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狂科学者は勅令を発する

 超音速飛行により数日かけて移動する距離を踏破したハルト達。


 彼等が歩く先には、あまり発展しているとは言い難い、土が剥き出しの道に、まあまあ頑丈そうな木製の柵。

 そこから覗く家は、石造りで、大体一階建てだ。


 都市部から離れているので当然なのかもしれないが、生活環境の落差に僅かな衝撃を受ける。



 一方でユアは知っているのか、特に反応はない。


 ニコラ商会の努力によって魔道具が安くなったとはいえ、まあまあ高いしな。

 そこまで劇的な変化は起きないか。



 

 まあ、そんなことはもう関係ない。



 そう思い直し、踏み固められた道を歩み、堂々と木製のアーチを潜る。







 どうせこの村はこれから変わらざるを得ないのだ。

 過去を気にしていても仕方ない。

 すぐに気にも止められなくなるだろうしな。





 ****




 


 

 「数日前からこの地の領主となった。ハルト・サイバストルという。この村より出された嘆願書について聞きたいことがある。今すぐ代表者を出せ。」

 


 ボロい正門らしき木造のアーチを潜り、領主の証を提示して、そう大きめの声で言い放つハルト。


 「「「「「……。」」」」」 


 だが、己の外見がただの身なりのよい美少年で、ユアもまた美少女でしか無いという事をハルトは忘れていた。

 

 そして突き刺さってくる、何だこの坊主と言わんばかりの胡乱げな視線。



 それにややイラッとしたハルトは、押さえ込んでいる魔力を一瞬だけ解放する。


 「「「「「!?」」」」」



 すると、背中から吹き出す嫌な汗と強烈な生存本能の警鐘に回れ右をする村人達。

 彼らは一目散に彼らの代表者を呼びに行ったのであった。

 








 「ようこそいらっしゃいました。御領主様。……本日はどのような御用件で?」


 村人を威圧して数十秒後、全力ダッシュで、脂汗を額ににじませ、それでも笑顔は必死で取り繕いながら駆け寄ってくる老人。

 これが村の代表者らしい。

 意外と早く出てきたな。

 

 

 「税率軽減の嘆願書を送ったのはこの村で間違い無いな?」


 「左様でごぜえます。」

 へへぇっと言い出しそうな、とても卑屈な笑顔でそう肯定する代表者。

 代表というには威厳がない。

 まあこの世界では一般的な村長なのかも知れないが……

 寧ろ街の路地でたむろしてるチンピラのような感じがする。


 何でこんなのが代表なんだかよくわからんが、……まあそんなのはどうでも良いか。





 「で、何故税率軽減の嘆願書を寄越したのか、理由を言ってみろ。場合によっては考える。」


 場合によらなくても考えるがな。

 既にこの村の未来は確定している。




 「それが……」





 ****



  

 「ほう……で、規定通りの納税ができない……と。」


 どうもゴブリンとか言う人型の魔物に農作物を荒らされたそうだ。



 ゴブリン


 俺が現状知っている知識の範囲では……小さく獰猛でやや肉食よりの雑食な道具を使う社会性のサルというのが最も近い。

 と言っても都市部ではほぼ出ないので、都市の外へ出たことがほとんどない俺は一回も見たことないがな。

 物語にはよく出てくるし、この世界の英雄譚の序章あたりで少年の主人公がよく狩っているが……その程度だ。

 ちょっとした害獣で、数匹なら普通の大人でも対処でき、素材もあまり使えそうではなかった為気にも止めていなかったが……農村部ではたまに繁殖しすぎた結果食料が足りなくなった奴らが畑を荒らすらしい。


 「へえ……その通りで。」


 


 ふむ……



 取り敢えず真偽の確認だな。




 あれで行くか。

 その前に……




 「確かこの付近に町や村は無かったよな?」

 「……? へえ……そうでごぜえますが……?」



 「現在この村で外出している者は?」

 「誰もいねぇです。」



 おお、好都合だ。



 「ならば話は簡単だ。とっとと駆除するとしよう。……と、その前に条件がある。」

 「?」

 「この後俺がこの村にすることを全て受け入れよ。対価として適切な労働と報酬を与える。」


 「はあ……そうでごぜえますか?」



 キョトンとした顔をしている村長。

 余り状況判断能力は高くないらしい。


 そこら辺から教育しないといけないのかと思うとやや億劫だが、まあ……今は好都合だ。



 「絶対に飢えることはないと約束しよう」 

 「本当でぇ!?」


 驚きの余り丁寧語を忘れる村長。

 飯さえ食えればそれでいいとか……満足の閾値が低いな。

 誘導が簡単でこっちとしては助かるが。



 「その前にここの住人を納得させてこい。後今日一日は絶対に村の外へ出るな。」


 少し腹黒いことを考えながら指示を出すハルトに、へへぇーと言って走り去る村長。



 さて、俺も仕事をするか。

 ユアと一緒に村の外に出て、適度に距離を取る。



 「ねえハル君。」

 「ん?」

 「あれ……使うの?」

 「そうだが?」


 それがどうしたんだ? ってあ……!



 「『アレ(殺戮機獣)』は慣れないか?」

 「うん……。」



 そうだった。

 ユアは蜘蛛系の造形が苦手だったんだった。


 しかし……

 「『アレ(殺戮機獣)』は結構便利だからな……」


 特にこう言う人海戦術系の作業にはな。


 「今回は我慢してくれ。今度お前が直視できるデザインを一緒に考えてやる。」

 『アレ(殺戮機獣)』の半分くらいは俺のロマンだからな。余裕はある。

 「……わかった。」




 渋々だが納得してくれたようなので、サクッと目的のデータファイルを数個ダウンロード、出力する。

 

 『地表探査』


 『範囲指定』


 『原料収集開始』


 『魔力炉建設開始』


 『光魔変換素子配列完了』


 『擬似本能処理ユニット完成』


 『配線完了』


 『魔力供給開始』


 『「殺戮機獣(スロータービースト)」生成開始』


 『骨格生成完了』


 『筋組織生成完了』


 『配線完了』


 『全機体接続完了』


 『魔力供給開始』


 『画像データ「ゴブリン」検索』


 『排除対象学習完了』


 『活動領域設定完了』


 

 ハルトの魔力が渦巻き、光が地面を穿つ。

 地中から材料元素が収集され、魔法生物によって指定した座標まで輸送、施設を構築していく。


 村の周囲には放射状に光の柱が立ち、真っ白く細長い、機械仕掛けの獣が生まれていく。


 それらは全て己の四つの目で創造主たるハルトの方向を見つめ、勅令を請う。


 中央に居るのは数百の視線を一身に受けるハルト。

 

 そして、



 「行け。」



 

 ゴブリンの殱滅()()は始まったのであった。

 

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