狂科学者は無力感を覚える
着地の衝撃が地面を走り、土が周囲へ弾け飛ぶ。
風圧が土を巻き上げ、土埃と泥に汚れた種籾が宙を舞う。
顔が土で汚れ、口の中がじゃりじゃりする。
地面が想定よりもずっと柔らかかったことに驚いたのか前を見るユア。
「......ハル君?」
そして息を呑んだ。
目の前にいる逢いたかった男が自分の知らない表情を浮かべていることに不安を抱いたのだ。
冷静で、でも優しくて、どこか達観したような、それでいて何かを強く渇望している。
いつもはそんな表情のハルト。
しかし今の顔はどうだろうか。
怒っているような、泣きそうな顔。
しかしそれらの感情も超える無の表情。
「ユア。」
唐突な呼びかけに、ビクリと跳ねる細い肩。
いつの間にか俯いていた顔を恐る恐る上げ、その表情を伺う。
そこには、
「......まあ、色々言いたい事はあるが......。」
呆れたような、
でもどこか暖かい、
「取り敢えず......屋敷まで付いて来い。先ずは湯浴みして汚れを落とすのが先決だ。」
俺もお前も泥だらけだからな。
いつも通りの表情のハルトがいたのであった。
****
バスローブを纏い、向き合って座る男女。
「......で、何か申し開きはあるか?」
「......ごめんなさい。」
「許す。」
「......え?」
あまりの簡潔さに面食らうユア。
それを見て、
「......何だ? もしかして......怒って欲しかったのか?」
もしかしてそういう性癖が?
と一瞬考えてしまうハルト。
「ううん......その、怒ってるかなって......」
ああ、
「気にするな。あそこにお前がわかるようマーカーを置いておかなかったのは俺の責任だ。」
俺以外何も目に入らなかったのだろう。
あれは上空から見ればただの土が露出した場所だしな。
こいつの性質については流石の俺も学習したのでその程度は予想がつく。
まあ......そもそも怒りが湧く間もないほどいきなりだったしな。
どちらかと言えば茫然としていた。
若干だが怒りも湧いたし、
無力さも味わったが。
涙がちょちょ切れそうになったのは多分気のせいだ。
人が死んだわけでもなければ大金が飛んだわけでもない。
種籾の値段など高が知れているしな。
俺の魔力も有り余っている。
少々の時間以外の損失は皆無なのだ。
ここで怒ってしまう程俺は短気ではないし、狭量でもない。
相手は幼馴染のユアだ。
ここで関係を変に拗らせるのもアレだしな。
「......まあ、これはここまでにするとして、......今日はどうした? 随分と急いで来たみたいだが。」
「学園が休みに入って、お父さんの許可も貰ったから、遊びに来た。」
そう言えばもうそんな時期だな。
てか、
遊びに来たであの速度か。
「......次からはもっと落ち着いて来るように。別に俺は逃げん。」
「うん! 努力する!」
「はあ......」
間違いなく努力しないのだろうということだけは分かった。
全く、親の顔が見てみたいな......って公爵だな。
あの娘大好き親父なら仕方ないか。
......実際の所は公爵よりもハルトがそばにいる時間の方が長かったため、その性格を形作っている大部分はハルトとの記憶が影響しているのだが、そこは華麗に無視していくハルトであった。
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