狂科学者、トレーニングをする。
「いや~魔石の充填屋、大当たりだったね。」
「はい、まさか一週間で十万レア溜まるとは......思いませんでした。」
ハルトは今、助手のミリアと休憩ついでに雑談をしていた。
ちょっと前に開店した『充填屋』。これが凄いのだ。
魔力量に限りある魔法使いが一日数回だけ、少し時間をかけて行う魔力充填を安く、無制限に、高回転で行えるのだ。
日光がない日も前日までに予備の魔石へ溜め込んだ分を放出すれば数日間は営業ができる。
その魅力は街の需要の大部分を潤した。
そしてその需要は元手が日光のみで人件費以外が純利益となるため、俺の懐もガンガン潤っている。
ちなみに十万レアというのは普通にしていれば数年は遊んで暮らせる額だ。日本円に換算すると大体100万円。日給十四万円とか前世でも結構稼げている方だ。
だが、
「次何しよう......。」
資金の目処はある程度ついた。しかしそれを消費するための研究は何をするか。多すぎて選べない。
予算獲得と同じくらい難しい問題だな。
「ふむう......なあミリア?」
「なんでしょうか? 所長。」
「この世の中で力有る者って何を求めていると思う? 何か答えて?」
ミリアの意見に委ねることとしよう。
「何を求めている......ですか......。」
む~と唸り、弾き出された答えは、
「勝ち取る力、ですかね?」
おお、意外と高度な答えだ。
力、力かぁ......。
確かにこの世界は弱肉強食だ。純粋に武力を持つものが力を持ち、持たないものは虐げられる傾向にある。前世の中世あたりもそんな感じはあったが、こちらは絶対的な強さの指標、魔力があるからもっと過激だ。魔力が多いものは個人で国家戦力並みの力を振るえ、少ないものは搾取される。そこにはシロナガスクジラとミジンコレベルの絶対的な差があるため、極端な話、国を潰す力を持ったやつに法なんて関係ないのだ。
俺だっていつか誰かの恨みを買って拉致、殺害される可能性が大いにあるし、ましてや街道にも魔物や盗賊が出るから尚更だ。
戦闘力があることは正義なのだ。
俺は研究者だしいらない何てあまっちょろいことを言っていたら野望達成の前に死ぬ可能性が高い。
ではどうするか。
答えは一つ。
鍛えるしかねぇ!
俺は頭脳派なのでそんな脳筋っぽいやり方は好かないが、やるしかない。
幸いなことに俺は女神からもらった限界なしに成長を続ける体がある。使わない手はないな。
しかし時間は取りたくない。
ではどうするか。
簡単だ。
使用者の魔力を吸収し続けてそれをあらゆる動作へかける負荷に変換する魔道具を作れば良い。
魔力が増えればさらに負荷が上がる仕組みにすれば肉体と魔力を同時に鍛えられる。
最近仕入れた魔法陣の本に拘束系統の奴が載っていたし魔力変換効率を下げつつそれを少し応用すれば......
「よしできた。」
外見はシンプルなカーボリウムの腕輪だ。内側に魔力吸収と拘束の魔法陣が刻んである。
日常的に使うのだから丈夫な方が良いからな。
最近資金に余裕があるし、奮発した。
早速それをカチッとはめれば、
「ぐ......。」
まるで全身の筋肉が鉛になったかのように重くなる。
指先を動かすのさえ緩慢だ。
ついでに魔力欠乏の怠さまである。
はっきり言って無茶苦茶だるい。
病院でリハビリする人の辛さがよく判るな。
しかし俺には高速で適応できる超回復がある。
自由に動けるまで少しの辛抱だ。
こうしてハルトの血が滲むようなトレーニングは始まった。
面白い! 続きが気になる! という方はぜひブックマークと下の☆をクリックお願いします。
感想、気になった点、世間話、その他ありましたら是非書いてください。




