狂科学者の襲撃者。
真夜中の零時。
誰もが寝静まっったある晩、月明かりに照らされて数十名の人影が移動している。
皆フードを深く被っており、顔は見えない。
とある建物に近づき、互いに頷きあって手を翻し呪文を唱える。
皆バラバラだが火属性で統一されているようだ。
詠唱が終われば、大小様様な火の球や槍、火炎放射機のような広範囲の炎が出現。
辺りを照らしながら目標までまっすぐ放たれる。
普通の家屋であれば数十秒で燃え尽くすその熱量は対象となった建物も無慈悲に焼き尽くすものと思われた。
だが、
「「「「「「......っ!?」」」」」
驚愕する不審者一同。
キィィィィンと音を立てて全ての魔法はかき消されたのだった。
「......結界だ。俺がやる。」
この結界を破ろうと一人が前に出て、詠唱を開始する。
「火よ、青く燃え盛り、壁を穿て。」
出現する真っ青な炎の槍は、多大な熱量と光を撒き散らしながら結界へと突撃した。
結界は蒼炎の槍とともに消え去り、無防備な建物だけが晒される。
「今だっ!!」
好機とばかりに再度殺到する火属性魔法の数々。
だがそれらは突然放たれた数十本もの光線に易々と撃ち抜かれた。
あるものは魔法の軌道を追い、あるものは真正面から魔法を打ち消して見せる。
そして、
「なん......だと......」
全員、その光線に周囲を囲まれてしまった。
建物の屋上から降り注ぐ光線の束は一人一人の周辺をしっかりと囲み、光の牢獄を作り出す。
触れたものは肉を焼かれ、抉られる。
横から聞こえてくる悲鳴に視線をずらせば、檻を出ようとした仲間の腕が真っ黒な炭と変わっていく姿。
動けるわけがなかった。
「ち、失敗か......。」
「俺は反対したぞ!」
「......割りにあわなすぎだ。」
「誰だ、この化け物屋敷を案山子と言ったのは。」
口々に軽口や不満を漏らす不審者達。
これから何が起きるかわからない恐怖が彼等を追い詰めていたのだ。
パンッ
突如響いた音に、そっちを見る不審者達。
そしてギョっとする。
「はい、皆さんはサマル商会からの刺客さんですね? 捕らえさせてもらいます。」
そこに立っていたには十代にも満たないだろう子供だった。
後ろには数名の女が立っている。
「拒否は認めません。 ―――やれ。」
その言葉と同時に女達は散開し、不審者達一人一人になにやら押し付けていく。
バチィッと音がしたかと思うと、押し付けられたものは呻き声ひとつ出さずに崩れ落ちていく。
「はい、最後は貴方です。ではおやすみなさい。」
不審者達のリーダーをしていた男は理解した。
目の前にあったのはただのガキの道楽じゃない。
国家レベルの魔法防御と攻撃機能を兼ね備えた要塞だったのだと。
軽々しく少し多い金で引き受けた仕事とは思えないその難易度と危険性。
二つ返事で引き受けたのが間違いだった。
バチィッ
そして切符は切られてしまった。
もちろん片道。
命の保証はなし。
拷問も無いとは言い切れない。
荒れた仕事はこういう最後もあり得る。
覚悟はしていたが、それでも穏やかに死にたかった。
薄れ行く意識の中、男はそう後悔したのだった。
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