滅するし、見た目も魔力漏洩によりぼんやりと光るので、あんな風に生物然とはしていない。


「かなり高い戦闘力を持っていて、たぶん地震の原因もあいつよ」

「地震の原因ってどういうこと?」


 リナは戦闘中に見た光景をそのまま説明していく。


「鵺が尻尾を地面に突き立てたと思ったら、巨大地震が発生したわ。私たちは生き埋めにされそうになったの」

「巨大地震、ね……。言っちゃなんだけど、生き物にそんなことできるもの? 地震ってかなり魔力を消費する魔法でしょ? あんな巨大なのともなると、普通は出来ないと思うわ」

「うーん、絶対に不可能とは言えないと思う。魔獣の中には強大な魔法を使えるものも稀に存在するわ。鵺の戦闘力を鑑みると、できてもおかしくない、って感じかな」

「リナにそこまで言わせるとは相当ね」

「ええ。かなり強かったわ」


 これまで戦ってきた魔獣の中では間違いなく過去一番の強さであろう。


「リナが倒れたあとはレレムの復興支援を開始して、とりあえず今は落ち着いているかな。その、えっと…‥ミ、ミコトは街にもいなかったわ。まだ行方不明だけど」


 顔を背けながらそんなことを言ってくる。

 人族のミコトを名前で呼ぶのに引っ掛かりがあるのであろう。

 それを無理してやってくれる彼女には感謝しかない。


「レイナ……。ありがとう、私のことを気遣ってくれて」

「べ、別にいいわよ。もう種族のことは気にしないって決めたんだから。リナが嫌がるの、見たくないし」


 うん! とベッドから彼女の腰回りに抱き着いていく。


「建物の倒壊や火災で死者も出てるけど、最小限で済んでいるわ。それと、リュッカは意外と魔族に馴染んでて、怪我人の治療とかで活躍してるよ」

「へぇー。あの子の魔法、やっぱりすごいんんだ」

「うん。すごい回復力だよ。リナ以外であんな魔法力の人初めてみた。しかも人族で」

「なんにしても、馴染んでるみたいならよかったわ」


 なんて話していると、当の本人が入室してくる。


「リナ~! 元気になったって、聞いたん、だけ、ど……」


 言葉がだんだん尻すぼみになっていく。

 リナはレイナへと抱き着いたポーズのままなわけで。

 その姿を見たリュッカときたら、ニヤニヤとした表情へと変わっていった。


「あー……。ごめん、お邪魔だったね。済んだら教えて?」

「いや、済んだらって何が!? 別に何もしてないわよ。ちょっとボディタッチしてただけなんだからっ!」


 大急ぎでレイナから離れて、ベッドの上を自分の居所とする。


「ちょっとねぇ……。前から思ってたけど、リナとレイナって付き合ってるの?」


「ち、違うわよ!」「そうだよ!」


 二人して異なる回答をしていく。

 リナの本心を言うのであれば、彼女とはそういった間柄なのだが、何となくそれを公言するのを恥ずかしく思っている。


「えー。あたしとは付き合ってないの? というか結婚してないの?」

「け、結婚はまだしてないって」

「まだ!? ってことは将来するんだ! それに付き合ってる方は否定しないんだ!」


 レイナまでもがニヤニヤとしてきたものだがら、答えに窮し、思わずそっぽを向てしまう。

 すると、二人して黄色い声をあげてきて、


「あぁ! リナってなんていうかさ、可愛いよねっ!」

「わかる! すっごく可愛いでしょ! 今もきっと心の中でいろんなのと葛藤してるんだよ!」

「やっぱり! もー! 見てるこっちがキュンキュンしてきちゃう!」


 二人して自らの胸を抱きながらリナのことを子馬鹿にしてきたものだから怒ってしまう。


「い、いいから早く報告を続けて! レレムは今大変の状態なのよ!」


 はーい、と上機嫌にレイナが手まであげてきやがった。


「って言っても、もう話すことはないんだけどね。あとは今後の方針かな」

「地震の発生原因が鵺なら討伐を急いだ方がいいわ。ここで復興に力を注いでも、結局また地震のリスクに悩まされることになる」

「鵺、殺しちゃうの……?」


 リュッカがさっきの楽し気な顔から打って変わって、不安な瞳で見上げてくる。


「人々に害を為す以上、対処しないわけにはいかないわ。リュッカ、それに関して聞いておきたいことがあったんだけど、鵺は七百年前どういうことをしていた生き物なの?」

「えっと、私たちのことを守ってくれる守護獣って言われてたよ。魔族たちが攻めてきたときは盾になりながら戦ってくれるの。山の力を使って生きているって言ってた」

「山の力……?」

「うん。レームマリナの山は、霊峰の山って言われてたんだよ。そこに住まう精霊の力で魔族たちを撃退してきたの」


 精霊の力、という部分にクエスチョンマークを浮かべながらも、鵺の行動原理は何となく見えてきた。

 かつての勇者があの魔獣を創ったのであれば、魔族の殺害を目的としていた可能性は高い。


 とくに、先の戦闘においてはリュッカが全く攻撃対象となっていなかった。

 ならば、魔族の都市であるレレムを攻撃してくることも十分あり得る話だ。

 ベッドの上からリュッカに視線の高さを合わせ、彼女の肩を持つ。


「リュッカ、鵺が悪いことをする子だったら、倒さないわけにはいかないわ。七百年前の戦争はもう終わってるの」


 しばらく難しい顔をする彼女ではあったが、納得してくれたのか、やがて小さく頷くのだった。


「とすると、残る問題は四つね」


 リナが指を四本立てるのに対してレイナは「四つもあるのー?」とぶーたれる。


「まず一つ目にどうやってあの鵺を倒すか。戦闘力がかなり高いから、現有戦力で倒せるかはかなり微妙なところよ」

「そこは頑張るしかないんじゃないの?」

「まあ、その通りね。戦って勝つ以外に方法はないと思う。次に、どうしてこのタイミングで鵺が現れたか」


 これまで、あんな魔獣の報告は噂話レベルでも一度も上がってこなかったし、大地震がレレムで起きたなんて話も聞いたことがない。


 先日、巡回兵の一人が亡くなったという報告を受けていたが、これが恐らく鵺による最初の被害者であろう。


「鵺も封印されてたとかじゃないの? リュッカもそうなんでしょ?」

「それはまだ確定情報じゃないわ。リュッカは封印を施されていたと考えるのが一番自然だけど、もしかしたら他に可能性があるかもしれない。それが三つ目の問題ね。結局リュッカは何であんなところで倒れていたのか」

「タイミング的にはほぼ同じだから、関連していると考えた方がよさそうだね」


 レイナの言葉に頷く。


「最後に、ミコトがどこへ行ったのか。結局彼女の足取りが掴めてないわ」

「ミコト……。心配だな……」


 心配そうに俯くリュッカを見ながら、もう一つの心配事項に想いを馳せてしまう。

 ミコトは頑なに否定していたが、リュッカのことを以前から知っている風な態度を取っていた。

 当初はリュッカもミコトと同じく奴隷だったのかと推測していたが、リュッカの話を統合するにその可能性はかなり低い。


 となると、リュッカ、鵺に加えて、ミコトとの関係性をが見えてくれば、わざわざ鵺を殺さずとも問題を解決できるかもしれない。


「もしかしたらミコトが何か答えを持っているかもしれない。鵺の探索と同時に、ミコト探しも継続しましょう」


 そのまま三人して出かけていくことにする。

 兵舎の中を通っていると、数多くの兵士たちが声をかけてきた。


「お、リュッカちゃん、お出かけか? 気をつけてな!」

「リュッカか! 昨日はありがとうな! おかげで足が動くようになったぜ!」

「おう、昨日は助かったぜ。また次があったらよろしく頼むな」


 人族であるというのに、リュッカは多くの魔族兵士たちから感謝を述べられていた。

 ついこの前まで敵対的な視線を向けていたというのに、都合のいい奴らだ。


「あなた、大活躍だったみたいね」

「うん! みんな怖くない人だってわかったからあたしも役に立たないとっ! 働かざる者食うべからずってね」

「ぜひ私の隊の副官にも聞かせてやりたい言葉ね」


 主にレイナの方を見ながら言ったのだが、彼女ときたら目をそらしながら、


「あれ、うちの隊ってもう一人副官いたっけ?」


 なんて言っていた。


 ――まったくもう。

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