狂科学者、世界を学ぶ。
立って歩けるようになったお祝いに貰った本―――実際には百科事典に近い―――を抱えて部屋に帰還したハルトは早速本を開いて頭から読み始めた。
この世界は漢字がなくて平仮名だけで表記するようで微妙に読みにくいが、全くの別言語と言う訳ではない、というかまんま平仮名なのでそこら辺は安心できる。
寝る時間までガッツリ読んでいたら、大まかに次のようなことが分かった。
この世界にある魔法は火水土風雷無の六属性に分かれる。
魔法の属性には個人によって適性があるが、全員純粋な魔力を用いる無属性は使える。
使える魔法は属性の適性と個人差のある魔力量によって決まる。
魔力を流すことで魔法の発動を代行する魔道具と言うのもあり、それらは魔力を込めたペンで魔方陣を刻むことによって作られる。
身分があり、上から王族と貴族、平民と奴隷といった順番。
体内に魔石を持つ魔物と呼ばれるモンスターがいる。
地球にはない未知の鉱石がある。
金属加工は全て人力で鍛冶師が行う。
錬金術師がいて魔物などの素材や鉱物を魔術的に加工している。
化合物などの概念は錬金術関係で少し知られている程度。
その他もろもろはだいたい地球の中世辺りと同等。
遺伝子などの概念は皆無。
トイレットペーパーがない。代わりに紙が使われているが地味に高いし時には葉っぱで拭く。
......といった感じだ。
ぶっちゃけて言えば、
最悪である。
錬金術で多少は加工技術が高いのにも拘わらず、道具すら発達していない。これでは研究を始める以前にまず実験道具を作り出すことから始めなければいけない。
錬金術も物質を魔法で加工するから完全に個人頼みの手工業による生産体制になっている。これでは道具を駆使して量産するという概念があるのかも怪しい。
魔道具という作業の代行役がいるというのにこの体たらく、信じられないぜ。全力で楽をしようと思った奴はいないのか? みんなワーカーホリックなのか?
ま、そんなどうしようもない世界だからこそ俺が送り込まれたというのもあるんだろうが、もう少しましな世界であってほしかった。
だが、女神の人選は正しかった。
医師免許を持っていて生物学を修め、地球の化学知識と工業的技術のほとんどを記憶し、プログラムや電子工学も理解している完全理系知識バカ野郎の俺は最適だ。
仕方ない、俺が短い前世のほとんど全てを注ぎ込んで覚えたこの知識で革命を起こしてやる。
ニュートン? アインシュタイン? そんな過去の御歴々よりも遥かに早い技術革新が必要だ。俺の執念なめんなよ。
とりあえずは自由にできる場所、金、人材、物資をそろえるぞ。
それさえあればまずはなんとかなる。