一章 ようこそ!殺し合い修学旅行へ
――意識が浮かび上がってくる。深い眠りから目覚めた感覚だ。
「……ねぇ、聞こえる?」
誰かの声が聞こえてくる。ゆっくり目を開くと、眩しい日差しと共に灰色かがった白い髪に青色の瞳の青年がオレの顔を覗き込んでいるのが見えた。
「ねぇ、大丈夫?」
もう一人の少し高い声が聞こえてきて、そこで初めてオレは気を失っていたことを知った。
「ほら、手、貸してあげるからとりあえず起きなよ」
目の前の青年が言葉通り手を差し出す。オレはその手を握り、上半身だけ起き上がらせた。隣にはもう一人、白い髪に少し赤が強い紫色の小柄な男の子がいた。
周りを見ると、そこは砂浜だった。海があって、ヤシの実があって……まさに南国と言った雰囲気の場所だ。
……南国?……………………。
はぁああああああ⁉
叫びそうになるのを何とか思いとどまる。なんでこんな異常事態なのに目の前の男と男の子はそんなに冷静なんだ?
オレは必死に、気を失うまでの記憶を手繰り寄せた。
……そうだ。オレは確か朝木ヶ丘学園の正門をくぐって、学園の中に入ったんだよな。で、それから……。駄目だ!何も思い出せない。
「キミ、ずっと気を失っていたよね。本当に大丈夫?」
男の子が心配そうにオレの顔を覗く。彼は白い服に青色のハーフパンツ、それから緑色のフード付きの裾がビリビリに破けているコートに手袋を着けている。花の髪飾りをつけている髪も肩より少し上ぐらいまでしか長さがない。白い肌がインドア派なのだと教えてくれる。首から包帯がのぞかせているけど、何があったんだろう?
青年の方は青い模様付きのシャツに黒い長ズボン、それから黒いフード付きのコートを着ていた。彼も男にしては肌が白かった。二人共、暑くないんだろうか。
「ねぇ、それよりさ、自己紹介しようよ。ボク達、初めて会ったんだしさ」
青年がそう言うと、男の子の方が「そうだね」と答えた。確かに、互いの名前も知らないんじゃあ話にならない。
「えっと、ここにいるってことはキミも朝木ヶ丘学園の新入生なんだよね?ボクは花筏 ゆきと。「天才級の幸運」なんだ」
天才級の幸運って……確か年に一度、一般的な中学生から抽選で選ばれた一人が「幸運児」として高等部に入学することが出来るんだったっけ?噂で聞いたことがあったけど、本当にあったんだな……。
今度は男の子の方が手を振りながら名乗った。
「よろしく、ボクは藤下 いのり。「天才級のプログラマー」だよ」
「プログラマーか。男の子らしい才能だな」
オレも人並み程度にはゲームとか好きだから、自分でゲームを作れるなんてなんだか羨ましい。すると、いのりは苦笑いを浮かべた。
「……えっと……ボク、一応女なんだけど」
「えっ!あ、すまん!ボクって言ってるからてっきり……」
「あはは。しょうがないよ、ボク、胸小さいし、顔も中性的だからね。よく間違えられるんだ」
本人の言う通り、彼……いや、彼女は顔が中性的だ。少なくとも、小柄な男の子と勘違いするぐらいには。でも、確かに男なら普通タイツ?なんて履いていないよな。花の髪飾りもつけているハズない。なんか、それで男と間違えるなんてさすがに申し訳ない。本人は全く気にしていないみたいだけど。
「それより、キミの名前は?」
「あ、あぁ。オレは松本 りょうま。えっと……」
いのりに促され、自己紹介をしたオレは重大なことに気付く。
――自分の才能が何だったか思い出せないということに。
「……もしかして、思い出せないの?」
ゆきとの言葉にオレは頷く。いのりは何かを考えた後、
「多分、混乱していて上手く思い出せないんだよ。落ち着いたらきっと思い出せるよ」
そう言って微笑んだ。するとゆきとが話しかけてきた。
「とりあえず、他の人達にも自己紹介をしていかない?ボク達も他の人には会っていないんだよね」
確かに、その方がいいだろう。ここがどこかも分からないし、何がどうなっているのか知らないといけない。もしかしたらこの場所について知っている人もいるかもしれないし。
オレは立ち上がる。そして三人で歩き出した。
「そういえば、どこかしこに監視カメラがあるな」
周囲を見渡しながらオレは言った。文字通り監視されているのだろうか?オレのその疑問に、いのりは言葉を選んでいるのか黙った後、
「もしかしたら、皆に危険がないように見張っているのかもしれないよ?まぁ、ボク達をここに連れてきた人がどんな目的で設置しているのか分からないから推測でしかないけど」
なるほど、そんな考えもあるのか。……だけど、もしそうだとしてもなんだか落ち着かない。多分、常に監視されていると感じるからだろう。
そうして歩いていくと、広場に着いた。そこには何かの像と、十人の人がいた。彼らも新入生なのだろうか?
「遅いぞ」
オレ達を責めたのはいかにも学級委員長と言った雰囲気の男性だった。
「まぁまぁ、そんなに怒らないでよ。それより、自己紹介してほしいな」
ゆきとは全く悪びれる様子もなくそう言った。何というか……さすがだな。別の意味で。
すると「遅いぞ」と言った黒髪に黒目の男性は納得いっていないような顔をしたが、
「……ふん、まぁいい。今は緊急事態、それどころではないからな。
僕は岡本 かずや。「天才級の風紀委員」だ」
そう言って自己紹介をした。風紀委員……確かに彼は責任感が強く真面目そうだ。
彼に続いて皆が自己紹介を始める。
「俺は石森 けんじろう。「天才級のバスケ部」だ」
そう言ったのは青い髪に藍色の瞳の男子。
「あたしは白霧 ゆかり。「天才級の写真部」よ」
かずや程ではないが真面目そうな赤い髪に赤い瞳の女性だ。
「……俺は深夜 しろう。「天才級のヤグザ」だ」
関わるなという雰囲気を出しているのは頭を坊主にしている金色の瞳の男性。
「私は菊田 ひみこ。「天才級の剣道部」だ」
クールな雰囲気の、水色の髪に青色の瞳の女性だ。
「僕は森木 たくみ。「天才級の飼育委員」だよ」
穏やかな雰囲気のオレンジ色の髪に灰色の瞳の男性。
「私は川野 ひとみ。「天才級の看護学科」よ」
優しそうな雰囲気の桜色の髪に赤い瞳の女性。……保健委員じゃないんだ。
「私は山崎 かすみ。「天才級の漫画家」だよ」
これまた真面目そうな雰囲気の、草木のような緑色の髪に黄緑色の瞳の女性。
「僕は野口 はなき。「天才級の料理人」だ」
いかにも料理人といった雰囲気の黒髪に茶色の瞳の男性。
「私は守川 ちひろ……「天才級のゲーマー」でーす……」
今にも眠りそうな雰囲気の白髪に青い瞳の女性。
……というか、ヤグザだったり幸運だったりゲーマーだったり、いろいろありだな……朝木ヶ丘学園。
「ボクは花筏 ゆきと。「天才級の幸運」だよ」
「ボクは藤下 いのり。「天才級のプログラマー」だよ」
「オレは松本 りょうま。えっと……どんな才能だったか思い出せないんだ」
オレ達も皆に名前を言う。うーん……どうやら才能を忘れているのはオレだけのようだ。
「えっと……ここがどこか分かる人はいる?」
ゆきとが聞くと、皆がシーンと静かになった。……まぁ、そりゃあそうだよな。分かることと言えば、ここが南国だということぐらいだ。
するといのりが小さく手を挙げた。
「……えっと、一応、心当たりがあるよ」
「えっ!分かるのか?」
オレが聞くと、いのりは頷いた。
「うん。多分だけど、ここって南の観光地として有名な二つの島からなる「コースティアス島」なんじゃないかな?」
コースティアス島……そんなところがあったんだな。オレは旅行とか行かないから全く知らなかった。
「でも、そうだとすると少しおかしいところがあるんだよね……」
「おかしいところ?」
「ほら、さっきも言った通りコースティアス島って観光地なんだよ。だけどここにあるのは変な銅像とスーパーマーケット、レストラン付きホテル、シャワー付きのビーチハウス、それからコテージぐらいしか目立つものはないよね」
そういえばそうだ。まだ島を回っていないから分からないけど、ここが観光地だというならもっと目立つものがあってもいいハズだ。それなのに広場から見えるものはその五つだけ。正確にはコテージは見た感じ結構あるけど、それだけだ。
「みなさん、集まりましたね」
するとどこからか少女漫画に出てくるような杖を持った白いウサギのぬいぐるみが現れた。そのことに皆が動揺する。
「な、なんだ⁉」
「ぬ、ぬいぐるみがしゃべってる!」
「ど、どうなってるんだ⁉」
そんな中、一人だけちっとも動揺せず冷静な人がいた。
「えっと……とりあえず名乗ってくれないかな」
そう、いのりだ。彼女は皆のかわりにそう言った。白ウサギはその言葉に「あぁ、そうでしたね」と頷いた。
「わたしはウサコと言います。みなさんの修学旅行の引率の先生なんですよ」
……すまん、全く意味が分からない。
このぬいぐるみが、引率の先生?修学旅行の?いやいや、絶対におかしいだろ。一体どんな悪夢だ?修学旅行って、オレ達はまださっき来たばっかの新入生なんだぞ?そもそも朝木ヶ丘学園は?
「つまり、ボク達をここに連れてきたのはキミってことでいいのかな?」
ゆきとが確認するように尋ねた。するとウサコと名乗ったぬいぐるみは意味深なことを言った。
「そうとも言えますし、違うとも言えます」
どういう意味だ?なんか気になるな。だけどオレが聞く前に、
「えっと……それじゃあ、ボク達は何をしたらいいの?修学旅行っていうなら何か目的があるんでしょう?」
再びいのりが聞いた。質問するタイミングを逃したけど……まぁいいか。
「はい、もちろんです!みなさんにはこれから仲良くなるまでワクワク修学旅行をしてもらいます。あ、みなさんはただ、お互いの星の欠片を集めてくださるだけで結構です」
「星の欠片って、もしかして……これのこと?」
いのりがコートのポケットから取り出したのは電子手帳。そういえばポケットに違和感があるんだよな……もしかしてそれか?
いのりが電子手帳を開くと、まずは彼女の名前が表示される。そして、選択画面になった。そこから彼女は「通信簿」と書かれたところを押した。するとそこにはオレ達の名前と顔写真、それから身長や才能、ちょっとした紹介などの情報に、名前の隣に何か星形の模様が五つあった。そしてその一つが埋められていた。
「松本君と花筏君が起きる前にちょっと見てみたんだけど、これってその人と親しくなれば更新される仕組みになってるよね。実際、皆と自己紹介をしたら皆の名前と一つ目の情報、それからこの星形の模様が一つ埋められていたもん」
一つ目って、それじゃあこのほかに情報が更新されていくのか。
「はい、その通りです。その星の欠片を集めきったらワクワク修学旅行は終わりです。それでは、修学旅行をじっくりと楽しんでください!」
ウサコはそれだけ言ってその場からいなくなった。じっくり楽しめって……皆、わけも分からないこの状況で楽しめるわけないだろ!
……と、思っていたんだが。
「よーし!楽しもうぜ!」
「私、海に来たの久しぶりなんだ!」
……皆、海に来て思い思いに遊んでいる。中にはスーパーから水着を持ってきている人もいた。いや、かずやにしろう、ゆきとといのりとちひろは遊びに行っていないけど。
「……俺は馴れあうつもりはない」
「こんな状況でよく遊べるな……」
それがしろうとかずやの言い分だ。
「ボクなんかが皆と遊ぶなんて……恐れ多いよ」
「ボクは水着なんて着れないからね……」
「眠い……」
前からゆきと、いのり、ちひろだ。多分、いのりが言っているのは首から包帯が覗いているのと関係あるんだろう。ゆきとはなんでそんなに自分を卑下するんだろうか。ちひろは、まぁ……起きろと言うしかない。
「……これって、オレがおかしいのか?」
皆を見てると、オレの方がおかしいんじゃないかって思えてくる。まぁ、でも……たまには羽目を外すのもいいかもな……。
「あのさ、花筏君。一緒に砂浜で遊ばない?」
「え?いいの?ボクなんかが「希望の象徴」であるキミと遊んでも」
「当たり前じゃん!……まぁ、遊ぶって言ってもボク、手袋も外せないから探索しか出来ないんだけど」
ゆきとといのりは一緒に過ごすみたいだ。
「なぁ、オレもいいか?」
オレが聞くと二人は笑った。
「もちろんだよ!どちらにしろ、星の欠片を集めないとここから出られないだろうし」
「守川さんも一緒にどう?」
ゆきとがちひろを誘う。するとちひろは「いいよぉ……」と寝ぼけた声を出した。このままでは立ったまま寝てしまうかもしれない。……いや立ったまま寝るってなんだ?自分で自分に突っ込んでしまう。
「えっと……寝るんだったらコテージに行ったらいいんじゃないかな。電子手帳の地図を見る限り、全員分あるみたいだし。それか、日陰のところに行く?」
見かねたのかいのりがそう言った。そういえば電子手帳があるんだったよな。後で見てみよう。
さんざん話し合った結果、オレ達四人はヤシの木の陰に身を寄せた。
「それにしても暑いね~」
「うん、そうだね」
いや、お前達二人はそのコートのせいだろ。そうツッコんだら駄目だろうか。
「ぐぅ……」
ちひろは寝るの早いな。いや、もともと眠たそうだったけど。
とりあえずオレは自分の電子手帳を開く。そしてまずはいのりの情報を見た。
藤下 いのり 身長百六十三センチ 体重四十一キロ 天才級のプログラマー
誕生日 五月五日
中性的な顔をしていて男と勘違いされることが多いが、女である。首から包帯が覗いているが、理由を知る者は少ない。
「……お前、体重軽すぎだろ」
オレがいのりに言うと、彼女は困ったような表情を浮かべる。
「いやぁ、だって……あんまりお腹すかないし」
「ゆきと、お前もだ」
ゆきとの情報はこうなっている。
花筏 ゆきと 身長百八十センチ 体重四十五キロ 天才級の幸運
誕生日 四月二十五日
穏やかで少し頼りないが、謙遜していて面倒見が良い。普段からコートを着ている。
「だって、ボクもあんまり食べないし」
……なんか、この二人似てるな。顔じゃなくて、性格とかが。
「そう言う松本君も似たようなものじゃん」
ゆきとが自分の電子手帳をオレに見せながら唇を尖らせる。
オレの情報はこうだ。
松本 りょうま 身長百七十八センチ 体重五十キロ 天才級の???
誕生日 一月十五日
混乱して才能が思い出せないようだ。彼にはどんな才能があるのか……。
えっと……どんな才能かは思い出さないと書かれないようだ。オレが落ち込んでいると、
「まぁ、ゆっくり思い出していこう、ね?」
ゆきとがオレを励ますように言った。それにいのりも頷く。なんだか二人には最初から励ましてもらっている気がする。オレがお礼を言おうとすると、突然放送が聞こえてきた。
『えー、皆さん。すぐに広場に戻ってください』
ウサコとは違う声だ。オレ達は顔を見合わせ、だけど逆らう訳にもいかず、ちひろを起こしてその指示に従った。
水着に着替えていた人もいたから、皆が集まるまで時間がある。その間にオレ達は「修学旅行にあたっての約束」と書かれた画面を押した。するとそれが映し出される。
一.過度な暴力は禁止します。
二.マナーはしっかり守ってください。また、監視カメラや連絡用スピーカーは壊さないようにしてください。
三.星の欠片を集めるのが目的です。皆と仲良くしましょう。
四.全員の星の欠片を集め終わったら修学旅行は終了します。
五.このほかにルールが追加されることがあります。
なんか、普通だな。いや、それでいいんだけど。
「それにしても、さっきの放送……何だったんだろうね」
ちひろが目をこすりながら聞いてくる。あ、それは聞いていたんだな。
「うーん……多分、レクリエーションでもするんじゃないかな?ウサコ、ボク達に仲良くなってほしいみたいだし」
ゆきとはそう言って笑った。だけど、いのりの表情が浮かない。
「……どうしたんだ?難しい顔をしているけど」
オレが聞くと、彼女は打って変わって笑顔で「あ、何でもないよ」と言った。何でもないならいいんだけど……様子がおかしい。なんかソワソワしてるし。
でも、オレが聞く前に皆が集まった。さっきからタイミングが悪いな……。
「ウサコ、私達に何させる気なんだろうね」
「でも、さっきの放送、なんかおかしくなかったか?」
全員があの放送に不振がっていた。すると今度はどこからか禍々しい黒ウサギのぬいぐるみが現れた。なんかここ、動くぬいぐるみが多くないか?
「やぁやぁ、お前ら。よく集まってくれたなぁ」
「こ、今度は黒ウサギ?」
皆が戸惑っていると、黒ウサギは威嚇のように腕をあげた。
「黒ウサギとはご挨拶だね。ぼくはミミック!」
「な、なんですか!なんでミミックがここに⁉」
今度はウサコが出てきた。もう訳が分からないんだけど。
「はぁ……ウサコもお前らもぬるいんだよ。何がワクワク修学旅行だ、そんなの誰も求めていないんだって」
いや、そんなこと言われても……皆と仲良くなるためにここに連れてこられたんだろう?するとウサコが杖を持ってオレ達を庇うように前に出た。
「みなさん、あいつは危ない奴です。今わたしがやっつけます!」
そう言って、ウサコは走り出した。しかし――。
「遅いよ」
なんと、ミミックが一瞬のうちにウサコの背後を取り、その杖を奪い取ったのだ。そして、それを無残にも折る。
「きゃあぁあああ!なんてことを……!」
ウサコが悲鳴を上げるが、ミミックはお構いなしだ。
「さて、邪魔な杖もなくなったし、本題に入ろうかな」
「本題、だって?」
今度はいのりが警戒するように前に出た。でも、そんなこと気にしていないのかミミックは宣言した。
「そうそう!「ワクワク修学旅行」なんて終わりだよ!今からお前達には殺し合い修学旅行を行ってもらいます!この島から出たければ誰かを殺して、学級裁判でばれないように潜り抜けてくださーい!」
「殺し合いだって?ふざけないでよ」
いのりが動けないオレ達のかわりに斬り捨てる。それにオレ達も同意する。
「そ、そうだ!誰が殺し合いなんてさせるものか!」
「全く……分かってないなぁ。そんなの分かんないよ?さっき会ったばっかなんだから、お互いの本性だって知らないんだし、殺人が平気な奴だっているかもしれないんだしね!」
殺人が平気な奴がいるって?この中に?そんなわけない!
「ふん。そんな言葉に騙されないぞ、僕達は」
かずやがミミックを指差して言った。ミミックは「そこまで言うなら、まぁいいけど」と言葉を続けた。
「そうそう、お前らの中に裏切り者が潜んでいます!そいつに殺される前に殺した方が身のためだと思うよ?あ、それとルールも追加したからちゃんと見といてね」
言うだけ言って、ミミックはウサコを引きずりながら甲高い笑い声と共に消えていった。オレ達はただ、呆然としているしか出来なかった。
最初に口を開いたのはやはりいのりだった。
「ねぇ。とりあえずさ……追加されたルールを見よう?」
そう言って、彼女は自分の電子手帳を開く。オレもそれに習って電子手帳を開いた。そして、追加されたルールを見る。そこには、
五.ミミックには手出ししないようにしましょう。基本的にミミックから手出しすることはしませんが、ルール違反をした場合は別です。
六.殺人が起きたら一定時間後、学級裁判を開きます。クロは自分が犯人だと知られないように証拠隠滅を、シロはクロを見つけるために情報を集めてください。なお、皆殺しは許しません。また、死体発見アナウンスは二人以上が死体を見つけた時に流れます。
七.学級裁判でクロが選ばれたらクロだけが処刑されますが、シロが選ばれたらクロ以外の全員が処刑され、クロだけがこの島から出ることが出来ます。ただし、例外として裏切り者が選ばれた場合、その裏切り者だけが処刑されます。
八.学級裁判は一回につき一度だけやり直しが出来ます。
九.学級裁判には必ず出てください。ただし、例外を除きます。
……と、学級裁判のことが追加されていた。学級裁判って、小説とか漫画とかゲームの中でしか見たことないぞ。あれだろ?確か……人殺しは誰かを見つけ出して、その人を処刑するっていう……それが、ここで起こってしまうのか?
「……絶対に、殺し合いなんてさせないから」
そう呟いたいのりの表情は決意を秘めたものだった。それが、どれ程重いものなのかその時のオレには考えてもいなかった。
気付けば空がオレンジ色に染まっていた。
その日は皆、それぞれ夕食を取って自分のコテージに戻ることにした。