狂科学者、石鹸を教える。
「パパ~」
「何だハルト?」
「今暇?」
「ああ、遊んでほしいのか?」
「ん~ん。これを試してほしいの。」
そう言って俺は紙に書いたメモを渡す。
この世界の紙は植物の繊維を大雑把にすいた和紙チックなやつだ。ごわっごわで書き心地は最悪だったぜ。
「......っ!?」
内容にざっと目を通した父、アランは肩を震わせてハルトに問いかけた。
「ハルト......お前はどこでこんな知識を手に入れたんだ? そしてこれを見せてパパになにしろと?」
内容は石鹸の簡単な作り方。
資材も人員も金も何もない無い無い尽くしの俺は、信頼と小遣いを手に入れるためにいろいろ持っている親へ地球の知識を少し与えることにしたのだ。ついでに商品の製造依頼も。
ただ鉱物らへんは話が面倒臭くなるので、油と灰汁を適当に混ぜたような粗悪品しか出回っていなくて、製造も比較的簡単な石鹸を採用したのだ。
「えへっ」
案の定問いかけられた俺はとりあえず可愛く笑って誤魔化してみるが、
「誤魔化してもだめだからな?」
まあそうだろうな。
「んっとね、なぜか知ってたの。だからパパにはこれでさらに商売を大きくしてねっていう知識提供をしに来たの。」
「知識提供......そんな言葉は教えたことないと思うんだが......。で、この知識は誰から聞いたわけでもないっていうのは本当か?」
「うん」
今世ではな。
「わかった。少し試してみる。ここに書いてあることが正しければ石鹸に革命が起こるぐらいすごいことだ。」
知識の出所については言っていないも同然なんだが......ちょろいな。
「うん、だけどお願いがあるの。」
「何だ?」
「この石鹸を作る途中に『すいさんかなとりうむ』っていう材料を作るでしょ?」
「そうみたいだな。」
「一応書いては置いたけど、それは絶対にガラスの容器の中で作ってガラスの容器内で使ってほしいの。あと絶対に手で触れないで。皮膚が溶けちゃうから。もちろん目もだめだよ。石鹸にした後は安全だけど。その他も注意書きはよく読んでおいてね?」
そういうと少し頬を引きつらせながら、
「あ、ああ。ありがとうな。気を付けさせるよ。」
「あと。」
「まだ何かあるのか?」
「えっとね、これが成功したらなんだけど、利益の十分の一は欲しいかなって......」
「......。」
どうやらびっくりさせすぎたようだ。目が点になってるぞ。
「えへ?」
「......確かにハルトは天才なのかもな。わかった。そこらへんはまた後で決めよう。」
と言ってそそくさとどっかに行ってしまった。
まあ、契約とかそこらへんは親バカだから信用できるだろ。
さっき渡した石鹸の作り方は割とどこでも手に入る素材を使った方法だ。
石鹸っていうのは油脂と水酸化物塩を混ぜると作れる。
その中でも今回選んだのは劇薬として有名な、水酸化ナトリウム。略して水ナトを使う方法だ。
別に水酸化カリウムとかでもよかったんだがそっちだと液体石鹸になるから携行性とかを考えると固体石鹸を作れる水酸化ナトリウムの方が売れるかなと採用してみた。
作り方の手順は、
1、貝殻や卵の殻を900度で焼いて炭酸カルシウムを作る。
2、炭酸カルシウムを800度超の高温で焼いて酸化カルシウムを作る。
3、酸化カルシウムを水に入れて水酸化カルシウム水溶液を作る。反応熱に注意。
4、海藻を焼いて出た灰を水に混ぜて炭酸ナトリウム水溶液を作る。
5、炭酸ナトリウムと水酸化カルシウムの水溶液を混ぜて水酸化ナトリウム水溶液を作る。
6、加熱しながら油とよく混ぜる。
7、高濃度の食塩水を加えて浮いてきた塊を掬う。
8、掬った塊を型にはめて乾燥させる。
って感じだ。材料費などの研究要素はあれど、たった8工程でそこそこの品質が作れてしまう。
問題があるとすれば手順4で水を使って抽出できる炭酸ナトリウムの量は少し少ないので魔法錬金術系統への進出が重要になってくるかもしれないってことぐらいだ。
ふふふ、これまでぬくぬくと蔓延っていた粗悪品共、駆逐してくれる。
資金源を見つけたので笑いが止まらないハルトであった。