狂科学者、助手と昼食をとる。
「なあメアリー?」
「何ですか所長?」
俺はふと頭に浮かんだ疑問を助手に投げ掛けた。
「一般的に魔石の魔力充填はどうしているんだ?」
「魔石の充填ですか? 魔法使いが商売や小遣い稼ぎに露店でやっていますよ。」
そうなのか。
俺は自前の魔力が豊富にあるから気付かなかったが、そういう需要もありそうだな。
格安でやれば薄利多売の精神で庶民を味方にできる。
そう気付いた俺は発電機ならぬ発魔機を作ってみようと思い立った。
そして何かしらのエネルギーを魔力に高効率で変換する方法を考え始める。
まずは魔力を生み出す元手となるエネルギーを決める必要がある。
熱エネルギー、分子間力、運動エネルギー等々世界には様々なエネルギーが循環し、満ちているが、この中世モドキの世界観で最も手に入りやすいのは熱エネルギーだ。
これは燃料を燃やしても太陽光を集めても簡単に手にはいる。かつ他のエネルギーに最も変換しやすい柔軟なエネルギーだ。効率は少しばかり悪いけどな。
さて、利用するエネルギーが決まればあとは変換する方法だけ。
これには結構心当たりがある。
そう、魔水だ。
魔水は加熱するか魔力を込めると気化する性質がある。
その瞬間を鑑定眼で様々な視点から観察、分析し、研究した時に気づいたことがあるのだが、魔水は溶け込んだ魔石の分子が魔力を水分子の運動エネルギーに変換することで気化するのだ。
つまり液体に熱を加えることとほとんど同じ手順を踏んでいる。
じゃあ逆ができてもおかしくないと思わないか?
冷蔵庫が内部の熱を冷媒で奪い取り、強制的に圧縮することで液化させ、熱を外に逃がすことと同じだ。
魔水に熱を加えた後、気化した水分子から運動エネルギーを魔力で放出させればいい。
その方法にも当てがある。
要は冷却するのだ。
水属性でも基本的な冷却魔法陣を少し弄って魔力変換されたあと無駄に失われる魔力を回収すれば良い。
さて、ごく数分で組み上がった理論を検証しようとするか。
魔法陣を刻み込んだ巨大な密閉容器に魔水を入れ、バッテリーの魔石と接続。
野外実験場で比較的力のあるリエラの助けを借りながら大きな炉に容器を固定する。
最後に炉へ燃料を入れて火をつける。
初動の魔力を魔石に入れればおしまいだ。
「そろそろ昼だし、いい天気だ。ここで昼食にしよう。」
炉の火の番もかねて俺がそう提案すれば、メアリー達が人数分の椅子と料理、テーブルを運んでくる。
食事は研究所に完備されたキッチンでメアリー達が当番制で作っている。
今日の昼御飯は保存の利く黒パンと具沢山のスープ、生野菜のサラダだ。
今世では生野菜は腹を壊すためタブーだが、この研究所のキッチンには滅菌、洗浄の魔道具が備え付けられているので問題ない。
黒パンは硬いが、噛めなくはないので慣れれば何てことはない。少し酸っぱいのがクセになるぞ。
この世界の野菜も細胞の基本構造が同じせいなのか、地球の野菜とほとんど同じものが多い。名前が違うだけだ。
「いや~奴隷になった時にはこんなうまい飯が食えるようになるとは思わなかったぜ。」
と腹ペコキャラのリエラがこぼす。
この世界で奴隷は主人と同じものを食べない。
よく残飯とかが回されるらしい。
下手すればほとんど食わせてもらえない可能性もある。
そんななかで十分な予算をもらえ、自由に材料を吟味して飯を作り、食えるのは破格の待遇だと言っても良い。
まあ飯が満足に食えなくてモチベーションが下がるのは俺が困る。
つっても俺が研究者だった頃は主食がカロリーバーで副菜がゼリー飲料だったわけだが、あれは旨いから良いのだ。
人のことは言えないが、不健康になられて労働力にならないのも問題だしな。
五人でわいわい昼食を摂り、片付けを終えた俺は早速魔石を見に行った。
鑑定眼で軽く見れば見える実験結果は、
「おっ上手くいったか。」
成功だった。




