失った家族、差し伸べられた手 1-2
★1-2
{検査室}
この日、三海医科大学人工ウイルスセンターの検査室には
いつもより一段と慌ただしい空気が漂っていた。
なぜならば、濱田人工ウイルステロ以来5年ぶりに、致死性の高い人工ウイルスが搬送された患者から検出されたからである。
「先生!柳原椿さんたちの血液から人工ウイルスの陽性反応がありました!」
検査技師の声を聞き、駆け付けた三海医科大学人工ウイルスセンターのセンター長の椎名理教授は検出された人工ウイルスの型を知ると言葉を失った。
「なんだ、これは…!
濱田人工ウイルステロで使われた『XYZ-9999』型ではないか!椿とさおりちゃん達が、このウイルスに…。なんてことだ…
このウイルスの抗ウイルス薬はまだ作られてないぞ!
あのテロでも何千人と死傷者が出て、濱田市は医療崩壊が起きたのに!」
このウイルスでの生存率は0.02パーセント…。
数字だけを見ると、あらゆるステージIVのガンよりも、
患者を救える確率は低いだろう……。
だが、椿も、さおりちゃんも、香菜ちゃんも、
俺にとっては、かけがえのない大切な人達だ……。
何としてでも、俺は椿達を救いたい!!!
神よ...俺に力をくれ...
≪???≫
目が覚めると、漣はベッドの上にいた。
腕には点滴がつながれている。
目の前には分厚く頑丈な鉄のドアが立ちはだかっている。
・・・ここは…病室?なんで?
漣は、病院に来た時以降の記憶を全て失ってしまっていた。
戸惑いと絶望と眠気が入り混じった感覚の中でいると、自分の隣に泣きじゃくっているおじさんがいるのに気付いた。
「椿...まだお前とバカやって、飲みに行ったりもしたかった。
お前がいないと酒が格段にまずくなるんだ...
さおりちゃん...俺と椿が喧嘩した時も、よくなだめてくれたなあ。さおりちゃんと椿が結婚した時はちょっと妬いたけど、とてもうれしかったよ。香菜ちゃん...香菜ちゃんはまだ小さかったけど、可愛くて、よく俺にも懐いてくれたよな。
何でだよ...神様...何でよりによって俺の...友達を...殺してくれたんだ...
椿...さおりちゃん...香菜ちゃん...俺達死ぬ気で頑張った...でも...ダメだったよ。ごめんな...本当にごめんな・・・」
嗚咽交じりで、そう言っているのが聞こえた。
おじさんの眼鏡のレンズには、涙が溜まっていた。
漣は、おじさんの言葉から、おじさんが誰であるかに気づいた。
三海医大の大学教授で、病理医の椎名先生だ。椎名先生は、漣の父親と母親の幼馴染兼親友だった人だ。住んでいる家も近く、
椎名教授の奥さんからおすそ分けをもらったり、正月やお盆を
一緒に過ごしたりすることもあった。
「椎名...先生?」
「漣君...大きくなったなぁ!漣君は無事だったのか...!
つらいよなぁ。一人だけ生き残るのは...」
漣と椎名教授は、泣き疲れ、眠りに落ちてしまった。
1-2おわり