狂科学者の畑作り
『......そういうことで頼む。金は俺の貯金から引いといて。』
『ちょっと待て。』
『ん?』
『息子が大出世したのだ。ここは私が払ってやる。』
おお、親父が太っ腹だ。
金を出してくれるならありがたく受け取っておこう。
『わかった。ありがとうな、親父。』
『何、可愛い息子の為だ......私にできる事はこれ位だしな、気にするな。』
じゃ、と通信を切るハルト。
これで施設拡張用の資源の目処はついた。
次は、
......っと、その前に、
「おい、N-02。何人か集めてカプセルを全て運び込め。場所は......わかるな?」
「わかりました。」
「順番も間違えるなよ。」
「はいっ!」
そうしてバタバタと走り去っていく職員を尻目に大量の紙を運んでくるハルト。
それらを台の上におき、
「『テンプレートNo.1転写』」
そう言えば数秒で完了する印刷。
全ての紙に黒い線が引かれ、内容を分類するための区分けが行われる。
それの上にメモを張り付け、近くにいた職員に領主館に居る代官であるボルグへ届けるように指示を出す。
その後、一つの大きな袋を抱え施設の外に出て、歩くこと数十分。
「......ここらだな。」
『試験型大規模農場選択』
『インストール』
瞬間、ハルトを中心に迸る魔力。
風が吹き荒れ、地面が震える。
虹色の光が地表を這い地形を編集していく。
地面が隆起し、崩れた。
自動で耕され、柔らかくなった土中に大気から固定された窒素化合物が生成され、草原が肥沃な畑へと変わっていく。
そこに、
「それッ!」
という掛け声とともに畑の上空へとぶちまけられる袋の中身。
それらを良く見れば、茶色く、繊維質の殻を被った種籾。
ハルトは麦の種籾をばらまいていた。
重力にしたがい、無秩序に地面へと落ち行く種籾達。
しかしハルトが更に魔力を込めれば、虹色に輝き、不自然な軌道で規則正しく並び、土に埋まる。
柔らかい土は種を受け止め、その全てを優しく覆い隠す。
最後の一粒まで無事植えられたのを確認し、魔力の放出を止めるハルト。
そして予定通りに進んでいる計画にほくそ笑む。
しかし、次の瞬間その笑みは崩れ去った。
慌てて上空を見上げるハルト。
そこには、
「ハルくーん!」
将来を約束した幼馴染み、ユア。
彼女が満面の笑みでダイブしようと上空高く跳び上がった、その姿があった。
思考停止すること約三秒。
たった三秒だが、それは悲劇をもたらすのに十分すぎる時間であった。
本人に悪気はなかったのだろう。
ただ愛する男の腕の中へと飛び込みたかっただけなのだろう。
しかし、不幸と言うものは往々にして突然やって来るものである。
着地するユア。
吹き飛ぶふかふかに耕された土と種籾。
ユアの笑顔。
そして、
「え......ちょぉぉぉぉぃ!?」
ハルトの奇声が響き渡ったのであった。
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