狂科学者は家庭教師。
「ハル君! お勉強しよっ!」
王都の学園生活へ向けた準備をあらかた終わらせ、一息ついていたハルトのもとにやって来たのはユアだった。
護衛に教材らしき本を持たせ、今日も元気一杯の声でそう叫ぶユアは街の中でとても目立つのでとっとと研究所の中に招き入れる。
「はあ......今日は何の用だ?」
「ハル君も学園に行くんでしょ? だから一緒にお勉強したいなって。ハル君はお勉強しないの?」
歴史の本を流し読みしたから問題ない。
適当に手を抜けば程よく合格できるだろ。
「ハル君あたま良いんだねっ!」
「そうだ。だから勉強はしない。」
帰ってくれたまえ。
俺は休むので忙しいのだ。
「じゃあ、お勉強教えてっ! 掛け算が分からないのっ!」
は?
十歳間近になって掛け算が分からないだと?
本当にこの世界の教育進度はどうなっているんだ?
「家庭教師はしっかり教えているのか?」
そう護衛の騎士に問い掛ければ、掛け算もしっかりと教えているのこと。
成る程。
単純にこいつがバカなだけか。
なら話は早い。
掛け算というのは頭の中でいかにイメージできるかが肝要だ。
適当に問題集でもつくって慣れさせれば出来るようになるだろ。
取り敢えずまずは九九の暗記できているかだな。
「1×1は?」
「1!」
「3×1は?」
「3!」
「じゃあ......」
という風に確認していく。
ふむ。九九は暗記しているのか。
となると分からないのは二桁以上の筆算だろうな。
つっても筆算なんてただの九九と足し算の組み合わせなんだがな......
そんなことを考えながらコンピューターでランダムに作らせた掛け算の問題集を紙に書き写し、ユアに手渡す。
「うげぇ......。」
公爵家の御令嬢にあるまじき反応。
「良いから黙って解け。こういうのは回数重ねれば勝手に身に付く。あと制限時間もつけておくから。」
そう言って近くの3Dディスプレイに砂時計を映し出す。
この世界に分なんて単位はないからな。
こっちの方がやり易かろう。
問題集と聞くとゆっくり解いてしまって飽きるが、テスト形式の時間制限ありにした場合集中しているからそれほど苦痛に感じないんだよな。
「はい、始め。」
こうして俺は不本意ながらユアの家庭教師もどきをやることになった。
誠に遺憾である。
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