狂科学者、魔石を埋め込む。
「これからよろしくな。」
と挨拶するハルトの目の前には小さな檻が一つ。
中身はお馴染みドブネズミ。
モルデモート三世だ。
二世があっさり逝ったため、新しい奴を仕入れたのである。
一世はまだ元気一杯に生きている。腕が六本ぐらいになったし。そろそろ生身の手足は切り落とすか。
そんな物騒な思考を続けながら、慣れた手付きで密閉容器に三世とジエチルエーテルの染み込んだ綿を放り込む。
パタッと三世が気絶すれば取り出してネズミサイズの手術台に固定し、胸を切り開く。
そして心臓付近にピンセットで捩じ込まれる魔鼠の魔石。
「水よ、対象を巡りて、修復せよ。」
何事も無かったかのように綺麗に塞がる傷痕。
そして世界二番目の頑丈さを誇るカーボリウム製の檻に移される三世。
ハルトの目はこれから出る結果への期待で血走っていた。
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この実験はハルトの思い付きから始まった。
魔物は魔石と言う鉱物質の魔力貯蔵器官がある。
では、
「魔石をただの生き物に埋め込んだらどうなるんだ?」
叔父の義手作りで稼いだ金は唸るほど残っていたため、資金を気にする必要もなく必要なものもすぐに揃った。
少し高かったが、結果がわからないので安全確保のためにカーボリウムインゴットも購入した。
グラム単価が5000レアとか頭おかしいと思う。
今回の実験は魔物でない生物に魔石を移殖したら魔物になるのかならないのか、生き続けるのか死ぬのか、何らかの能力を獲得するのか、という内容だ。
魔物はネズミでも力が強いし、強力な魔法とかも使ってくるのでなかなか油断ならない。
なので可愛そうだが暴れたら感電するカーボリウム製の檻に入ってもらった。
......お?
三世の魔力が増えたな。
米粒からドングリくらいになったぞ。
魔力の大きさは目に魔力を込めると心臓付近に見える光の大きさで大体わかる。
絶対でないのは隠蔽する技術があるからだ。
成人の平均が全身を覆うか覆わないかぐらいなのに対し、超回復で増え続けている俺はドラゴン一頭レベルらしい。
叔父さんによるとかなり異常らしいが、俺からは全体を目視出来ないので漠然とした大きさ以外よくわからん。叔父さんは牛二頭分位あった。最近は意識して気配を圧縮し、隠蔽している。
色も個人によって才能のバランスがあるから大体の属性がわかるのだ。
ちなみに俺は全属性で虹色だ。
魔物も種族固有の能力を持っている。
ドラゴンの場合は飛行とブレス、魔鼠は前歯がバカ硬い等、種族のアドバンテージを活かすようなものが多い。
まあ魔鼠は能力のエネルギー源である魔力がドングリ並みの大きさのため、大して強くはないけどな。
時々初歩的な魔法も使ってくるらしいから用心は必要だ。
ピクリと動く三世。
あ、起き
「ギシャァァァァッ!」
......ネズミですらなくなったのか?
鳴き声が完全に捕食者のそれなんだが。
一応姿形はネズミだし、目の色が魔物特有の金色に薄く輝いている。
特徴からして無事に魔鼠になったらしい。
取り敢えず実験の成功を確認した俺は、追加で六世まで購入し、魔鼠以外の魔石もいくつか試した。
だがその全てが変異した直後に、全身の毛穴から血を吹き出して絶命してしまった。
原因は魔力が多すぎて耐えられなかったものと思われる。
新たに七世を購入して魔鼠サイズに割った魔石の破片を埋め込んだら無事魔鼠に変異したのである。
そしてどうやら生命力も大幅に上がるようだ。薬物試験をしても次の日にはピンピンとしている。
一応苦しんではいるけど。
マッドサイエンティストの目はそれを見逃さない。
それは生き延びてしまった二匹に最悪の運命を課した。
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「今日はテトロドトキシン、いってみよう!」
「「......。」」プルプル
三世と七世は今日もマッドな実験に付き合わされている。




