狂科学者、女神様とお話する
「ストレスは溜まってません!!」
おお、そうなのか。だんまりだったからてっきり疲れているのかと。
「疲れてもいません!! 神様なので疲れるわけがありません!!」
―――貴方が私を放置して後ろを向きながら思考の海へ没頭していたからイラッとしただけです!―――
だそうだ。ちゃんとストレスあるじゃん。
ところで、
「新手の詐欺師か?」
自分から神様を名乗るなんて斬新な詐欺師だな。どこぞの偶像崇拝を禁止にしている過激派たちに殺られていないだけすごいと思う。
......いや、まだ始めたばかりというのもあり得る。だとするとこの自信満々な演技は才能か?
「詐欺師じゃないです!!」
「じゃあ何なんだ?」
「神様です!!」
「やっぱ詐欺師じゃないか。俺は無神論者なのでお引き取りください。」
「......。」
あ、また沈黙した。
そろそろやめるか。
「からかわないでください。もうっ!!」
まあさっきから俺の思考を読み取っているし、薄々感じてはいたが、
これ、少なくとも人類ではないな。
マジで神様らしい。
「悪い悪い、ちょっと反応を見ていたんだ。で、その神様(仮)がこのしがない研究者に何の用だ?」
「(仮)は余計ですっ!!」
「わかったわかった。で、何の用?」
「......はあ、まず十六夜春さん、あなたは先程亡くなりました。」
「あ、そうなんだ。」
頭打って死んだとか人体はやっぱり脆いな。やはり強化の余地ありだ。俺は正しかった。
「って反応薄っ!!??」
「いやだって......。」
ジジイ共の頭が固いせいで実験の許可はおろか予算は降りてこないし?
周りからは変な奴って気味悪がられていたし?
カフェイン大量摂取と連徹続きで全身ボロボロだし?
実験できないから楽しくないし?
そこまでお金があったわけでもないし?
年齢=彼女いない歴の童貞だし?
両親も就職して早々にくたばったし?
結果的にそこまで未練はない。
「荒んでいますね......って何ですかこの脳みそ!!?? ボロボロじゃないですか!!??」
あ、やっぱり? というかそこまでわかるんだ。
「どんだけ徹夜したんですか......」
合計すると......
「二年分くらい?」
あ、神様が頭抱えている。なんかプレミアム感があるな。
「......はあ、春さん、あなたこのまま生きていたら数年以内に脳機能障害で意識不明ですよ?」
おお、死んでよかった。生きていたら本当に無能な社会のゴミになるところだった。
「なんで喜んでいるんですか......」
だってそうなったらただの肉塊になるわけで、俺の意識はそこに無いし。
「あ、そろそろ本題に入ってほしいんだけど。」
「あっそうですね。えっとですねぇ―――
ちょっと管理している世界の一つ、―――ディケムというらしい―――で地球で言う第三次世界大戦的なのが起きて文明が崩壊した。
じきに文明がまた再生すると思いきや、技術革新が全然起こらずに中世の初期レベルで千年程文明が停滞している。
なのでそれを進めさせる起爆剤として地球を含むいくつかの世界から数人天才を見繕ってみた。
しかしほとんどが有名になってそれぞれの文明の未来に関わってくる人材だったため影響を懸念して断念。
―――そこで特に注目もされていなくて、予算もらえなくて腐っていて、でも実力はばっちりの春さんが死ぬのを待っていたわけです。」
へえ、俺って天才だったんだ。確かに大学は首席で卒業したが......俺が天才ねえ......神様、才能の振り分け方、間違えたんじゃないの?
......お? ちょっと待てよ?
「つまり好き勝手に研究してもいいと?」
「話が早くて助かります。とりあえず研究の成果を表にある程度流してくれればいい感じに世界を刺激できますので。」
「あ、でも動きにくかったり死にやすかったりは御免だぞ? 初手から詰んでいたらどうしようもない。」
「こちらとしてもあなた一人を何回も転生させるのは手間なので、少しばかり生きやすいように特典はつけます。あと出生は調整しておきますからそこらへんも安心してください。スラム生まれはないですよ。」
「というと?」
「これから転生してもらう世界は全ての生物が体内に魔力を持っているので、それに付随した特殊技能......そちらの世界で言う超能力の類いをいくつか習得した状態で転生してもらいます。あと、なくても問題はないのですがデフォルトで全属性の素養は付いてます。」
「それはありがたい。」
魔法か、非常に興味をそそられるな。
「ではどんな能力が欲しいですか?」
そうだなぁ
一応技術的な革命を起こせばいいんだから......
「じゃあ見知った物の詳細や特徴、用法を知ることができる能力。あるか?」
「鑑定眼の最上位ですね、アカシックレコードから限定的にですが情報を引き出すことができます。」
「あとは......とりあえず死ににくくなる能力。能力を成長させられる類いで。」
「超回復ですね。存在値の概念を適用して鍛錬に伴う肉体の成長限界を外し、生命力を大幅に引き上げて病気とか中毒や軽い怪我はすぐに治ります。」
「じゃあそれで頼む。」
「意外と欲がないんですね? 最強の力とかありますよ? 絶対に死なない身体とか。」
「……最強の力とは随分曖昧な表現だな。それに俺がしたいのは研究だ。知識と不眠不休の研究と現地の環境に耐えうる体さえあれば文句なしだ。」
さっき死んだのも睡眠を必要とした俺自身が悪い。
「そうですか。それでは、世界のことよろしくお願いしますね。」
「おう、頼まれたぜ。」
「二度目の人生、楽しんでください。そして存分にかきまわしてくださいね。では」
そう言って女神が春に手をかざすと、春の体はどんどん光に代わっていき、そして消えた。