狂科学者の試験当日
歴史の勉強をしていたら寝てしまった。
経験した人も少なくないのではないだろうか。
歴史というのは図や写真がないとどうにも退屈だ。
勿論この世界に挿絵のある本なんて上等な物、まず売ってない。
これは写真の概念も開拓しなければならないな。
まあ昨日の話はどうでも良い。
何せ今日は王立魔法学園の入学試験当日。
今日の結果が人生を左右することになる可能性が非常に高い行事だ。
俺含めて既に職に就いていたり、金を稼ぐ当てがあるやつがどうなのはか知らんがな。
既に試験会場となる学園の敷地は張り詰めた雰囲気が漂っている。
ユアも真面目な顔をしているし、相当な緊張なんだろう。
最終的に算術はほぼ出来るようになっていたし心配はないと思うが。
俺はとてもリラックスしている。
試験に落ちる気がしない上に落ちてもノーダメージ。
普通に父さんの後を継げるし、今ある収入でも十分余裕がある。
誘導係の後に付いていき、まずは二教科同時の筆記試験が二時間程。
小学生のドリルかよと突っ込みたくなるのをこらえ、粛々と解いていく。
歴史を先にやっつけても残り時間はまだ八割ある。
算術なんて十分も要らずに解いてしまった。
その間も周囲の奴等はノロノロと大真面目に頭を捻り指を折りながら問題を解いている。
その間暇なので数回見直してから問題用紙で魔法陣を落書きしながら時間を潰す。
「ペンを置けっ!」
試験監督の合図で皆がペンを置く。
ペンで書くためペン立てが各机に設置されているんだが、結構邪魔くさいな。
何人か青ざめた顔をしている奴もいたが......その状態で良く人生の掛かっている試験を受けようと思ったな。
試験監督が解答用紙を集めている間に俺達は誘導係に連れられて今度はグラウンドに。
そこには魔法練習用の的がおいてあった。
微かに魔力が見えるから対魔法処置をしてあるんだろう。
「次っ! 56番!」
試験監督の声で現実に戻る俺の思考。
おっと俺の番か。
不味いな。
考え事をしていてどの程度が標準なのか測り損ねた。
こんなことになるんだったら事前にユアの魔法を見ておくんだった。
仕方ない。
俺は瞬時に後続の魔力を使っていない連中の平均値と先の既に魔力を使った組の平均値の差を目視で算出、使用された大まかな魔力量を割り出す。
使う魔法は雷属性の初級編ハルトアレンジバージョン。
使用魔力量は程好く上位の成績になることを狙って少し多目に......
「『電破槍』」
ボソッと呟かれた呪文は超初歩的、しかしハルトの魔改造が加わった魔法陣を宙に展開、電子の暴力的な嵐を集束させる。
明確な理論の元で組み立てられ、極限まで無駄を省かれた詠唱は高効率の魔力変換効率を誇り、それに軽い気持ちで増量され、流された魔力はハルトの意思を反映する。
結果は、
ズパンッと轟音を立てて直撃する青白い閃光。
砕け散る間もなくプラズマ化して蒸発する的。
周囲に漂う焦げ臭い匂い。
ショックで思考とともに表情筋が停止した監督と受験生。
そして、
「......あ、加減ミスった。」
―――確かさっきまで的って壊れなかったよな―――
相変わらずやる気のない顔で、そう呟くハルトがそこにいた。
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