表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/45

朝鮮半島の情勢

 英国出張で手に入れた秘蔵の酒、最高級スコッチを沙織に出されて鯉之助は渋面になりながらも口に入れて気分を良くする。

 イギリス海軍の伝統を注ぎ込んだ海軍と海援隊は艦内での飲酒は許可されている。

 量に関しては当直以外は任務に支障の無い範囲に留めること、という紳士的な束縛があるだけだ。

 海上自衛隊のように乗艦中は許可の無い時以外は禁酒、ではないので当直明けならば飲酒しても問題は無い。

 そもそも海自が禁酒にしているのはアメリカ海軍が禁酒の規則を作っていたためだ。その米海軍にしても禁酒法時代に禁酒の規則を作ったので、むしろ禁酒の方がおかしい。

 海援隊の中には酒豪も多いことだから、禁酒など言いだしたら、なんでそんなつまらない規則を作るんだと文句が出るだろう。


「あとは、朝鮮半島を確保できるかが問題だな」

「大韓帝国を味方、勢力下に収めることが出来るかどうかが、この戦争の勝敗の分かれ道だ」


 秋山の言葉に鯉之助は同意する。

 日露戦争は朝鮮半島を日本が確保するためにロシアと始めた戦いだった。

 幾世紀にもわたり進められたロシアの南下政策。

 だが一九世紀後半から黒海、中央アジア方面で南下に失敗してたいたロシアは矛先を朝鮮半島に向けていた。 

 朝鮮半島をロシアに支配されれば、半島の先にある日本は多大な影響を受ける。

 樺太、千島で江戸時代から接触、時に衝突していた日本にとってロシアは宿敵とも言える存在だ。

 特に樺太と北海道に植民し絶えずロシアの脅威にさらされた海援隊には脅威であり、心身に刻み込まれていた。

 ロシアの脅威から日本を守る為に、日本はロシアからの防波堤となる朝鮮半島を支配下に置きたかった。

 だから朝鮮半島に陸上部隊を上陸させなければならない。

 開戦と同時に仁川に陸軍と海兵隊、海援隊を上陸させたのは、そのためだった。


「朝鮮半島を握れるかどうかが、今現在の戦争の焦点だ」


 当時の朝鮮半島は李氏を皇帝とする大韓帝国が支配していた。


「日清戦争の日本の勝利により一応の独立国となった朝鮮王国だが、事大主義――大国に付き従う朝鮮の方針により、衰退した清国から日本へ主を移り変えた」


 酒が入ったせいか、疲労で鈍っていた頭の回転が少し良くなったようで、鯉之助は語り始めた。


「だが、三国干渉以降、情勢は変わった」


 ロシアを筆頭とするフランス、独逸による遼東半島撤退勧告、いわゆる三国干渉でを引き下がった日本を見た朝鮮王国、今度はロシアに鞍替えした。

 特に乙未事変で朝鮮の王后である閔妃が殺害されてから王国は混乱し各国が朝鮮を手に入れようとしていた。

 そんな1896年の二月、朝鮮国王が日本によるクーデターを恐れロシア領事館へ逃げ込む事件<露館播遷>が発生。

 領事館内で朝鮮国王はロシアに有利な法令を出す事態となった。

 二一世紀で言えば、アメリカ主導のクーデターを恐れた韓国大統領が中国大使館に逃げ込んでそ、大使館から中国寄りの政務を行うようなモノか。

 当然、朝鮮半島は大混乱になる。

 翌年になってようやく国王は王宮へ戻り、朝鮮王国は名を変えた大韓帝国になった。

 だが、国王が領事館に逃げ込むのを見た各国は朝鮮に主権国家としての資格はないと見なした。

 そのため日本が朝鮮を支配することを認める――大韓帝国より日本が支配した方がマシだという空気も流れていた。

 しかし、腐っても鯛ならぬ独立王国である朝鮮に日本が理由もなく平時に出兵することは出来ず、開戦と同時に進駐することになった。

 仁川で勝利し、朝鮮半島を日本の勢力下に収めた成果は大きい。

 大韓帝国は局外中立で日露戦争を乗り切ろうとしているが、いつロシアに寝返るか分からない。

 それに日本の大陸の防壁、策源地、後方支援基地としての価値が大きすぎる。

 開戦劈頭に朝鮮半島を確保できるかどうかは日本の死活問題だった。


「仁川から上陸しソウルを制圧、大韓帝国を確保すれば、この後の戦いがやりやすくなる。補給路を確保するためにも、なんとしても半島を手に入れたい」

「すでに手に入れちょるぞ」


 公室に聞き慣れた声が響いた。


「総帥」


 鯉之助は立ち上がり、自分が所属する組織のトップであり父親である坂本龍馬に敬礼した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ