狂科学者は指名される
一通りの近況を話し終え、職員が入れた紅茶に口をつける男女。
「......あっ! そうだ、ハル君?」
何かを思い出したらしく声を上げるユア。
「何だ?」
「あのね......ハル君ってまだ学園所属でしょ? 授業は免除されているけど。」
「そうだな。」
一応俺はまだ学生だ。
まあ、名誉職的な位置づけとはなっているが。
ただでさえ俺があそこに居て学べる事はほとんどなかったのだ。
それが突然貴族になった。
それも最高位の。
ここまで来るともう訳がわからん。
教員は俺にどう接すれば良いかわからずストレス溜めるだろうし、一般生徒は勿論、俺も鬱陶しい。
よってあのヘタレ学園長の提案により、俺は実質的に自由の身となっているわけだ。
それにしてもあのロリBBA、いつになったら叔父さんとくっつくのやら。
ま、俺は関係ないけどな。
「で......それがどうかしたか?」
「えっと......毎年恒例の交流試合、あれには出てくれるのか? って聞くように言われたの。」
「あー」
それか。
「......別に出るぞ。その程度。」
あちらにも面子はあるだろうしな。
俺が出れば後数年は向こうの国への威圧となるのだ。
おそらく俺の席が学園に残っている理由の大半はこれだろう。
好き勝手に利用されているようで腹が立たなくもないが......この程度で怒るほど俺は子供ではない。
しかし......
「ユア、お前は出ないのか?」
「え?」
「別に俺が出なくても、今のお前が出れば負ける事はないだろう?」
今のユアは俺と同じ『超回復』を保有している。
その恩恵は当然だが凄まじく、肉体は鋭い刃物でも通らなくなる程頑丈になるし、それに付随する身体能力や魔力の増加も言うまでもない。
それで常人の域を出ない輩に負けるわけがなく、勝てば良いのであれば別に俺でなくても問題ないはずなのだ。
そう思って質問をしてみたのだが、
「えっと......。」
何やら逡巡している様子のユア。
それを見て余計気になってしまうハルト。
「どうした? 言いたくないか?」
「ううん! ......そうじゃないの。」
「......? 話してくれるか?」
食い気味に否定するユアにやや驚きながらも返すハルト。
それにやや躊躇いながら、だがしっかりとこちらを見据えて口を開き、
「......陛下が教えてくださったんだけど......前の交流試合の後、エルドルリア国王が指名してきたらしいの。」
―――ハル君を来年の試合にも出すようにって―――
そう打ち明けたのであった。
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