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三章 真実と生贄少女

 学級裁判が行われた次の日の夜、ボクはなかなか眠れなくて外に出た。

「……空は綺麗だね……」

 まるで絶望なんてない、別の世界に来たみたいだった。だけど、本当に一日の内に三人が死んでしまったのだ。

 希望が輝くためなら、ボクは死んでもいい。どうせボクは運がいいだけのただの屑人間なんだから。それに、ボクはその才能のせいでたくさんの人を不幸にしてきてしまった。だから、本当は他の人達とは深く関わらない方がいい。

 ここにいる皆をこれ以上不幸にしないためにも、その方がいいだろう。実際、あの時ボクと話していたせいで二人は殺される羽目になってしまったんだ。

 ――不幸の後に幸運が来るという、ボクの才能のせいで。

 そのおかげで、希望を見ることが出来たことについては感謝するけど。でも、それでももう、目の前で人が死ぬのはもう、見たくない。

 両親が目の前で死んだ時も。

 親戚が殺された時も。

 ボクと、関わっていたから……。

 過去の記憶を思い出して、ボクは暗い気持ちになった。

「……あんまりネガティブにならない方がいいよね」

 そう思って顔を上げると、藤下さんのコテージが明るいことに気付いた。

「まだ寝ていないのかな……?」

 何となく気になって、ボクは藤下さんのコテージに行った。そして、ドアベルを鳴らすと彼女は顔を出した。

「……花筏君?どうしたの?眠れないの?」

 彼女の質問にボクは頷いた。彼女の目の下はクマになっていて、何日もロクに寝ていないことが分かる。それでも彼女はコテージに入れてくれた。前にコテージまで来た時「散らかってるから無理」って言って入れてくれなかったのに、どうしてだろう?

 そこで、ボクは予想外の事実を知った――。



 学級裁判が行われて二日目の朝、オレはレストランに向かった。正直、あのことが頭に残ってちゃんと眠れていない。

 レストランにはいのりとゆきと以外の人が集まっていた。でも、皆初日以上に暗い表情だった。当たり前だ、急に三人も殺されてしまったんだから。

「りょうま君、こっちおいでよ」

 そんな中、ちひろに呼ばれ、オレはそっちに行く。

「ねぇ、電子手帳を見てよ。いのりさんとゆきと君の情報が追加されてるよ」

 彼女に言われた通り、電子手帳を開くと確かにいのりとゆきとの情報が増えていた。全く気付かなかった……。

 いのりの方はこうだ。

 どんな状況でも冷静に物事を把握する。皆、特に花筏 ゆきとの性格をよく知っているようだ。彼とは過去に関わりがあるらしい。

 ゆきとといのりは、過去に関わりがある?それはどういう意味だろう?

 ゆきとの方はこう書かれている。

 自分を卑下するが、幸運というその才能は本物。しかしそのせいで過去に辛いことが何度もあったようだ。

 過去に辛いことが何度もあった?幸運という才能のせいで?それは、おとといのことと何か関わりがあるのだろうか?

「二人の情報だけ増えてるのはなんでだろうね」

「多分、裁判中に結構議論に参加していたからかもな。それに、オレ達はいのりの作ったゲームを一緒にやってたし、それで仲良くなったってことなんだろ」

 そう思っておくことにする。そうだとしたらちひろのも増えていると思うが。

 ちなみに、ちひろの情報はこうなっている。

 守川 ちひろ 身長百六十七センチ 体重五十キロ

 誕生日 八月十二日

 ゲームなら何でも出来る。父親がプログラマーだったからか必然的にゲームをするようになったようだ。

 本当に……どこから仕入れているのだろうか?この情報は。

「そういえば、まだ二人来てないね」

 ちひろが周りを見て告げる。確かに、いつもならいのりとゆきとは早めにレストランに来ているのに、今日はやけに遅い。

「ちょっと見てくるか?」

 オレが聞くと、ちひろは「うん、心配だし」と答えた。本当に殺人が起きたから不安なのだろう。それはオレも同じだ。

 オレ達は二人で食堂から出た。



 オレ達がいのりのコテージのドアベルを鳴らすと、中から出てきたのはゆきとだった。

「ゆきと?なんでいのりのコテージにいるんだ?」

 予想外のことにオレが聞くと、彼は「昨日、眠れなくてね」と答えた。

「藤下さんのコテージが明るいことに気付いてドアベルを鳴らしたら入れてくれたんだ。ちなみに、藤下さんは今寝てるよ。あ、誤解しないでね、変なことはしてないから」

 いや、変なことをしていたらミミックが黙っていないだろうから疑わないけど。

 ふとゆきとが黙り込んだ。その表情はどこか悩んでいるようだった。

「……どうしたの?ゆきと君」

 ちひろが聞くと、彼は「あ、ううん。何でもないよ」と笑って見せた。そして、

「……ねぇ、松本君達はさ、裏切り者って信じる?」

 突然そんなことを尋ねてきた。裏切り者って確か……初日にミミックから聞かされていたことだよな。

「裏切り者なんて、いるわけないだろ?」

 オレが軽く言うと、ゆきとは「うん、そうだよね」と寂しく笑う。急にどうしたのだろう?確かゆきとも裏切り者の存在を信じてなかったよな?もしかして何か分かったのか?

「あ、二人は気にしなくていいんだ。ただ聞きたくなって」

 そういうことならいいけど……どこか引っかかる。だけど本人は話したくなさそうだし……。無理に聞くのはやめた方がいいだろう。

 ――彼がいのりのコテージで何を知ったのか分かったのはもう少し後のことだった。



 昼過ぎ、ミミックがオレ達を広場に集めた。ちなみに、あの後いのりは起きてきた。

「今度は何だろうね」

 ちひろがオレにそう聞いてきた。そんなこと聞かれてもな……。

「多分、例の動機とかいうやつじゃないか?分からないけど……」

「うーん……恐らくそうだろうね……」

 オレの言葉にいのりは頷いた。目の下がクマになっているけど、大丈夫か?ちゃんと寝ていないんじゃないか?

「いのりさん……大丈夫?眠そうだよ?」

「大丈夫、コーヒーをがぶ飲みしてるから」

 いや、それ大丈夫じゃないだろ……。どんだけ寝てないんだよ。

「はいはーい!お前ら集まった?」

 なんて考えているとミミックが現れた。ウサコも現れたけど、すぐにいのりの足元に隠れてしまった。何があったんだ、オレ達の知らない間に。

「今度は何の用だ?くだらないことなら今度こそ吹っ飛ばすぞ」

 しろうが強気に告げる。でも、彼もミミックに敵わないということは既に知っているハズだ。

「もちろん、次の動機に決まってるじゃん!」

 そう言ってミミックはそれぞれに携帯ゲーム機を渡した。それから、ゲームセンターにあるようなレトロゲーム機も置かれた。

「それはぼくがお前らの学園時代をもとに作ったゲームだよ。もしかしたらお前らの意外な関係性が分かるかも?やるかどうかはお前ら次第!あ、もしやったら、その時は感想を聞かせてね」

 それじゃあね~、と言うだけ言ってミミックはまた消えてしまった。ウサコはいのりの携帯ゲーム機を覗いた。すると彼女は小さくため息をつき、そのゲームの電源を入れた。

「お、おい。いのり……」

「大丈夫。ボクはこの程度で殺人なんて犯さないから」

 オレの戸惑った声にいのりは自信満々に答えた。確かに、彼女はこの程度で人を殺しはしないだろう。いつの間にか、いつもの四人以外はいなくなっていた。

 しかし、ゲームをやり始めて少し経つといのりの顔色が変わった。

「ど、どうしたんだ?」

 様子がおかしいと思ったオレはすぐに聞いた。すると彼女は顔を青くしながらこう言ってきた。

「……お母さんとお父さんが殺されたという内容だった」

「……は?でも、それって本当のことじゃない――」

「ボクの両親は目の前で殺されたんだ。本当だよ」

 オレの言葉をいのりは遮る。その言葉は衝撃的なもので。

「……え?」

 目の前で、殺された?両親を?

「……その時の出来事がゲームになっているんだよ。悪趣味にもほどがある」

「えっと……それ、初めて聞いたんだけど」

 ちひろが言うと、いのりは「あれ?そうだっけ?」と首を傾げた。

「まぁ……皆には確かに話してなかったかも。でも、あんまり聞いてほしくないことだから……話さないといけない時になったら、その時聞いてほしい」

 そう告げるいのりはどこか苦しそうだった。それも、違和感を覚える程。

 ――彼女に渡されたゲームに、何が映っていたのだろう?

 でも、聞いちゃいけない。きっと、今のオレ達が知ってはいけないことだ。直感的にそう思った。

「それより、こっちのレトロゲームの方はする?」

 いつもの顔に戻ったいのりはミミックが設置したゲームを指差して聞いた。オレ達は揃って首を横に振った。

「じゃあ、もう行こうか。ボク、早くゲームのバグをどうにかしないといけないし」

 ホッとした笑顔を見せ、いのりはさっさと歩き出した。なんか、今日のいのりの様子、おかしいような……。

「……………………」

 そんないのりの背中を、ゆきとは少し複雑そうな表情を浮かべながら見送っていた。



 二つ目の動機が発表されて一日が経った。急にけんじろうがこう言ってきた。

「なぁ、今日女子会するらしいぜ。一緒に行かねぇか?」

 ……それは一体どこから仕入れてきた情報なんだ。

「何回も言ってるが、俺はお前らと馴れあうつもりはない」

 しろうはそう告げてさっさと行ってしまう。

「ボクもいいかな。そういうの興味ないし」

 ゆきとは笑いながら断った。

「僕は、その……恥ずかしいから行きたくない、かな。それに、用事があるし」

 たくみは顔を赤くしながら言った。

「あ、りょうま。お前は強制な」

「何でだ⁉」

 なんでオレだけ強制的なんだよ⁉オレにも選択権ぐらい与えろ!

「だって、俺一人だけじゃ気まずいし……」

「そもそも女子会に行こうとするなよ」

 オレは正論を言ったつもりだが、けんじろうは「だって男のロマンだろ!」と必死に訴えた。そんなこと言ってもな……。



 昼の三時過ぎ、結局けんじろうに無理やり連れてこられて女子が来るであろうホテルのロビーに待機することになった。

「なんでオレまで……」

 正直、来たくなかったんだが……。

 すると、まずちひろがやって来た。

「あれ?確か女子会だったハズだけど……なんで二人がいるの?」

 そりゃ、そんな反応になるよな。

「えっと……オレはけんじろうに誘われて……」

 なんでちひろと話しているだけでこんなに緊張しているんだろうか?どうしてか顔も熱くなっていく。

「ヒューヒュー、青春だな」

 そんなオレを見て、けんじろうはからかい出す。青春って、そんなわけないだろ。

「あ、男子が二人も来ちゃったんだ」

 次はひとみが来た。そういえば二人共水泳バックを持っているけど、海で泳ぐ予定だったのだろうか?

「すまない、私が最後だったようだな」

 最後にひみこが水着姿で現れた。なぜか濡れているけど、どうしたんだろう?

「いのりさんとゆかりさんは来れないらしいから、これで全員だね。それから、りょうま君とけんじろう君だけど……」

「えっと……二人に帰ってもらうのも申し訳ないから一緒に参加してもらえばいいんじゃないかな」

 ちひろの言葉にひとみは「それもそうだね」と頷いた。なんか知らないけど、許可されたみたいだ。

「ありがとうございます!じゃあ俺はジュースを持ってくるぜ!」

けんじろうはサラッとオレを置いて行ってしまった。

「あ、おい!待てよ!」

 さすがに一人でこの空間にいるのは気まずすぎる。オレも後を追いかけようとすると、あの放送が流れた。

『死体が発見されました。一定時間後、学級裁判を開きます』

 オレ達は顔を見合わせ、すぐに現場に向かった。



 ビーチハウスには既にいのりとゆきと、ウサコ、それから腰を抜かしているけんじろうの姿があった。いのりはいつも首元から覗いている包帯を巻いてなく、右手の手袋もつけていなかった。髪も少し濡れている。

「深夜君以外は来たね」

 いのりが右手に手袋をはめながら、周りを見渡して言った。そんな彼女の後ろには、頭から血を流しているゆかりとたくみ。

「頭の傷以外にどこも怪我はないから、致命傷はそれだろうね」

 ゆきとが二人の遺体を調べて、そう告げた。二人共、よく冷静でいられるな……。普通、けんじろうみたいになるもんだろ。

「おやおや、優秀な人材が二人もいるからファイルはいらないかな?」

 そんな中、いつものようにミミックが現れた。途端、いのりは冷めた目を向けた。

「そんなこと言っている暇があるなら、早く渡してどこかに行ってくれないかな?」

「もーう!いのりさんは相変わらずつれないね」

 な、なんか、前より辛辣じゃないか?オレの気のせいじゃないよな?

「ほら、ファイルだよ。でも、きみは何となく分かってるんじゃないの?」

 ミミックがいのりに渡しながら意味深に告げた。いのりはそれに黙ったまま受け取った。それを見てミミックはニヤニヤ笑いながら消えてしまった。何だったんだ、一体。

「……ねぇ、松本君。ここは藤下さんに任せてボク達はあのゲームをやってみない?もしかしたら何か分かるかも」

 ゆきとの言葉にオレは頷いた。それで、オレ達はいのりに一声告げた。

「なぁ、いのり。ここ、お前に任せていいか?」

「うん、いいよ。ついでに守川さんも連れて行ったら?あのゲームをやりに行くんでしょう?ボクは後で分かったことを伝えるからさ」

 さすが、何でもお見通しだな……。その言葉に甘えて、オレとゆきとはちひろにも声を掛けた。

「なぁ、ちひろ。お前もオレ達と一緒に来ないか?」

「うん。ほら、ミミックが置いたあのレトロゲーム。あれをやろうと思ってさ。何か手掛かりがあるかもしれないし」

「そういうことなら、別に構わないよ。ミミックが作ったというのが気がかりだけど」

 ちひろも頷き、オレ達は広場に向かった。



 レトロゲームの画面には「希望の学園 女子高生殺人事件」と出ていた。ちひろがイスに座り、早速それをやり始めた。

 数分後、画面には「GAME OVER ……にかいうえ……」と出てきた。

「これは……隠しコマンドかな?」

 ちひろがそう言う。隠しコマンドって……。

「ほら、「にかいうえ」って出てるでしょ?これは上ボタンを二回押すんだよ。多分、裏ステージにいくんだろうね」

「あ、うん。それは分かったんだけどさ。表ステージはどんな内容だったの?」

 ゆきとがちひろに聞いた。すると彼女は少し言葉を詰まらせた後、

「まず、舞台は朝木ヶ丘学園だね。それで、殺人事件って出てるぐらいだから人が死んでいるんだけど……そのシーン自体は出てこなくて、翌日に新聞に載っているって内容だったよ。登場人物は今のところ被害者含め五人だったね。裏ステージがあるからまだ増える可能性はあるけど。だから、多分裏ステージでその殺人事件の内容が分かるんじゃないかな」

 ということは、四人で話しているところなのか。というより、殺人事件ってタイトルにあるのになんで表ステージに殺人事件がないんだよ。

「じゃあ、私は続きをやるね」

 ちひろは慣れた手つきで裏ステージを進めていく。さすがゲーマーだな。

「あ、まだやってたんだね」

 手持ち無沙汰になった丁度その時、いのりがこっちにやって来た。何か分かったことがあったのだろうか。その予想は当たっていたらしい。

「とりあえず、ある程度分かったから伝えに来たんだ。まず致命傷だけど、二人共頭部を固いもので一発ずつ殴られていたらしいんだ。一発ってことは、恐らく即死だろうね。だから、相当強い力で殴られたと思うよ。それから、凶器と思われる金属バットがシャワールームに置いてあった。血がついていたからほぼ確実だと思う。あと、シャワールームは使った跡があった。多分、血を洗い流したんだと思う。……一応、分かったことはそれぐらいかな」

「こっちも終わったよ」

 いのりの報告が終わったと同時にちひろからも声がかかる。本当に早いな。

「えっと、内容としては表ステージの前日だったね。教室から何か割れた音がして、現場に向かったら女子高生が教室で殺されてたって話だったよ。それから、表ステージのその後の話もあったね。実は女子高生を殺した犯人はあの四人の中の一人で、写真部の一人が教室の割られた花瓶をカメラに撮っていたんだ。それで、その子は犯人である女子生徒を呼び出して、その写真を見せたんだ。でも、犯人の女子生徒はその写真を破ってごみ捨て場に捨てたんだ。つまり、証拠隠滅をしたんだよね。でも、それはある男子生徒に見つかったんだ。その人は殺された女子生徒のお兄さんで、殺した女子生徒に金属バットを使って復讐したって話だった。それで、エンドロールが流れたんだけど……その中に「しろきり ゆかり」と「もりき たくみ」って名前があったんだ。それから「しんや しろう」って名前もね」

「……………………」

 ちひろの報告にいのりは黙りこんだ。そして、ぼそりと呟いた。

「……もしかして、あの事件のこと……?」

「藤下さん、あの事件って?」

 ゆきとも聞こえてきたらしい、いのりにそう聞いた。すると彼女は「あ、ううん。何でもないよ」と笑った。それはどこか誤魔化しているようにも見えて……。

「それより、ボク、もう一つ行きたいところがあるんだよね」

 オレからも聞こうとすると、それを遮るようにいのりはそう言ってきた。なんでそんなに何かを隠そうとしているんだ?

「……行きたいところって?」

 おかしいと思いつつもオレは尋ねる。いのりは「深夜君や白霧さん、それから森木君のコテージだよ」と答えた。なんでしろうやゆかり、たくみのコテージに?

「多分だけど、彼はこのゲームをしているだろうからね。もしかしたら何か持っているのかもしれないと思って。彼のコテージになくっても白霧さんか森木君のところにはあるかもしれないし」

「そのとーり!さすがいのりさん、すごいね!」

 いのりがオレの質問に答えるとどこからかミミックが出てきた。本当に神出鬼没だな。

「きみの洞察力を称して、いいことを教えるね。クリア特典はもう彼に渡しちゃったよ。それをどう使うかは彼の自由だからね、いいところに目をつけたと思うよ」

 それだけ言って、ミミックはどこかに消えてしまった。何だったんだ?一体……。

「と、いうわけだから行こうか」

 ニコニコしながらそう言って、いのりは歩き出した。それがどこか恐ろしくて。

「ちょ、ちょっと待って。なんで深夜君がこのゲームをしてるって分かったの?」

 ゆきとの言葉にいのりは歩き出していた足を止める。そして、

「……別に。何となくだよ」

 と、こちらを見ることなく、彼女にしては珍しくぶっきらぼうに答える。しかし、これまた珍しくゆきとは食い下がった。

「聞きたいのはそれだけじゃない。キミは二日目に「深夜君は人を殺しそうだよね」って言ってたよね?さっきの台詞と言い、キミは何か知っているんじゃない?」

「…………」

 いのりは黙った後、「……ほんと、勘がいいよね、キミは」と紡いだ。そして、オレ達の方を見て告げた。

「何か知っていたら、何なの?キミ達には関係ないよね?」

 その瞳は、まるで忌むべきものを見ているようなものだった。急変した彼女の態度にオレとちひろは戸惑うしか出来なかった。

「……キミは……」

 ゆきとがまた何かを言おうとしたけど、いのりはそれには構わずそのまま歩き出してしまった。まるで、これ以上関わるなとでも言いたげに……。

(何があったんだ……?)

 あの変貌ぶりは明らかにおかしい。絶対に何か知っている。もしくは、ミミックから聞かされている。

 でも、彼女にそれ以上を聞くのはなぜか憚れて。オレ達はただ彼女について行くしか出来なかった。



 着いた先は宣言通りしろうのコテージの前だった。

「……どうする?深夜君のコテージの中に入る?ボク一人で入った方がいい?」

 いのりの言葉にオレは首を横に振った。

「ここまで来たのに、今更入らないって選択肢ないよ」

 ゆきとがオレのかわりに答えた。ちひろもその言葉に頷く。

「……まぁ、希望好きのキミがこんな状況なのに放っておけるわけないもんね」

 いのりはそんなことを呟いて、「おーい!ミミックー!」と大声を出した。するとどこからかミミックが現れた。

「はいはい何でしょう?」

「捜査に必要だから皆のコテージを開けてくれない?それが無理なら深夜君に白霧さん、それから森田君のコテージだけでいいんだけど」

 笑顔で頼むいのり。さっきまでの別人のような態度が嘘のようだ。ミミックはため息をついた後、

「全く、いのりさんってば扱いが荒いんだから……まぁ、別に構わないよ。皆のコテージを開ければいいんだよね?でも、出来るだけ関係ない人のところは入らないようにね」

 いつの間にミミックを飼い慣らしたんだ?確か、この二人、仲は良くなかったよな?いや、まずミミックは人なのか?

 いろいろツッコみたいことはあるが、とにかく開けてくれるということなので今は置いておくことにする。

 しろうの部屋に入ると、いのりは早速物色を始めた。

「……ねぇ、藤下さん」

 そんな中、ゆきとがいのりに声を掛ける。どうしたんだろうか?

「ボク、今思い出したんだけど、行きたいところがあるんだよね」

「あぁ、別にいいよ。ここはボクに任せて」

「私も残るから、りょうま君も一緒に行って来たら?」

 行きたい場所?ここ以外に何かあるのだろうか。というか、今回、ゆきとの様子もおかしいような……。

「ほら、松本君。許可ももらったし一緒に行こう」

 ゆきとに促されて、オレは思わず頷いてしまう。それを見て、彼はオレを引きずっていった。



 向かった先はいのりのコテージ。ここに何かあるのだろうか。

「ここも……ミミックが開けてくれたみたいだね」

「ちょ、ちょっと……なんでここを調べるんだ?」

 オレの言葉に耳を貸さず、ゆきとは勝手にいのりのコテージに入っていった。オレも彼に続く。勝手に入ってすまん、いのり……。

 いのりのコテージの中は綺麗だった。前は散らかっているから無理だって断られた記憶があるんだが。

「ほら、松本君。なんか、違和感があるでしょ?」

 ゆきとに言われ、オレは周囲を見渡す。ノートパソコンが数台にフィクションでありそうな大きな画面にキーボード……プログラマーらしい部屋だが、違和感……?そこでオレはあることに気付く。

「あ……監視カメラがない……」

「そう、ここだけは監視されていないんだよ」

 その言葉にオレの頭は真っ白になる。

 じゃあ、いのりは、本当は黒幕側……?

 いや、そんなわけがない。だって、いのりはいつもオレ達を導いてくれて……。

 ――お前らの中に裏切り者が潜んでいます!

 ミミックの言葉を思い出す。あれが本当だったとしたら。仮にいのりが黒幕側だったとして、今までのことは全て演技だったのか?

 とにかく、何が真実なのか調べようと電源の入っていないキーボードに手を伸ばすと、

「二人共、ボクのコテージで何してるの?ここには何もないと思うけど」

 後ろから声をかけられてオレは思わず肩を震わせる。いのり達の方はもう少し時間がかかると思っていたからだ。

「……何?ボクを疑っているの?」

 低い声で問われ、オレは口ごもってしまう。ついさっき、彼女を黒幕側なのではないかと疑ってしまったからだ。

「……まぁ、こんな状況じゃ、疑いたくなるもの無理はないけど」

 しかし、彼女は特に怒るわけでもなくそう言った。これだけを見ると、どうしても敵だとは思えない。

 でも、ここに監視カメラがないことも揺るぎない事実だ。少なくとも、ウサコやミミックとは何かしらの関わりがあるハズ。

「何を考えているか分からないけど、とりあえず分かったことを話していくよ。まず、ミミックが言っていたクリア特典のことだけどあれは白霧さんのところにあったね。その中身は、女子高生が殺されてる写真だった。深夜君に似ているから、多分彼の妹さんじゃないかな?それから、男の子の字で「広場のゲームをやってみろ。そうすればお前らが妹に何をしたのか分かるだろう」って書かれた紙きれもあった。お前らっていうのは白霧さんと森木君のことじゃないかな?他の二人はボク達に関係ない人だったし」

「あれ?藤下さん、あのゲームやったの?」

 いのりの言葉に矛盾を感じたのかゆきとが問いかける。すると、いのりは「うん。キミ達がやる前にね」と何でもないように告げた。

「じゃあ、お前はゆかりやたくみが殺される前には既にあのゲームの内容を知っていたのか?」

 オレが問いただすと、いのりは頷いた。これでますます分からなくなった。本当に、いのりはオレ達の味方なのか?

「じゃあ、教えてくれたらよかったのに……」

 ちひろはのんびりとした声を発した。そうか、ちひろはこの部屋をちゃんと見ていないから違和感に気付いていないのか。でも、ここで言ったら下手をすれば――。

 ――殺される。

「…………まぁ、言わない方が身のためかなって」

 少し間があって、いのりは答えた。それはちひろに言っているというより、オレに対して言われているようだった。

 これ以上追及するなと。

 いのりは一体何を隠しているんだ?

『学級裁判を開きます。至急、広場に集まってください』

 考えるより先に放送が流れた。命懸けの遊戯へ誘う声が――。

「さぁ、行こうか」

 いのりの声にオレ達は頷き、歩き出した。

「…………キミ達は、真実に気付くことが出来るかな?」

 一瞬だけ、悲しそうないのりの横顔を見たような気がした。



 広場に集まったオレ達は前回と同じようにエレベーターに乗って学級裁判場に来た。そこにはこれまた前回と同じくミミックと吊るされたウサコの姿があった。

「それでは、学級裁判を始めます!」

 ミミックの声にまず先に口を開いたのはひみこだった。

「恐らくあのレトロゲームが動機になっているんだろうが、私みたいにやっていない人もいる。簡単に説明してくれ」

「あぁ、それなら……」

 彼女の言葉にちひろはゲームの内容を話し始めた。説明が終わると、しろうがキッといのりを睨んだ。

「じゃあ、あのゲームをやった奴が怪しいじゃねえかよ」

 その理論だと、思い当たる人が二人いる。いのりもそれは思ったらしい。

「確かに、ボクは気になったあのゲームをしたけど……でも、それを言うならキミもだよね?深夜君」

 そう、この二人が一番怪しい。だけど……。

「……なぁ、いのり」

「うん?なに?」

 呼ばれたいのりは首をかしげ、次の言葉を待っていた。オレは思い切って気になることを聞いてみることにした。

「まさか、お前が犯人じゃないよな?」

「……どうして、そう思ったの?」

 彼女はすぐに否定するでもなく、理由を聞いてきた。

「お前、今日なんか様子がおかしいだろ?それに、髪の毛が濡れている……。確か、お前はシャワーには使われた跡があるって言ってたよな?」

 そう、彼女は確かにそう言っていた。するといのりは少し黙った後、

「……そうだね。でも、残念ながら犯人はボクじゃないよ」

「じゃあ、なんでお前は髪が濡れてんだよ!」

 しろうが声を荒げた。でも、それに臆する様子もなく彼女は答えた。

「ボクは丁度その時お風呂に入っていたんだ。嘘だと思うなら、ミミックとウサコちゃんに聞いてみたらいいよ。二人共証人だからね」

 いのりがウサコの方を見ると、

「はい、殺人が起きたとされる時間帯には確かにいのりちゃんはお風呂に入っていましたので、ビーチハウスには行っていませんよ」

 ウサコが頷く。犯人じゃないならいいけど、そうなると彼女に対して疑問が一つ残る。

「お風呂に入ってたって……皆と一緒に入ればいいんじゃ……?」

 ゆきとがオレのかわりに聞いた。するといのりは言いづらそうに答えた。

「あ、うん……。まぁ、それが出来たら、よかったんだけど……」

「?なんか事情があるの?」

「……………………」

 沈黙。いのりの表情は何か悩んでいるようだった。

「そういや、現場に集まった時左手だけ手袋をしていたよな?それと関係があるのか?」

「……はぁ。本当はあんまり見せたくないけど」

 オレが聞くと彼女はため息をつき、左手の手袋を外した。

 ――それは、いのりの腕ではなかった。いや、女性のもの、ということはあっているのだが、確実に本人のものではない。少なくともいのりは黒いマニキュアなんて塗らない。だって、右手は何も塗っていなかった。

「え?え?……どういうこと?」

 ちひろが戸惑った声を出す。

「……左腕は、お母さんのものだよ。ボク、左腕がなくなったんだ」

 対するいのりは感情のない声でそう言った。

 さらに上着を左肩だけ脱ぎ、シャツの袖を捲る。そこにあったのは――。

 肩から左腕を繋げたような手術の痕。

「ほら、これを見れば分かるでしょ?皆と一緒にお風呂に入りたがらない理由がさ」

 ――手袋も外せないから探索しか出来ないんだけど。

 初日にそんなことを言っていたことを思い出す。あれは、こういうことだったのか。

「それで、何か反論があるの?」

 服装を戻しながら、いのりは聞いてきた。するとしろうが彼女を睨みながら叫んだ。

「あるに決まっているだろ!ぬいぐるみ共が嘘をついてないとも限らねぇだろ!」

 今回のしろうはなぜか食い下がる。なんでだろうか?

「なんでここまで証拠が出てるのに、キミはそこまで食い下がるの?もしかして、犯人を知ってるとか?」

「くっ……!」

 ゆきとが尋ねると、彼は言葉を詰まらせた。その反応だと、知っていますと言っているようなものだ。

「……はぁ。じゃあ、早く終わらせようか。ね?菊田さん」

 不意にゆきとがひみこを名指しした。

「なんでそこで私の名前が出てくる?私はあのゲームをしていないが」

ひみこが彼に尋ねた。するとゆきとは「簡単だよ」と答えた。

「だって、藤下さん以外に髪の毛が濡れていた人なんて君しかいないんだよ」

 そういえば、確かにひみこはホテルのロビーに来た時髪の毛が濡れていた。

 でも、彼女はゲームをしていない。だから動機なんてないハズだ。

「よく分からないって顔してるね、松本君」

 いのりがオレの表情を見て言った。そして、

「別の考え方をしたらいいんだよ。実行した人は彼女だけど、首謀者は別の人だって」

 首謀者は別の人……?それはもしかして……。

「首謀者は、しろう、なのか?」

 殺人が起きる前にあのゲームをしていたのは、いのりとしろうだけ。それで、いのりが犯人ではないのなら、必然的に彼になってしまう。

「確か、エンドロールの中には深夜君の名前もあったよね。ゲームの中では妹が殺されたんだ。……動機とすれば十分じゃないかな」

「なっ……!た、たかがゲームごときで二人も殺そうだなんて思わねぇよ!」

 しろうがゆきとの言葉を否定すると、いのりが頷いた。

「うん。キミの性格上、すぐには殺せないだろうと思っているよ。だから、確認しようとして二人を呼び出したんだよね?で、それが事実だったらキミが自らの手で殺そうと思ったんでしょ?……でも、予想外のことが起こった」

 その予想外って……。

「教えてくれるかな?キミ達の関係性をさ」

 彼女の言葉に彼は睨みつけたが、ひみこは諦めたのかぽつぽつと話し始めた。

「……私としろう様はいわゆる主従関係なんだ。しろう様に何かあれば、私がどんなことでもする。今回はそれが人殺しだったというだけだ」

 告げられたその言葉にオレ達は呆然とした。ただ一人、いのりを除いて。

「お前は、気付いていたのか?全てを」

「うん。だってボクは――」

 ひみこの言葉に何か言おうとしたいのりだったけど、

「はーい!もう結論は出たよね?じゃあ、投票を開始してくださーい!」

 ミミックの声に遮られてしまった。オレ達は言われるまま投票を開始する。結果は、ひみこが選ばれた。

「正解です!今回の犯人はひみこさんでした!」

「申し訳ございません、しろう様。最後までご一緒出来なくて」

 ひみこがしろうに頭を下げた。彼は泣いていた。

「なんで、だよ……。俺が、あいつらを殺すハズだったのに……!」

 その言葉はまるで、後悔しているようだった。彼女を失いたくないという思いが伝わってくる。

「……ねぇ、ミミック」

 そんな中、いのりは奴に話しかけた。

「この学級裁判、やり直せないかな?」

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