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勇者になりたかった魔王  作者: ihana
【第二部】 選択の代価は 【第一章】 古の精霊 
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3-2 翠眼の少女

 そんな訓練の日々が続いたある日、リナたちが助けた少女が意識を回復させたとの報告が入り、急ぎ救護室へと向かった。


 ちょうど部屋の前でミコトとすれ違う。

 当然彼女は声をかけることもなくそのまま行ってしまおうとするのだが、


「ミコト、付き合いなさい」


 そう言ってから彼女の手を取り、半ば強引に部屋へと引き込んでいく。


「あ? あんだよ!? あーしになん、の、用……」


 最初こそ語気を荒げていたのに、部屋に入って目覚めた少女を見た途端、あのミコトが



 目を見開いていた。



「……え? 知り合い?」


 いつも通りの無視が続くも、ややもすると小さく「いや、知らねぇ奴だ」と返された。

 そんな彼女に眉を寄せながらも、人族の少女の方へと近寄る。


 少女はミコトと同い年くらいであろうか。

 緑がかった髪の色と言うのはだいぶ珍しいが、そんな髪をした彼女は、瞳もエメラルドのように美しい翠であり。

 ミコトが鋭い釣り目であるのに対し、この子は優しい垂れ目となっていた。


 リナの方をぼんやりと見ながら、まるで言葉の通じない外国にでもやってきてしまったかのような表情で、リナと床を交互に見ている。


「えーっと、まずは、自分の名前はわかる? 私はリナっていうの。あなたがレレムの山で倒れていたから、ここまで連れて来たわ」


 リナの言葉を聞いて、徐々に意識の実感を取り戻していくも、その顔は青ざめていった。

 間髪入れずその子は体を引きながら、ベッドの上で頭を下げてきたのである。


「ど、どうか、命だけは勘弁して下さい! 下働きでも何でも致します!」


 その訳の分からない挙動に、リナは首裏へと手を当ててしまう。


「あー……えーっと、大丈夫よ。私はあなたに危害を加えたりはしないわ。たしかにここは魔族の都市だけど、こうして人族の子も一緒にいたりするの」


 無理矢理ミコトを前面に出す。

 人族なんてこの都市には商人くらいしかいないのでだいぶ嘘ではあるが、とりあえず安心させるためにそんなことを言ってみたりする。


 ミコトのことを認識し、少女は少しだけ肩の力が抜けたように見えたが、それでも警戒の色は消えていない。


「この子はミコトって言うの。訳あって今は私が面倒見ているわ。よかったらあなたの名前を教えてくれる?」

「あ、は、はい。えっと、わた、しは……。あれ……? えっと――、私は……っ? え? あれ?」


 まるであるはずのものがないと言わんばかりにあたふたと挙動不審となる少女に、リナはおおよその事態を察する。


 恐らくだが、記憶障害。

 リナは人生で一度、自分が記憶障害になった経験があり、その時は空を掴むような感覚に幾度も苛まれたものだ。


 彼女の様子はまさにそれのように見えたので、リナは彼女の手を握り優しく撫でてやる。


「落ち着いて。ゆっくりでいいのよ。無理に思い出そうとしなくてもいいわ」

「ひぃ……!」


 自分の経験から知っている対応方法を試したのだが、この少女には全く効果がなく、むしろ怯えさせる結果となってしまった。

 顔を引きつらせながら、動悸の高鳴りをこちらからでも確認できるレベルだ。


 なぜここまで恐怖しているのかに強い疑問を抱いていると、


「リナ、その手をまずは放せ」


 なんてミコトに言われてしまったものだから、慌てて手を引いてしまう。

 おまけにミコトから、おおよそ彼女が口にするとは思えない言葉が放たれた。


「あーしがやる。てめぇは少し距離を取れ」


 その提案に驚きを覚えながらも、素直にミコトへ任せることにし、リナは少しだけ体を下げていく。

 ミコトはガラス玉でも扱うかのように少女のことを抱きしめて、その頭を撫でた。


「大丈夫だ。落ち着け。あの魔族は敵じゃない。お前や他の人族を殺したりはしない」

「で、でも魔族がっ――」

「安心しろ。もう戦争は終わった。人族と魔族は今、平和だ」


 そんな風に言葉をかけることで、少女は落ち着きを取り戻していった。

 ミコトのあやし方を見ていて、なるほどと合点がいく。

 この少女はリナが魔族であることに恐怖していたのだ。


 だが、戦争の話をしている辺りがよく理解できない。

 やはりミコトはこの少女のことを何か知っているのではないだろうか。


「リナ、少し外せ。こいつには時間が必要だ」


 素直に彼女の言った通りにする。

 今のところ自分にできることと言えば、暖かい食事と水を持ってくることくらいだ。


「わかったわ。何か必要なものがあったら呼んで」


 ミコトが他人に興味を示していることを喜ぶべきなのだろうか。

 でも、今はあの少女の回復が最優先事項であろう。

 そんなことを思いながら、リナは部屋を後にするのだった。

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