エピローグ 悪意の残党の今
あれから数か月、オレ達ははじめさんやあかねさん、いのりと同じように希望復興機関に勤めていた。
いのりはオレ達を更生させたことで希望復興機関から認められたようだ。オレ達の監視を続行することで話が進んだらしい。後輩なのにすごいと思う、やはり天才級の希望というだけある。殺人を犯した人達、あの世界で死んだ人達は職員が一人ずつついて監視し、最後まで生き残った人達はいのり、はじめさん、あかねさんが監視するようだ。「また悪意と絶望に染まらないとは限らないから」と言った理由らしい。いのり達三人は不服そうにしていたが、皆のしてきたことを考えれば当然の判断だろうということで文句は言わなかった。
「松本君」
いのりが話しかけてきた。隣にはゆきととちひろ。
「どうしたんだ?いのり」
「仕事が入ったから、それをキミに伝えに来たんだ。……と言っても、木護さんと小松君からだけど」
「あの二人から?」
元悪意の残党ということもあり、嫌な仕事が回ってくることもあるのだが、あの二人から依頼が来ることはあまりない。しかも、この組み合わせというのも気になる。
「……言っておくけど、ボクとゆきと君は抜けるからね?」
「え?」
どういうことだろう?するとゆきとがオレの肩を叩いた。
「まぁ、つまり二人で過ごしてねってこと。あの二人からのお気遣いだよ。……頑張れ、松本君」
いのりとゆきとは笑い、そのまま去って行ってしまった。オレとちひろは唖然としている。仕事はどうした?……いや、仕事ではないのかもしれない。
……まさか、四人には気付かれてるのか?だから気を遣ってくれたのか?
そうだとしたら、この機会を逃す訳にはいかない。
「……とりあえず、部屋に行くか」
「そうだね」
オレはちひろを連れて、自分の部屋に向かった。
「ここがりょうま君の部屋か……意外と片付いてるね」
ちひろがオレの部屋を見て、不思議そうにしている。希望復興機関の寮に入ってから必要なもの以外は置いていないから、片付いている。
少し話をして、オレは本題に入る。
「な、なぁ、ちひろ」
「うん?何?」
ちひろはオレを見る。一度深呼吸をして、
「オレと、付き合わないか?」
俗に言う告白を、オレはした。顔が熱い。ちひろはキョトンとした後、
「うん、いいよ」
そう言って微笑んだ。こうして、オレ達は晴れて恋人になった。
別の日、オレ達四人はあかねさんが作った花壇に来ていた。
「あ、皆さんも来ていたんですね」
「ここ、いいもんね」
四人で話していると、あかねさんとはじめさんも来た。そういえば、この二人も恋人同士だった。
あかねさんはオレに近付くと、
「……告白、成功したみたいですね」
と小さな声で言った。やっぱり、彼女の目には誤魔化せない。
「丁度いいし、ここで食事でもする?」
はじめさんの言葉にいのりは「いいですね」と答えた。
いのりは左腕に力があまり入らないので五人で準備して、いのりはパソコンで何かをしていた。
「何してるの?いのりさん」
ある程度準備が終わった後、ゆきとが聞くと、いのりは「ウサコちゃんやアルターエゴと話してる」と答えた。
「ウサコちゃん?私も話したい」
ちひろがいのりの隣に行き、話し始めた。オレとゆきとも近付くと、ウサコとアルターエゴがパソコンに映っていた。
「久しぶり、松本君」
「アルターエゴ、あの時は本当にありがとうな」
「いいよ。「ボク」は皆を希望に導くために生まれたんだから」
そんな話をしていると、ちひろが不機嫌になっていることに気付いた。
「あー、松本君、罪な男だね」
「いきなりどうした?アルターエゴ」
「守川さんと恋人になったんでしょ?「ボク」と話すより彼女と話したら?」
「アルターエゴ、彼にそんなこと言わないの。まぁ事実だけど」
「ご主人様がそう言うならあまり言わないようにするけど」
アルターエゴの言葉の意味が分からなかったが、ちひろを見ているとある結論に至る。
――もしかして、嫉妬か?
恋人になってまだ数日、お互いのことはよく知らない。だが、他の女性と話して嫉妬するのはなんだか嬉しい。
「……ちひろ、一応言っておくがオレが好きなのはお前だけだからな」
そう言うと、ちひろは顔を赤くした。
「青春だね」
いのりが笑いながら言う。そして、ウサコとアルターエゴに「じゃあ、また今度」と告げてパソコンを閉じた。そして、あかねさんとはじめさんのところに行った。
まだ不自由が多いし、世界も復興とは程遠いが、それでもオレ達は進んでいく。明るい未来を創るために。
これで学級裁判の話は終わりです。
こんな話を読んでみたい、あかねちゃんやいのりちゃんたちのことを詳しく読んでみたいという人はぜひ教えてください。出来る限り要望にこたえたいと思います。