表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/7

二章 動機と絶望のはじまり

 殺人なんて起きるハズない。

 だけどやっぱり不安でゆっくり眠ることが出来なかった。

 朝日が窓から差し込んでオレは重たい瞼を開いた。見覚えのない天井にここが自分のコテージなのだと思い出す。

「……もう、朝か」

 寝た心地がしない。ベッドから上半身だけ起こした。そして、何もない部屋を見渡して、どこもおかしいところがないことを確認する。……まぁ、監視カメラや朝木ヶ丘学園の校章が映っているだけのテレビがある時点でおかしいのだけど。

「まぁ、自分の意志でしゃべって動くぬいぐるみがいるぐらいだしな……」

 ここではそれが当たり前なのだろう。そう思い込ませて、オレは外に出た。

 コテージの外では、ゆきとが自分のコテージの前で立っていた。

「おはよう、ゆきと」

 オレが挨拶すると、ゆきとは「あぁ、松本君、おはよう」と返した。表情を見る限りだと彼はちゃんと眠れたみたいだ。

「お前、レストランに行かないのか?」

「あはは、そうしたいんだけどね。ボクみたいな幸運だけが取り柄の奴が希望の象徴である皆と一緒に食べるなんておこがましいからね」

 なんて、そんなことを言う。

「希望の象徴って言いすぎだよ。そう身を固くするなよ」

「言いすぎじゃないよ。事実だしね」

 まぁ、確かに朝木ヶ丘学園に入学出来た人はそう言われるらしいけど。それで言うなら彼も同じだ。しかも、オレは才能を思い出せていないわけだし。

「おはよう、二人共。何の話をしてるの?」

 オレがゆきとと話していると、後ろからいのりの声が聞こえてきた。後ろを向くと、目をこすっているいのりの姿があった。そういや、ゆきとといのりのコテージって隣同士だったよな。

「おはよう、藤下さん。眠そうだね」

「いのり、おはよう。寝不足か?」

 オレ達が揃って似たような言葉を発すると、彼女は「あはは……」と笑った。

「ちょっとね……。でも大丈夫だよ。いつものことだし」

 いつものことって……やっぱり日常的にゲームとか作ってるんだろうか?高校生としては不規則な生活だな……。女なら美容とかそういうの気にするものじゃないのか?

「あんまり無理しないようにね?キミ、女の子なんだから」

「ありがとう、花筏君。でも心配しなくていいよ」

 心配しなくていいって、そういうわけにもいかないだろ。

「それよりレストランに行かないか?皆、もういるかもしれないし」

 オレがそう言うと、二人は頷いた。ゆきともなんだかんだ言ってオレ達と一緒に過ごしたいみたいだ。そのことに少し笑い、オレ達は揃ってレストランに向かった。



 レストランに着くと、しろうとけんじろう以外の人は揃っていたけど……皆、表情がすっごく暗かった。

「……な、なんか、お葬式ムードだね」

 いのりの言う通りだ。でも、こうなる気持ちも分かる。オレの場合、いのりやゆきとのおかげで何とかなってるけど……。

「あ、りょうま君にゆきと君にいのりさん。来たんだね」

 入口に立っていると、ちひろが声を掛けてくれた。オレ達は彼女が座っているところに行き、座る。

「ちひろ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「うーん……昨日はゲームしていてあんまり寝てない、かな」

 ゲームしていてって……さすがゲーマーだな。いや、いのりもだったけど。

「えっと……守川さんってどんなゲームをしてるの?」

 いのりがちひろに聞いた。ちひろは「うーん……」と考えた後、

「最近はアクション系が多いかなー。一応、オールジャンルでいけるけど」

 そう答えた。オールジャンルでいけるって、すごいな。オレは推理系とか苦手だぞ。

 すると、けんじろうがビクビクしながらやって来た。

「あ、けんじろう。おは――」

「ぎゃあぁああああ!」

 オレが挨拶しようとしたけど、彼の悲鳴でかき消されてしまった。

「き、気安く話しかけてくるな!お前らの中に裏切り者がいるんだろ⁉」

 その言葉にこの場の雰囲気がさらに悪くなる。そういや、ミミックがそんな話をしていたな。まぁ、本当のわけがないだろうけど……。そう言おうとすると、奴が現れた。

「そうだよ。お前らの中に裏切り者がいるんだよ」

 その姿を見た瞬間、けんじろうは泡を吹いて倒れた。……こいつ、確かバスケ部だよな?よくその精神力で耐えていけたな。

「今度は何の用?出来たら視界から失せてほしんだけど」

 そんな中、いのりがミミックに冷たく言い放った。なんか、手厳しいな……。

「まぁまぁ、そんなこと言わない。それより、お前らがちっとも殺し合いを始めてくれないから、皆飽きちゃってるよ」

「皆って?」

「だから、動機を準備しました!」

 ちひろの言葉を無視して、ミミックは話を進める。

「お前ら、ここに来るまでの記憶がなくなっちゃってるよね?それどころか曖昧なところも多いよね?それは、ウサコが学園生活の記憶を奪っちゃったからなんだ!だから本当は、お前らは新入生じゃないんだよ。本当は入学して何年経ってるんだろうね?」

 その言葉に衝撃が走った。記憶を、奪われた?そんなの、嘘に決まってる……。でも、自分のことなのになぜか自信がない。

「だから、交換条件として殺し合いが始まったらお前らに奪われた全ての記憶を返したいと思います!」

「な、何言ってるんですか!そんなことさせませんよ!」

 ミミックが言い切ると同時にウサコが現れ、二匹はどこかに行ってしまった。でも、オレ達はそんなことを気にする余裕がなかった。

 オレ達は、本当は新入生じゃない?それは本当なのか?

「記憶を奪われているなんて嘘に決まってるよ……そんなことで殺し合いなんて、起きるわけない」

 ゆきとは独り言のように呟いた。いのりはまた何かを考えているらしく黙ったままだし、ちひろも何も言わない。

「……殺し合いなんて起こさせない」

 沈黙の中、そう言ったのはかずやだ。彼はオレ達に向かって宣言した。

「僕がいる限り、誰一人として死なせないぞ」

「そう、だね。誰一人として、死んだりしない……」

 彼の言葉を復唱するいのりは、少し悲しそうだった。

 ――何があったんだろうか?

 気になるけど、聞けなかった。聞いてしまえば、後戻り出来ない気がして……。



 朝食も取り、オレ達はそれぞれ自由に過ごすことになった。結局しろうは来なかったけど、どうしたんだろうか?だけど、関わるなといった雰囲気だったしな……。

「あれ?松本君、どうしたの?」

 することもなく広場を歩いていると、ゆきとに話しかけられた。隣にはいのりとちひろもいる。

「オレはただ歩いてるだけだ。お前達は何の話をしてるんだ?」

 オレが聞くと、ちひろが「ゲームの話だよ」と言った。

「ほら、いのりさんってプログラマーでしょ?だから最近どんなゲームを作ったのかなって思ってさ」

「最近は推理ゲームを作ったね。ボクも初めて作ったジャンルだから誰かにやってほしいけど……」

 いのりが作った推理ゲームか……。

「なぁ、それって出来るのか?」

 オレが聞くと、いのりは「もちろんだよ」と笑った。

「あ、でもボクのコテージの中、ちょっと散らかってるから今は無理かな……」

 そうか、なんか残念だな。こういう時だからこそ、なんかやって気分転換したいところなんだけど……。

「え、えっと……松本君のコテージに行っていいなら別に出来るよ?」

 不満が顔に出ていたのか、いのりが慌ててそう言った。

「じゃあ、今すぐ行こうよ!」

「うん。ボクも藤下さんのゲームやってみたいな」

 オレの意見を聞くことなくちひろとゆきとが話を進めてしまう。まぁ、オレもやってみたいと思っていたから別に構わないけど。

「じゃあ、ボクはノートパソコンを持ってくるから先に松本君のコテージに行っててくれるかな?」

 その言葉にオレ達は頷いた。それを見てからいのりは自分のコテージに向かった。

「じゃあ、オレ達も行くか」

 そう言って、オレ達もオレのコテージに歩いて行った。



「面白いよ!高校生が作ったとは思えない!」

 数分後、いのりが作った推理ゲームを早速やっているちひろが興奮気味に告げた。それにいのりは少し苦笑いを浮かべた。

「あ、あはは……それぐらい普通だよ」

「いや、普通じゃないだろ。これで普通だったら作れないオレ達はどうなるんだよ」

 いや、天才級のプログラマーなら確かに普通なのかもしれないけど。少なくともオレ達素人にはここまで巧妙に作ることなど不可能だ。それ程、物語も凝っているしグラフィックもよく作られている。物語制作に対しては漫画家であるかすみといい勝負になるんじゃないか?

「人物の絵柄も可愛いし。ねぇ、これって何かモデルがあるの?」

 それにしても、ここまで興奮しているちひろなんて見たことがない。いや、会ってそこまで経っていないから当たり前なんだけど。

 ――もし記憶を奪われているというのが本当だとしたら別だけどな。

 でも少なくとも、今のオレからすれば初めてだ。

「モデルは一応あるよ。それを自分なりにアレンジしてみたって感じかな」

 いのりがちひろの問いかけに答える。これってモデルがあるのか……今度何をモデルにしたのか聞いてみよう。

「ねぇ、他にゲームはないの?」

 ゆきとがいのりに聞く。すると彼女は「まだあるにはあるよ」と答えた。

「それも持ってこようか?ノートパソコンはまだあるし」

「何台あるんだよ……ノートパソコン」

「少なくとも五台はあるよ。同時進行で制作を進めたりするからね」

 さすがプログラマー。やることが違う。睡眠不足になるのも頷ける。いや、身体によくないけど。

「じゃあ、持ってくるね。花筏君もついてきてくれるかな?ボク、左腕に力があんまり入らないから、一台が限界なんだよね」

 そう言っていのりはゆきとを連れて自分のコテージに取りに行った。数分後、ノートパソコンを抱えたいのりとゆきとが戻ってきた。ちなみに、いのりは一台、ゆきとは二台抱えている。

「ほら、これだよ」

 ゆきとから一台、ノートパソコンを受け取ったオレは早速電源を入れた。オレの方は脱出ゲームのようだ。

 オレがゲームをやっていると、ふと視線を感じてそっちを見る。オレをじっと見ていたのはいのりだった。

「どうした?」

「あ、いや。松本君ってボクが作った推理ゲームの主人公によく似てるなと思ってさ」

 言われてみれば確かに、ちひろがやっている推理ゲームの主人公は黒い髪に若葉色の瞳、服装もカッターシャツに青色のネクタイ、黒いズボンとオレによく似ている。偶然とはいえ、なんだか自分がモデルになったみたいだ。

「自分がモデルって、いいよね」

 ちひろが目をキラキラさせながら言ってきた。いや、だからこれは偶然なんだけど。

 気が紛れるからか、オレ達は昼食までいのりの作ったゲームをやっていた。



 昼食を摂ろうとオレ達がレストランに行くと、しろうの姿があった。

「あ、しろう。今まで何やってたんだ?」

 オレが聞くと、彼はバン!と机を叩いた。それに揃ってビクッとなる。

「うるせぇ!お前らと馴れあう気はねぇんだよ!」

 そう言い捨てて、しろうはレストランから飛び出してしまった。何だったんだ、一体。

「うーん……深夜君、なんか、殺人を犯しそうな雰囲気だよね……」

「ちょっ、ちょっと藤下さん。そんなこと言わないでよ」

 縁起でもないことを言ういのりにゆきとがとんでもないといった表情をする。だけど、彼女は至って真面目に答えた。

「分からないよ?だってヤグザだもん、殺人を考えていたっておかしくないよ。それに……」

 そこで言葉を止めた。他の人達が来たからだ。皆、いまだに暗い表情だ。

「とりあえず座ろうか」

 いのりの言葉にオレ達は頷き、近くの机に座った。それにしてもいのり、さっきの言葉は一体どういう意図で言ったんだろう?でも、皆がいる前で聞く訳にはいかなかった。

 その夜、オレはいのりにあの言葉の意味を聞こうと話しかけたが、「別に何でもないよ」と笑うだけだった。その、悲しそうな表情が頭の隅に残った。



 次の日、オレがレストランに行くとそこには――変わり果てたかずやとかすみの姿。

「うわぁああああああ!」

 それを見た途端、オレは室内に響く程大きな悲鳴を上げた。

その時、放送が流れた。

『死体が発見されました。一定時間後、学級裁判を開きます。至急、広場まで集まってください』

 そのアナウンスとオレの悲鳴に全員が食堂に集まった。そして、二人の姿を見てオレと同じように悲鳴を上げる人、泡を吹いて倒れる人などいろいろな反応をしていた。

 目がくらんだ。まさか、たった一晩で殺人が起きるとは思っていなかったのだ。しかも、二人も。

「りょうま君……」

「松本君、さっきの放送……」

 そんな中、オレに話しかけてきたのはちひろとゆきとだった。二人共、戸惑った表情を浮かべている。当然だ、いきなり二人も殺されたんだから。

 戸惑いながらもオレ達は広場に向かった。するとそこにはミミックがウサコを縛った状態で現れた。

「集まったね!それじゃあこれ、お前らに渡すよ。ぼくが素人のお前らのかわりにある程度まとめておいたんだ」

 いのりに渡されたのは何かのファイル。それを見た途端、いのりの表情が険しいものに変わった。

「あんた、もしかして……殺人が起きた時も見ていたの?」

 その質問にミミックは「うん、そうだよ?」と笑顔を浮かべながら答えた。

「……狂ってる」

 いのりは小さく呟いて、でも何も知らないことには始まらないと思ったのかそれを開く。オレも覗き込むようにして見た。

 被害者は岡本 かずやと山崎 かすみ。死亡推定時刻は午前十二時。

殺害現場はレストラン。複数回刺されたことが死亡原因と思われる。

 簡単にだけど、何となく分かった。いつの間にかミミック達もいなくなっていた。

「……とりあえず、捜査しようか」

 いのりに言われ、オレは頷いた。そして全員でレストランに向かった。



 レストランに着くと、いのりはまず二人の遺体の前に座り込んだ。

「……血の付いたナイフが落ちてる。でも、これが凶器とは限らない、かな?」

 彼女の言う通り、近くにナイフが落ちていた。これで刺されたんだろうか?

「あ、あの。私、検死しようか?」

 ひとみがそう申し出た。いのりは「お願い出来るかな」と頼み、ひとまず厨房を見ることにしたようだ。オレもついて行く。

 厨房には包丁やフォーク、鉄串があった。何か減っているということはなさそうだ。

「……もしボクがゲームを作るなら」

 不意にいのりが言葉を発した。

「あそこにあるナイフはフェイクにして、ここにある凶器で殺したというシナリオにする」

 その言葉がどういう意味をさしていたのか、その時は分からなかった。

 ひとみの検死によると、凶器は僅か五ミリ程度の幅の長いものだそうだ。二人共それを背中から何度も刺されたという。

なぜ二人が殺されないといけなかったのだろうか。犯人は二人を殺してまで、記憶を取り戻したかった?

「じゃあ、次は倉庫に行こうか」

 いつの間にいたのか、ゆきとが後ろから話しかけてきた。オレといのりは頷き、三人で倉庫に向かった。

 倉庫に行くと、そこには血の付いたテーブルクロスと二枚の紙があった。

「これは……」

 この血は被害にあった二人だろうけど、なんでそれがここに?

 それから、紙にはそれぞれ二人の名前と「今日の夜、レストランに来てほしい」と書かれていた。これは、犯人が二人に送ったものだろうか?

「……二人は、約束を破るような人ではなかったからね」

 いのりがそう呟いた。なんでそんなことを知っているのだろうか?でも、なんか重要そうだし覚えておこう……。

 他にも現場にあったナイフはここから持ち出されたようだ。同じようなものがたくさんある。でも、それだけでは誰が犯人なのか分からない。

「他の人に聞いてみた方がいいかもね」

 いのりがそう言った途端、再び放送が流れた。

『学級裁判を開きます。至急、広場に集まってください』

 もう始まってしまうのか……。皆の命をかけた学級裁判が――。

「始まってしまうなら仕方ないね。学級裁判の時に詳しいことを聞こう」

 そう言い残して、いのりは先に行ってしまう。オレとゆきともその後を追った。



 広場に着くと、そこには銅像がなくなっていて、かわりにエレベーターが現れていた。

「皆来たね!じゃあ、学級裁判場に行くよ!」

 ほら乗って!とミミックがオレ達を急かす。エレベーターに乗った後も、皆無言だった。

 エレベーターの扉が開くと、そこはまさに学級裁判場といった雰囲気の場所だった。そしてウサコは赤い王座のようなイスの近くに吊るされていた。

「ほ、解いてください!」

 ウサコがミミックに訴えるが、それが聞かれることはなく。

「ほら、自分の名前が書かれているところに行って!」

 ミミックに言われるままオレ達は自分の名前が書かれた場所に行った。

 席は二つ空いていた。きっと、かずやとかすみの席だったのだろう。

「それでは、学級裁判を開廷します」

 ミミックの言葉を合図に、口を開いたのはいのりだった。

「えっと……確か、背中から刺されたんだよね」

 その言葉にひとみは頷く。それはオレも聞いたから知っている。

「背中から……ってことは、犯人は背後から二人を刺したってこと?」

「うん。そうなるね」

「でも、それだと気になることがあるんだよね」

 はなきの言葉にちひろは頷いた。すると、ゆきとが疑問を投げかけた。

「一人だけならともかく、二人共背後から殺すなんてどうやってしたんだろうね」

 そんなこと聞かれても、分かるわけがない。

「……ねぇ、とりあえず誰が犯人の可能性が高いか絞らない?」

「そうだな。このままじゃ埒が明かない」

 ゆかりの言葉にオレは同意した。あれだけの情報ではさすがにどうしようも出来ない。

「じゃあさ、夕食の後、レストランに行った人はいる?」

 たくみの質問にいのりとゆきと、けんじろうが手を挙げた。

「ボクは喉が渇いたから水を飲みに行って……その時はまだ岡本君と山崎さんは残っていたよ」

「ボクはちょっと忘れ物をして……それを取りに行ったんだよね」

「俺はいのりと同じ理由だ。ついでに、アリバイならあるぜ」

 前からいのり、ゆきと、けんじろうだ。とりあえず、アリバイがあるというけんじろうから話を聞いた方がいいだろう。

「けんじろう、アリバイって?」

「それは私が見ていた。確か、九時ぐらいだったと思う。すぐ戻ってきたから、二人も殺すなんて出来ないハズだ」

 オレの質問にひみこが答えた。なるほど、見られていたんだな。じゃあ、彼は嘘をついていないということになる。

「いのりはいつレストランに行ったんだ?」

「ボクはゲームのバグを潰していて、さっきも言った通り喉が渇いたからレストランに行ったんだよ。それが、確か十一時ぐらいかな?」

 十一時……二人が殺されたのは十二時だから彼女も外れるのか。でも、彼女は誰かに見られているわけじゃないから、嘘をついているかもしれないし……。

「ゆきと、お前は?」

「ボクは十一時半に行ったんだよね。寝る直前に忘れ物を思い出すなんて、ツイてないよ」

 ……こいつ、幸運だったよな?レストランに忘れ物するなんて、しかも寝る直前に気付いたって、本当にツイてないな……。

 じゃあ、この中で怪しいのはいのりとゆきとってわけか……。でも、この二人が人殺しなんてしないだろうし。

「ねぇ、自殺という線はないの?」

 ひとみがそう言ってきた。それを否定したのはいのりだった。

「それは違うと思う。だって、二人共背中から刺されてたんだよ?そりゃあ、どちらか一人だけならその線も考えられたけど……」

 ということは、やっぱり誰かが殺したということか……。じゃあ、誰なんだ?

「……ねぇ、松本君。先入観を捨てたらどうかな?」

 不意にいのりがそんなことを言ってきた。先入観を、捨てる?どういうことだろうか?

「この中で怪しいのは誰?もしかしたら意外な人が犯人なのかもよ?」

 いのりの言葉にオレは考える。今までの情報で一番怪しいのは……。

「ゆきと、もしかして、お前、なのか……?」

 オレが指名すると、ゆきとは一瞬黙った後、狂ったような笑い声をあげた。

「……あ、あはは……きゃははは!そうだよ!あのナイフを準備したのはボクなんだ!絶望を踏み越えた先の皆の希望が見たくてね!」

 その瞳はまさに狂人そのものだった。すると今まで黙っていたしろうが怒りをあらわにした。

「お前が二人を殺したのか⁉」

「ほら、もう決まったでしょう?早く投票を始めなよ!ボクを絶望的なまでに殺してよ!」

「はーい!それでは投票タイムといきましょうか!」

 ゆきとの言葉にミミックは嬉しそうにそう宣言した。オレ達はゆきとに票を入れようとする。しかし、

「待って!皆!ミミックもその投票を一時中断して!」

 いのりが声をあげた。票を入れようとした手は止まり、皆彼女の方を見た。それを見てから、彼女は言葉を紡いだ。

「いいところに着目したけど、花筏君は犯人じゃないと思うよ」

「あれ?ボクを庇ってくれるの?」

 ゆきとがそう言うけど、いのりは気にすることなく続ける。

「松本君、ボクは厨房を見に行った時、キミになんて言ったかな?」

 厨房に行った時にいのりが言った言葉って……。

「確か、ゲームを作るならあのナイフはフェイクにして、厨房内にある凶器で殺したというシナリオにする……だったよな?」

 それがどうしたというのだろう?すると、いのりは質問を重ねた。

「そう。じゃあ、凶器はどれぐらいのものだった?」

「確か、五ミリ程度の……あっ」

 そういうことか。つまり……。

「あのナイフは凶器ではないということか」

「つまり、藤下さんはこう言いたいんだね。あのナイフが凶器ではない以上、ボクがクロの可能性は低いって」

 ゆきとの言葉に、彼女は頷く。その行動にゆきとは笑みを深めた。

「そう!その通りだよ!ボクはあのナイフを取り出しただけなんだ。どうやら死因まではごまかせなかったみたいだね」

「な、なんだよ!紛らわしいな!」

 本当にその通りだ。いや、なんで取り出したのかという疑問は残るけど……。つまり共犯者ということか?

 すると、いのりが信じられないような言葉を放った。

「……ねぇ、花筏君。キミは誰を庇っているの?最初に二人の遺体を見たのはキミなんでしょう?あのナイフを準備したのもキミじゃない、そうでしょ?キミはレストランに行った時に、犯人を見たんじゃないの?」

 ……は?それってつまり、ゆきとは犯人を知っているってことか?

「違うなら反論してほしい。ボクも、ただ憶測でしか語っていないから」

「……ふ、ふふふ、あはは!」

 いのりの言葉にゆきとは再び笑い出す。

「その通りだよ!なんでキミはそこまで分かるのかなぁ?」

 ゆきとのその疑問にいのりは逆に質問した。

「注意事項の内容を思い出して。どんな条件で死体発見アナウンスは流れるんだっけ?」

「二人以上死体を見つけたら……だったっけ?」

 ゆきとが答えると、「そうだよ」といのりは言った。

「キミは偶然現場に居合わせた。そう考えると朝、遺体を発見したのが松本君だけなのにアナウンスが流れたのも頷けるんだ。だって、既に一人それを見つけていたんだからね」

「でも、それだと本当にボクが犯人かもしれないよ?」

 彼のその言葉に、

「違うよ」

 いのりは断言する。

「キミは犯人じゃない。だって、あのアナウンスが流れる条件は犯人以外の二人が見つけることなんだ。それに、凶器は……あぁ、凶器はまだ分かってないんだったね」

「凶器って……五ミリ程度ってなると、鉄串なんじゃないか?」

 オレが聞くと、彼女は「その通りだよ」と答える。

「そして、二人共背後から刺されている……。それは二人が誰かと話していたからだと思うんだ。そこまで言ったら、分かるかな?」

 つまり、二人と話している人と犯人とで……。

「少なくとも、被害に遭った二人の他に後二人が食堂にいたということだね」

 ちひろが言うと、いのりは頷いた。

「そうだね。そして本当の犯人は厨房にいた人間のハズだよ。そうだよね?野口 はなき君」

 いのりが指名すると、はなきは「はぁ⁉」と声をあげた。

「な、なんで僕なんだよ!」

「レストランの厨房に入っていたのは「天才級の料理人」であるキミしかいないんだ。当然、厨房に鉄串があるなんてキミ以外が知っているわけない。……そう言えばいいの?」

 確かに、厨房を出入りしていたのは彼だけだ。そう考えればこの事件が見えてくる。

 つまり、十一時半にゆきとが忘れ物を取りにレストランに行って、まだ残っていた二人と話していた。そしてどういった経緯か分からないけど、後ろから鉄串でゆきと以外の二人を刺したというわけか。

「ま、まだ僕が犯人って決まったわけじゃないでしょ!」

 はなきが反論する。するといのりは彼に「じゃあ、昨日はどこに行ってたの?」と聞いた。

「えっ……」

「昨日、十二時過ぎぐらいに慌ててコテージに戻っていたよね。それってどうして?」

 十二時過ぎって……犯行時間と大体同じだ。なんでその時間のことを知っているんだろう?……いや、多分ゲームのバグ潰しで起きていたんだろう。さっきそう言っていたし。

「ど、どうしてって……そうそう!水を飲みに行ってたんだ!」

「ふーん……。じゃあ、言い方を変えようかな。なんでキミは花筏君が行く前にレストランに行ったの?教えてくれるかな?」

「そ、それは……」

 はなきが言いどよんでいると、彼女は指を顎に当てた。

「……ねぇ、キミはさ。二人を誘導していたんじゃないの?」

 いのりの言葉にはなきは言葉を詰まらせた。

「へぇ、どうやって?」

 かわりにゆきとが彼女に聞く。いのりは「手紙だよ」と答えた。

「見たでしょ?二人の名前と一緒に「レストランに来てほしい」って。二人の性格を利用したんじゃないかな。二人共約束を破る人ではなかったしね」

 確かに、かずやは真面目で皆を守ろうとしていたし、かすみも真面目な女子だったらしい。かすみの方は彼女から聞いたんだけど。

「あれには何時とか書いていなかった。でも二人は約束を破らないようにずっと「誰か」を待っていたんじゃないかな?自分が狙われているとも知らずに……」

「で、でも、もし仮に僕が犯人だとしても返り血はどうするんだよ!さすがに洗えないでしょ!」

 いや、返り血は防げたハズだ。だって……。

「テーブルクロスを使ったんだよ。倉庫には血の付いたテーブルクロスがあった。多分、倉庫に身を潜めていたんだろうね」

「ぐっ……」

 再び言葉を詰まらせる彼をいのりは追い詰めていく。

「それから、凶器の鉄串だけど……あれは洗って元の場所に戻したんじゃないかな。そして、倉庫にあったナイフに血を付けて現場に置けばいい。……まさか、花筏君がそこにいたとは思っていなかっただろうけど」

 そういや、なんでゆきとは殺されなかったんだろうか?答えはいのりが言った。

「多分、花筏君は脅されていたんじゃないかな?命が惜しければ自分が犯人だということにしろって感じで」

 いのりの言葉にゆきとはため息をついた。

「……はぁ。本当に、なんでキミは分かるのかな?」

 そう言うってことは、本当に脅されていたのだろう。ゆきとが脅されたぐらいで怯むような奴ではないから、もしかしたら面白そうと思ってやったことかもしれないけど。

「でも、皆の希望を見たいっていうのは本当だよ」

 ……当の本人はニコニコしながら意味不明なことを言っている。でも、彼が生き残れたのは幸運という才能のおかげかもしれない。そう考えたら本当に運がいい。

「……ねぇ、キミは自分のせいで二人が死んだと思ってるの?だから、自分が身代わりになろうと?」

 不意にいのりがゆきとにそう聞いた。それに、彼は言葉を詰まらせる。どういう意味だろうか。彼女は、何かを知っている?しかし、いのりに聞く前に、

「だ、だって……記憶を奪われたって聞いて……どうしても、お母さん達がどうなってるか知りたかったんだ……でも、ゆきと君に見られて……だけど彼まで殺す勇気はなくて……」

 と、観念したのか、はなきは自白した。でも、ただこの島を出たいだけなら……。

「なんで二人も殺したの?」

 ちひろが聞くと、彼は目を強くつぶって、

「そ、それは……」

 と何かを言おうとした途端、

「はーい!議論が終わったんだよね。じゃあ、投票を開始してください。言っておくけど、必ず誰かに入れてね。こんなことで殺されたくないでしょう」

 ミミックの非情な言葉が響いた。それにいのりは舌打ちをするけど、逆らうわけにもいかないのか渋々従う。

 投票の結果、はなきが選ばれた。

「正解だよ。いやぁ、いのりさんはすごいね!彼女によく似てるよ」

 どういう意味だろう?いのりは黙ったままミミックを睨んでいた。でも、そんな彼女に動じるような奴ではなく。

「それでは、はなき君の処刑を開始します」

「ま、待って!せめて教えて……お母さん達はどうなったの?殺し合いが始まったら記憶を返してくれるんでしょう?」

 はなきの質問にミミックは歪んだ笑みを浮かべた。

「あぁ、そういえばそんな約束していたね。でもさ、すぐに返すとは言ってないよね?」

「な、なんだよそれ!」

「では始めましょう!」

 オレの言葉に耳を貸さず、ミミックは赤いボタンを押した。すると「天才級の料理人 野口 はなき 処刑執行」という映像が流れだした。

 はなきは無理やりどこかに連れていかれた。すると映像が変わって、「三分クッキング 改」という文字が流れた後、はなきは厨房に似たところにいた。そして、どこからともなく煙がモクモクと出てきて――。

 数分後には、はなきはその場に倒れていた。

「……………………」

 全員、その光景に目を止めたまま。しかし、そんな中ゆきとは声を発した。

「……絶望的だね。でも、大丈夫。皆は希望の象徴なんだから、絶対に乗り越えていける」

「きみも面白いことを言うよね。ほんと、言動はいのりさんや彼女に似てる」

 その言葉にミミックはそんなことを告げた。ミミックの言う「彼女」とは誰のことだろう?オレ達の知っている人だろうか?

「じゃ、お前らは殺し合い修学旅行を続けてくださーい」

「そ、そんなこと、このウサコが絶対にさせませんよ!これ以上犠牲者は出させません!」

 今まで黙っていたウサコがそう言った。でも、縛られてるのにどうやって犠牲者を出さないというのだろう。するといのりが無言でウサコを解放した。行動が早い。

 なんて、今はそんなことどうでもいい。一気に三人も失って、オレ達はかなりショックを受けていた。

「……ボクは、諦めない。希望が、ある限り……」

 いのりのその小さな呟きは誰の耳にも届かなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ