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勇者になりたかった魔王  作者: ihana
【第二部】 選択の代価は 【第一章】 古の精霊 
39/66

6-2 迫る溶岩と他称魔王

 最初は冷たかった。

 灼熱に包まれるとはこんな感覚なのかと不思議な想いをしてしまうも、その冷たさがあまりに心地よくて、レイナはまぶたをあげる。


 そこに自分の愛する彼女の顔があって、なおのこと安堵の想いを抱いてしまった。


 たぶん、自分はもう死んでしまっているのであろう。

 もしかすると、天国とはこんな場所なのかもしれない。


 ただ……、彼女の横に、自分があまり好きではない人族の少女――リュッカの姿があったのは何となくいただけないことだが――、それでもリナがいるのなら、それだけで全てが満足だ。

 なんて思っていたら、その彼女から声がかけられる。


「頑張ったわね、レイナ。もう大丈夫よ」


 そんな言葉をかけられてしまったものだから、レイナは涙があふれた。

「リナ……っ。あたし、がんばったよぉ。いっぱいいっぱい頑張ったよぉ……っ。でも、もう死んじゃったや。リナと、もうイチャイチャできない……っ」


 涙をポロポロと流しながら心の内を吐露していくと、リナがその手を優しく取って、リナの胸にあてがってくるのだった。

 普段だったら絶対にやらないようなその行為に、ああ、やっぱりここは天国なんだなとレイナは思ってしまう。


「ふふっ。あなたにとって元気が出るでしょ? い、言っとくけど、あなたみたいにおっきくないからね。そ、それに今日だけなんだからっ」


 頬を赤らめる彼女はまるで本物かのようで。

 最期だとばかりにその柔らかさを泣きながら何度も何度も揉みしだいてしまう。


「いや、ちょっと待って。やっぱり恥ずかしい。もうおしまい」

「えぇ、最後なんだからこれくらいわ……。というか裸くらいみたいんだけど。いや、もっと先までしたいんだけど」


 体を小さくしながら、天国の神様だか天使だかよくわからない相手に文句を言っていく。


「ダメに決まってんでしょうが。まったくあなたは。もう元気みたいね」


 ――あれ……? 何かリナの反応がすごく本物っぽい。


 そんなことを思いながら、レイナは周囲に目をやると、倒れていた部隊員たちが次々に治療されていく。

 それどころか火傷まみれだった自身の全身も治っていくではないか。


「あれ……。これって……?」

「リュッカはみんなを治療できる」

「うん! 任せて!」


 ガッツポーズをつくるリュッカ。


「レイナ、立てる?」


 リナの問いかけで、自分がまだ死んでいないということを自覚してしまう。

 だから彼女の答えは「……やだ」であった。

 そんなレイナにリナは優しく微笑む。


「もう、あなたは甘えん坊ね。……いいわ。巡回のときはダメって言ったけど、今日はがんばったみたいだから、ご褒美よ」


 騎士が姫を抱き寄せながら戦うかの如く、リナは彼女を抱き寄せる。

 そんな彼女がどんな物語に出てくる王子様よりもカッコよく見えるのだった。


「でも、リナ、マグマが。それに魔物たちも……」

「大丈夫よ。他称魔王に任せなさい!」


 リナ自身も昨日から一睡もできていない上に鵺との戦闘で消耗してはいるが、それでもリナにだって意地がある。


 彼女は杖を取り出して意識を集中させる。


 二十八個の魔法陣を展開。

 膨大な魔力をその杖に集め、砂利が舞い、空気が収束し、自身の体が輝いていく。


 万物の動静、それは熱なり。

 ゆえに状態を示すは炎。

 奪いて消え去るは静。

 素なる活力は絶対にして、

 ゆらぎを壊し、すべてを止める。


 輝くその名は――


「真環冷絶魔法【リーゾ・ティ・クリステイロ】!」


 小さな氷の結晶のようなものがリナの手から散った。

 それが青白い火花を散らしながら、ゆっくりとマグマの方へと飛んでいく。

 そしてそれが触れた瞬間――


 小さな花瓶の割れたような音が響き。

 視界が消えた。

 何も見えない、何も聞こえない。


 いや、


 違う。


 すべてが白になり。

 すべての音源が消え去ったのだ。


 燃えていたものはすべて鎮火し。

 それどころか氷と化し。

 木も水も森も地面までもがすべて、真っ白な雪となっていた。

 マグマもその例外ではなく、先ほどまで煌々と迫ってきていたものは、今や動かぬただの地面となり。


 冬にはまだ早いこの時期、一面の雪化粧をこの場にいる者たちは刮目することとなった。


 息を吐き出し、リナは崩れ落ちてしまう。

 彼女とて昨日から魔力を使い続けた身。

 それが無限というわけもなく。

 茫然としていたレイナが、倒れるリナを目に我へと返り、彼女を抱きかかえる。


「リナ! 大丈夫!? リナ!」

「ええ。少し、立っているのが辛くなった、だけ。でも、少し休みたいや」

「大丈夫よ。あとのことはやっておくから。リナは休んで」

「うん。ありがとう」


 レイナの瞳を見て、完全に糸が切れてしまった。

 リナは電池が切れたように眠っていくのだった。

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