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遭難者救助 情報収集

 海戦が終わり旅順方面から敵が来ないことを鯉之助は確認した。

 通報を聞きつけて駆けつけた連合艦隊主力も到着し、旅順艦隊を圧倒している。

 もはや敵が出てくる事は、連合艦隊主力が下がるまで無いだろう。

 周辺海域の安全が確保されたのを確認した鯉之助は、沈没したロシア艦の周辺を漂う生存者を見て沙織に命じた。


「第一一及び第一二駆逐隊へ命令。ロシア側の生存者を救助するように。本艦も向かうぞ、白旗と助かる命は助けたい」

「了解、万が一に備え警戒用の艦艇を旅順方面に出しロシア艦隊出撃を警戒させます」

「人道的じゃな」

「ええ、まあ」


 観戦していた龍馬が満足そうに言う。

 鯉之助が敵兵とはいえ、人命救出を徹底したことが龍馬には嬉しかった。

 この気温と海水温では、海に投げ出されたらすぐに凍死してしまうだろう。

 ロシア艦隊は撤退しているから近くにいるのは皇海と海援隊の艦船のみ。

 連合艦隊主力も到着したが距離があり、到着には時間が掛かる。

 鯉之助が助けなければ、助からない。

 海援隊員以前に船乗りとして、海で漂流者を見捨てておくことは出来なかった。

 このような状況でもシーマンシップを発揮してくれるのは、父親として誇り高い気分だ。

 ただ、鯉之助が救助を命じたのは、そればかりが理由ではなかった。




「それで、捕虜からの情報は得られたかい?」


 旅順での交戦終了から一時間後、円島へ戻る艦内で鯉之助は沙織に尋ねた。

 捕虜を救助した駆逐艦から捕虜を受け取り、皇海の艦内で治療と聴取をしていた。


「はい、ロシア側の司令長官が交代したそうです。奇襲を許したスタルク中将が解任されマカロフ中将に代わりました」

「マカロフ中将だと!」


 思わず鯉之助は大声を上げた。

 ロシア海軍の中でマカロフ中将は世界的に有名な提督だった。

 多くの実戦を経験し、その体験を元に多数の著書を書き各国の海軍が手本にしている。

 勿論帝国海軍も海援隊も例外ではなく鯉之助も持っている。


「妥当な人選だと思うけど。戦争になったのだから優秀な提督を送り込んでくるのは当たり前では?」

「そうだな」


 衝撃を受ける鯉之助に沙織は常識的なことを言う。


「だが交代が早すぎる」


 開戦から数日しか経っていないのに交代するのは早すぎる。

 モスクワから極東へ部分開業したシベリア鉄道を通って旅順へ来るのに何日かかるか。

 予め開戦前に派遣してきたとしか思えない。

 そしてロシアは日本が戦争を仕掛けてくるとは思っておらず事前準備は殆どしていないはずだ。

 誰かが、開戦したらマカロフに交代させられるように予め派遣したのは間違いない。


「すぐに交代を指示したのが誰か調べるんだ」

「神経質ね」

「今後の戦局を大きく左右する。マカロフ中将の異動を誰が決定したか、急いで調べ上げるんだ」

「了解」


 沙織は通信室へ下がっていった。


「さすがじゃのう」


 鯉之助の情報収集の能力を見た龍馬は感心した。


「どんな敵でも油断しないか」

「マカロフ提督は強敵です。油断せずに戦う必要があります」

「それは心強いのう。海援隊は海運で富を作り上げている組織じゃき。シーレーンを確保、襲撃してくる敵艦隊を撃退できんのは不味いからのう」


 海援隊が半分企業でありながら強力な軍艦を保有ししている理由は、諸外国からの襲撃を跳ね返し通商路を守るためだ。

 砲艦外交という言葉があるように紛争があると軍艦をその土地に派遣するのは、この時代に良くある事だ。

 ロシアや英国だけで無く、フランスもベトナムに、独逸も獲得したばかりの山東半島に東洋艦隊を配備し、アジア沿岸で砲艦外交を行っている。

 そして海援隊とトラブルが起きた時軍艦を出して威嚇し有利な権益を得ようとしていた。

 海援隊も軍艦を送り、威圧し返して権益を守る事が多い。

 そのため多数の軍艦を海援隊は保有していた。

 皇海が建造され保有しているのも、ロシアとの戦争以外にも日々圧力を強める列強からの威圧を圧倒的な戦力で跳ね返すためだ。


「ありがとうございます。ところで総帥一つお聞きしてもよろしいですか?」

「なんじゃ?」

「今回は誰に手を出したんですか?」

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