5-2 鵺
しばらく歩いたところで魔力が非常に濃くなってくる。
違和感がどんどん強くなっているが、この正体がなんであるかは最近わかってきた。
収差演算において、通常とは異なる何かがあるときの反応だ。
「リュッカ、私の後ろに。何かいるわ」
光剣を右手に取り出し、杖を左手に持つ。
リュッカも魔法を詠唱。
「【サモン エレメンタルゴーレム】!」
薄っすらと光る巨大な魔力体のゴーレムが生成され、リナたちを守るように立ちはだかる。
「あなた、創造魔法が使えるの!?」
生物の創造魔法は高位な魔法だ。
生成された者は複雑な命令もこなせるし、簡単な知性も持つ。
おまけにこの大きさともなれば、相当の魔力量を保持していることとなろう。
「う、うん。ただ、あたし、こんなにおっきいの創造できなかったはずなんだけど……なんでだろう??」
リュッカの言葉に眉を寄せてしまうもそれを思考する前に、違和感の正体が姿を表してきた。
「なん……なの、これは……!?」
構えていたはずなのに、思わず息を呑んでしまう。
他種の模様をいくつも重ね合わせたその生物は、生き物であるのに生き物であるように見えない。
無機質なわけではなく、リナの知っている生物の常識とはまるで違う。
それは体中に異なる皮膚があるように見えるからだろうか。
あるいは、その顔が人に似たものだからであろうか。
普通、蛇であれば全身鱗、虎であれば全身毛皮、鳥であれば全身羽毛で覆われているが、この生き物は違う。
尾に鱗があり、腕に毛が生え、背中からは羽毛を備わっている。
物語の中にはキメラという生物が存在するが、まさにそれを体現しているかのようだ。
ここで、リナはある噂話を思い出す。
今回レレムへと招集がかかった際に、目撃者の証言の中に「キメラがいた」という言葉があった。
上層部は恐怖が見せた幻覚だろうとあまり重視していなかったが、目の前にいる生き物は明らかにキメラと思えるような合成生物だ。
そいつはじっくりとこちらをねめつけながら、今にも飛び掛からんという勢いで構えている。
「鵺!? なんでこんなところにいるの!?」
「知ってるの!?」
「勇者様が対魔族戦で創られた合成生物だよ!」
「なんですって!?」
話しているのも束の間。
鵺と呼ばれた化け物がリナ目掛けて突っ込んでくる。
次の瞬間にはもう目の前!
「【モレキュラーシールド】! 【アイスランス】!」
盾を前方に、氷の槍を出現させながら自身も光剣片手に斬りかかっていく。
だが、リナの腕力では速さに圧倒的な劣りがあり。
攻撃は全て躱されて、むしろ幾度も奴の爪が飛んでくる。
シールド魔法でギリギリ防御をしているところに間髪いれずゴーレムが叩き込む。
逃げた先にはリナの土槍魔法【グランドスピア】を仕掛けるも、体を捻ってあたらない。
忌々し気に舌打ちしながら、次なる手を打っていく。
「【サンダースネイク】」
誘導型雷魔法。
これは相手に当たるまで追いかけ続ける。
仮に回避を続けられたとしても、横からさらにリナの魔法が追加可能で、避ければ避けるほど相手は不利になるはず――
……だったのだが、鵺はそれを尻尾で薙ぎ払うことでかき消してきた。
――効いてない!?
走り込んでくる鵺に、
「【スパイラルレイ】」
曲光追尾魔法で応戦。
当たりはしないが突進を妨害。
【ファイヤーレイン】、【ミストスプラッシュ】の範囲魔法でとにかく有効打を探っていく。
攻撃が当たらないことには何が有効で何が有効でないかがわからない。
それをやっていると横からリュッカが飛び出す。
「鵺! やめて! リナは魔族だけど敵じゃないわ! 攻撃しないで!」
リュッカが叫ぶも一切気に留めていない様子。
彼女を無視してリナへと猛攻を続ける。
「リュッカ! 下がって!」
光剣を振るっていくも、尻尾で払われる。
あの尻尾は常に魔力を帯びていて、魔法や光剣が効かない。
裏を返せば、それ以外の部分には光剣や魔法が有効かもしれないというわけだ。
「【アクセルバースト】!」
加速魔法で一気に距離を詰めていく。
この魔法であれば奴の速度にもギリギリついて行けるかどうか。
「問題は私の動体視力の方ってわけね!」
素早く動けても、それに反応できる神経がなければ意味がない。
洞窟内を三次元軌道にて上下左右へと移動するヤツの背中をどうにか捕えながら、光剣と魔法を振り回す。
「【シールムーヴメント】」
リュッカの支援魔法で鵺の動きが鈍る。
「【サンダークラスター】!」
雷散弾を直撃させることに成功し、ようやく相手の痛痒な声を聞くに至る。
だが、反撃にひっかき攻撃がかすってしまい、腕が血だらけとなった。
かすっただけでこの威力。
まともにもらえば腕が消し飛ぶことであろう。
エレメンタルゴーレムが側面攻撃。
わずかな隙で腕に治療魔法をかけて自分も駆ける。
鵺はゴーレムの破壊を優先したようで、ひっかき攻撃と尻尾の薙ぎ払いによって破壊されてしまい、光りの礫となって消えていった。
だが、それにより生まれた隙をリナは見逃さない。
「【アトミックレイ】!」
瞬時に魔力をかき集めて、最高位の光線魔法を放つ。
やつの左足を撃ち抜くことに成功し、うめき声が鳴り響いた。
「【サモン! サンダーバード】」
リュッカが次なる雷鳥を呼び出し、継戦の構え。
しかし――
鵺が咆哮をあげて、尻尾を地面に突き立てた。
次の瞬間――
視界が崩れた。
地震だ。
それも、先のレレムで発生した地震に並ぶ非常に巨大なもの。
リナはすぐさまリュッカの元へと行き、防御魔法を張って落石に備える。
リュッカもリュッカで、雷鳥へ覆いかぶさるよう指示を出し、崩れてくる天井に備えるようだ。
激しい揺れに立っているのもおぼつかず。
通路が次々に崩れて、視界が奪われていく。
揺れが収まったころには、地形が変わってしまっていた。
「リュッカ、大丈夫?」
力強く頷く彼女をみて、周囲に警戒を飛ばす。
「鵺は……?」
収差演算で周囲を探るも見当たらない。
おまけに通路も塞がれて、奴がいた方には行けないようになっているようだ。
「逃げちゃったのかな?」
「……みたいね」
土煙が収まっていき、状況を確認する。
幸い八方ふさがりにはなっておらず、元来た道には戻れそうだ。
雷鳥は不幸にも落石を何発もくらってしまったようで、ちょうど光の粒となって消えるところ。
「さっきの地震って鵺だよね? もしかして昨日のも鵺がやったのかな」
「わからないわ。けど、強度としては十分あり得るわね。……それにしても、あなた普通に強いわね」
「にっしっしー! あたしだって役に立つんだもーん」
「それは心強いわ。さて、どうしようかしら。このまま進むってわけにも行かなくなっちゃったし……」
「うーん、ミコト、一人で大丈夫かな。どうする? 先に進めないとなると、もう行く場所がないけど」
精霊の祠へと続く道は閉ざされてしまっている。
是が非でもそこを目指すのであれば、ここを掘り返すかあるいは別の道を探す必要がある。
だが、掘り返すとなると更なる崩落のリスクを伴うわけで。
「そうね……一度戻りましょう。ここに残っても仕方がないわ。整理したい情報もあるし、さっきの地震でまたレレムに被害が及んでいるはず。状況も気になるわ」




