第一章 失った家族 差し伸べられた手 1-1
第一章
失われた家族、
差し伸べられた手。
★1-1
鹿目県濱田市
公立鷹丸高校の科学部。
部員は今日も実験や解剖に励んでいる。
柳原漣は、科学部でアフリカツメガエルの生態研究班の
サブリーダーを務める2年生である。
漣は、水槽にいるアフリカツメガエルを一匹手に取り、ちいさなタッパーに移した。そして、狭い空間に入れられたアフリカツメガエルを見つめながら、つい物思いにふけっていた。
「お前も、狭い水槽なんかじゃなくて、きれいな川で泳ぎたかったよな…
人間の大人は『命を粗末にするな』だとかほざいてるけどさ、
一番命を粗末にしているのは、まごうことなく人間なんだよな…」
漣は、ハァと大きなため息をつくと、しばらくアフリカツメガエルが入ったタッパーを見つめていた。
「ねー、今日のニュース見た?」
「みたみた。高熱を出した子供が亡くなったんだって~。」
「かわいそうに…」
「それだけじゃなくって、亡くなった子供の体から例のブツが検出されたんだって!」
「まさか…手作りウイルス?」
「そうそう!」
「なにそれ~こわーい!」
「これは、感染症なんかじゃなくって、もはや殺人よね~。」
手作りウイルス? 感染症? 殺人?
漣は、思わず聞こえてくる会話に耳を奪われていた。
「な~に、ぼやっとしてんだよっ!やなれん!」
「うわぁ!なんだよ!白石!」
不意に背中を押され、漣は少しよろめいた。
「おまえ、20分間ずーっとカエル見ながらボケーっとしてたんだぞ。」
「話盛りすぎだろ。そんなぼーっとしてないぞ。」
「そんなことより、早くレポート仕上げないと、また部長に怒られるぞ!」
「やっべ!サンキュな、白石。」
そんな会話を、隣のIT班の白石としていると、大きな音を立てて、実験室の戸が開いた。
そこに立っていたのは、漣のクラスの担任の教師だった。
教師は青ざめて、息をゼェゼェと切らしている。
漣は不穏な空気を感じつつも、担任のもとへ歩み寄った。
「何かあったんですか?先生。」
「柳原君のお父さんとお母さんと妹さんが玄関先で倒れて救急車で運ばれたって!」
「なんだって・・・!」
嫌な予感がする……
「先生、どこの病院ですか?」
「三海医科大学病院よ。とにかく急いで!車を出すから。」
漣は言われるままに、担任の教師の車に乗った。
車に乗って10分後三海医科大学病院に着いた。
「父さん!母さん!香菜!」
漣の目の前を棺桶のような、カプセルのような金属製のストレッチャーが3つ通り過ぎて行った。
「今から感染症隔離病棟に移します。柳原さんのご家族の人が来られたら、面会謝絶の旨を伝えておいてください!」
ストレッチャーを運ぶ看護師の言葉から漣はすべてを悟った。
……嫌な予感が……的中してしまった……
目の前がどす黒い墨汁で塗りたくられた。
漣は歪む視界の中、そのまま倒れてしまった
~第一章 1-1 終わり~